Chapter 2-(3) 変わらないもの
「そうか、それで拓斗君は……変わっちゃったんだ」
一通り宮葉家に起きた出来事を聞いた苺は顔を下に向けた。悠馬たちと最後に会った夏から、苺の思っていた以上のことが宮葉家では起こっていたようだ。あの優しい悠馬たちのお父さんが手を出すにまで荒れることを想像するのは難しかった。でも今こうして宮葉家が分裂しているのは事実なわけで。
苺にも若干の違和感はあった。拓斗が不良のように振舞っているのは、どうも思春期だからというわけではないように見えていた。だから根本的な彼の姿が変わっていないと思ったのだ。
「別に拓斗のせいじゃないんだけどね。何もできなかったって本人は凄く気にしてて……」
だから拓斗は強くなるために夜の街を出歩くようになった。悠馬は知らない世界だったが、それなりに発展した市内では学生内の喧嘩沙汰もたびたび起きている。そこに飛び込んで行った拓斗は、中学生になった辺りから家にいる時間が極端に減った。家に帰らない理由を知っていた悠馬は、拓斗に気にしないように何度も言ったが、それに納得してくれることはなかった。一度決めた、強くなって家族を守るという目標。それを曲げることは絶対にしたくなかったのだろう。
そんな拓斗に追い打ちをかけたのが先日の出来事だった。羽花を守ろうと絡んできた不良たちに立ち向かったが、当の羽花は怖くて泣いてしまっていた。守ると決めたはずだったのに、結局はお父さんが荒れたときと同じように羽花は涙を流した。
それは自分がやってきたことを、現実に真向から否定されたようなものだった。だから拓斗はあれほどに落ち込んでいたのだろう。
悠馬は拓斗が体調を崩しているのも、精神的なものからだと考えている。怖い人たちに囲まれて、小さな女の子が泣く。整理して言葉にしてみると当たり前のことだが、拓斗にとっては当たり前ではなかった。いや、自分が避けさせてやるつもりだった当たり前なのかもしれない。
「あはは、何か拓斗君らしいね。やっぱり大事なところは変わっていないんじゃん」
「大事なところ?」
「やり方は間違っているって言う人が多いと思うけど、根本には家族のことがあるわけで。そこを守り通したかったから拓斗君も頑なに悠馬君の言うこと聞かなかったんでしょ?」
「まあ、拓斗は一度決めたら突き進み続けるような奴ではあるけど」
「可愛いものじゃん。みんなを守りたいから一つのことやり続けるなんて。まあ、私は違う方法をおすすめするけど」
「はは……できれば俺も違う方法を勧めたいな」
「警察に呼ばれる悠馬君の苦労は考えないんだね、拓斗君」
「……真っ直ぐな奴だから」
「今、必死で言葉を探したね?」
そんなことを言って二人は目を合わせ、ふっと笑った。終盤は振り回してくる拓斗の愚痴にもなっていたが、それも彼に対する愛情表現だ。
悠馬は話している間に随分と心が軽くなっていた。今の拓斗を全面否定せず、事情を理解してくれる苺の存在が大きかったようだ。
「拓斗君の気持ち、分からないでもないからね。自分が何かできなかったとき、次はできるようにしたいじゃん?」
その言葉は、苺だから言えるものだっただろう。幼い頃に母親を亡くした苺は、長く自分の責任だと感じていた。そこから脱却したい気持ちは、状況は違えど重なる部分がある。
「行動できるだけでいいんだよ。あれこれ考えているのと、考え無しに行動するのとでは、課題を見つけるスピードは全然違うからね」
「そうだね。今は拓斗が最大の課題にぶつかったってことか」
「それを支えるのが、悠馬君だぜ!」
苺はグッと親指を立てた。その明るい姿に、悠馬はホッと胸を撫で下ろして表情を緩めた。
「ありがとう、苺ちゃん。凄く楽になった」
「話してみるのもありでしょ?」
「ありだね」
苺に話してみたことによって、悠馬が今何をすべきなのかが見えてきた。まだそれは薄く靄がかかっているけど、進むべき道は徐々に見え始めてきた。
今日は結希から口うるさく絶対安静を言い渡されていた拓斗。その彼に、帰ったらしっかり話し合おう。そう誓った悠馬は、丁寧に弁当箱を布で包み込んだ。だんだんお母さんの味に似てきたおかずの入っていた、その弁当の箱を。




