Ep.10『恋』
コクシはティールと少し話し合い、今後の生活についての細かい条件を決められた。
・コクシが『使用人』兼『便利屋』の仕事で得た収入は、九分九厘が借金返済に充てられるものとする
・借金返済の期限はコクシの怪我が完治してからの三年間とし、もし期間内に借金返済が間に合わなかった場合、その時点でコクシの生殺与奪の権はティールが持つものとする
・コクシは働く間、ティールの家で住み込みで働く
・ティールはコクシに寝る場所と三食を保証する
などなど......ほかにもいくつか項目があるがあるが、多いのでここでは割愛しよう。
そして肝心の仕事内容はというと――
「簡単に言えば、炊事・掃除・洗濯・身の回りの雑務の家事全般だよ。詳しいことは追々説明するから、コクシはその傷を治して早く治療費返せ」
「ちなみ、借金を返せなかった場合俺はどうなるんだ?」
「もちろん借金の形に売り飛ばすけど、安心しろ。もし売られるのが嫌ならそのときは生きたまま魔獣の餌にしてやるから......それから」
そんな恐ろしいやり取りを交わしている内に、突然おもむろにティールが立ち上がった。
ティールは部屋の隅に備え付けられた年季の入った本棚へ向かい、そこから六冊の分厚い書物と、三冊程度の色褪せた絵本を取りだした。
それらを両手で抱えふらふらとした不安定な足取りの中、彼女はそれらをベットに取り付けられた机へ、いっそ机を叩き潰すほどの勢いでそれらの書物を置く。
「コクシはどうせこれから暇になるだろうし、これ読んで常識の一つや二つを身に着けといてくれ。それじゃ、また後で」
そして「やっと終わった......」と疲労困憊といった様子でぼそり呟き、ティールはこちらに背を向け、扉にぎぎぃぃと悲鳴を上げさせながら足早に部屋から退出した。
扉が占められると同時に、コクシはティールと話をしているときから上げていた上半身をベットに投げ出し、マシュマロのように柔らかいベッドを全身で堪能する。
そして、ようやく話が終わったという解放感と、今後の生活に対する言いようのない不安感が心に渦巻いてきた。
その感情から少しでも逃れようとベットに顔を埋め寝ようとしたが、なぜかティールの姿や自分に見せた表情が浮き上がってきた。
胸が息苦しい程ドキドキして来た。恥ずかしいのか、怖ろしいのか、愛おしいのか、又は悲しいのか。
それがいったい如何なるものに起因する感情なのかは分からず、自然と頬が紅色に火照り、正体不明な感情に身悶えすることとなった。
眼を固く瞑りそれを頭から必死に振り払おうしたが、その行為が無駄であることをコクシは自覚していた。
――後に残されたのはなぜか恋煩いをした債務者と、いまにも耳鳴りのしてきそうな静寂だけだった。




