番外編② 佐々木苺のクリスマス
十二月二十四日。今日の京安駅前はいつもと雰囲気が違う。色とりどりのイルミネーションにサンタクロースの装いをしたケーキを売る若者。楽しそうに手を繋いで歩く家族連れ。ぴったりと密着する恋人同士。痛くなるような寒さも忘れて、あらゆるところに笑顔が零れている。
そんな中、佐々木苺は一人で京安市内で最も大きいショッピングモールへと向かっていた。
「はあ……今年も一人かあ……」
普段は一人で街を歩くなど気にもしないが、さすがにクリスマスという特別な日に一人で買い物は寂しいものがあった。
だが、彼氏がいないのであれば仕方のないことだ。苺の今日の目的は、父親へのクリスマスプレゼントだった。母親が亡くなってからというものの、男手一つで育ててきてくれたことに対する感謝がある。父親は仕事が農業で、なかなか街に出る機会はないため、京安で何かを買おうと決めて苺は街に出てきた。
「とは言っても、何が喜ばれるか分からないしなあ……」
苺の中で父親へプレゼントをした記憶は全くなかった。毎年クリスマスと言えば、嬉しそうに父がケーキを買ってきて、寝ている間に枕元にプレゼントが置いてあるものだった。結局は、貰ってばかりなのがクリスマスだったのだ。
考えてみても案は思い浮かばなかった。娘にはあまり自分というものを出さない父親だから、いつでも笑っている一面しか知らない。家族としては少し寂しくも感じた。
「ケーキだけのクリスマスは味気ないしなあ……」
歩いていた途中、電飾で輝くケーキ屋の前を通った。生クリームで作られたお城のようなケーキがいくつもショーケースに並んでいる。その前では、予約をしに来た親子連れが楽しそうにチラシのケーキを選んでいた。
その姿に少し懐かしさを覚えた。昔はよく母親とケーキを選んだものだった。名前の通り、小さい頃から苺が大好きで、とにかく苺が多く乗ったケーキをいつも選んでいた。
「あれ? 苺ちゃん?」
と、その風景に懐かしさを感じていると、後方から男性の声がかけられた。声の主はいつもとは身なりの違う、黒いコートを羽織った悠馬だった。
「悠馬君!? 何でここに……」
「結希と羽花のためにプレゼントを買いに。ほら、二人はまだサンタさん信じてるから」
ああ、そうか。苺はあまりに当たり前のことを答えられて足元をすくわれたような気持ちになった。悠馬たちの両親が姿を消してから初めてのクリスマスなのだ。そうなれば、自然と悠馬がサンタクロースの役を買って出ることになるだろう。
「まあ、あとケーキの下見? ってところかな。苺ちゃんは?」
「私はお父さんの……」
言いかけたところで、苺はハッと思いついた。その次には悠馬の手をガシッと両手で掴み、顔の前まで持ち上げる。
「悠馬君、時間ある?」
「ん、まあ……。今日は結希も羽花も友達の家にお邪魔してるし、夕方くらいまでなら」
「じゃあさ、私の買い物に付き合ってよ!」
苺は目を輝かせて言った。父親へのプレゼントを悩んでいたから、同じ男性の悠馬の意見はとても参考になる――。という建て前で悠馬とデートをすることができる。苺にとっては一石二鳥だった。
「ああ、いいよ。俺も結希とか羽花に何を買っていいか分からないし、苺ちゃんからアドバイス貰えるなら心強いし」
「決まりだね! じゃあ……」
と、苺は目の先にあったショッピングモールの方を指さした。大体のものが揃っているため、買い物という点では最適な場所だろう。
悠馬と苺は並んでショッピングモールを目指した。
☆ ☆ ☆
ショッピングモールで苺の父、そして結希と羽花へのプレゼントを選んだ。苺はお父さんに黒色が基調のジャケットを購入した。悠馬は苺の助言を頼りに、結希には大きなウサギのぬいぐるみを、羽花には以前から欲しいと言っていた魔法少女リーラのステッキを買った。
「いや~、苺ちゃんのおかげですんなり買えたよ」
「それは良かった」
満足気にウサギのぬいぐるみを背負う悠馬がニッと笑う。
苺は少し照れながら目を逸らして、自分が手に提げている紙袋を見た。悠馬が一緒に選んでくれたジャケット。二人とも意見が一致して買ったものが、少し嬉しく感じた。
「苺ちゃんはもう帰るの?」
「うん」
本当はもっと悠馬といたいところだったが、橋森までの電車は本数が少なく、夜になるとすぐに終電が来てしまう。帰れなくなっては元も子もないため、苺は帰らざるを得なかった。
とはいえ、こうして悠馬と二人でいる時間というのはなかなか無く、それが実現しただけでも満足していた。
「そっか……」
と、悠馬は持っていた手提げ袋をゴソゴソと探っていた。そして何かを掴み取ると、苺に差し出した。
「何これ?」
「今日のお礼兼クリスマスプレゼント」
出されたのは毛がふわふわの糸で作られた熊のストラップだった。可愛いタッチの絵で描かれた顔はにっこりと微笑んでいる。
「こんなもので悪いんだけどね。買い物付き合ってくれたし、せっかくならと思って」
思いもよらぬことで苺は少し呆気に取られていた。毛の素材からして、結希へのプレゼントを買った店のものであった。自分の知らないうちに買っていたのだ。
「ありがとう……」
胸の奥がキュッと締め付けられた。昔から計算なしでこういうことをするのが悠馬だった。そこが苺は半端なくずるく感じ、そして嬉しく思った。
「大切にする」
必死に顔を引き締めようとするが、すぐに緩んでしまう。こうなってしまっては、人間はどうすることもできないらしい。
苺は丁寧にストラップを鞄にしまった。
やがて店から出ると、辺りはすっかり暗くなっていて、イルミネーションが点灯し始めていた。
「じゃあ、私はここで。もう終電が出そう」
「お、それは大変だな。ごめんね、長く付き合わせて」
「いいのいいの。元はと言えばこっちから誘ったんだし」
チラッと苺はストラップを入れた鞄を見やった。
「本当にありがとう。楽しかった!」
はっきりと通る声で苺は言い、悠馬に背を向けて走り出した。感慨にふけっていては、本当に終電を逃してしまいそうだった。
走っているときも苺はニヤニヤを止めることができなかった。自分でも可笑しいくらい、プレゼントに喜んでいた。
「クリスマス、悪くないな~!」
そう小声でつぶやき、心の中では大声で叫んでいた。




