Ep.9『コクシの運命やいかに』
「――おい。話、まだ終わってないんだけど」
「へ?」
返しようのない程の莫大な借金が存在することを告げられ、いっそ首を括ってやろうかと真面目に検討していたコクシに、ティールはまだ話を続けようとしていた。
これ以上何の話が残っているのだ、と沈む心の中で大いにコクシは困惑する。
しかし彼女はそんなコクシの心情を欠片も気にすることなく、まったくやれやれだぜ、といった風に首をゆるゆると揺らし、なぜかジト目でこちらを見つめながら話を切り出した。
「君はこの借金をどうやって返すつもりなんだい?」
「――――」
どういう訳かいままで不思議なほど思い当たらなかったが、考えてみれば当然のことだった。
当たり前の話だが、借金は返す必要のあるものなのだ。
今のコクシは、それをどういった手段で自分に返済するのかを宣告する義務がある。
だから、
「じ、地道に働いて返しま――」
「何年かかると思ってるんだ? 断っておくが、私は一生をかけて返済するだなんて馬鹿みたいに時間のかかるものは許さないからな。きっかり期限を決める」
「っていうか第一、文字が読めなくてまともな常識も知らなければ学もない、そのうえ取柄らしい取柄もなさそうな君が、どこか適当なところで雇ってもらえるとでも思っているのかい? もしそう考えてるなら甘いすぎる。吐き気を催すほど甘い」
ティールはコクシの主張を丁寧丁寧丁寧に否定し、考えの足りなさを容赦なく指摘する。
しかし、自身が働くことが困難ならばいったいどう借金を返せばいいのだ。
まさか内臓や血液を売り飛ばすのではないかと嫌なものが浮かび上がる。
もしそうなら売るのは腎臓や眼球、あるいは肝臓か金玉にしてほしい。最悪、一つでもなんとかなる。
微妙に常人からずれている思考を続けるコクシに、言葉が投げかけられる。
「安心しろ、売り飛ばすのは期限切れのときだ。期限内に返してもらうならどんな手段を使ってもかまわない」
「すげぇ、びっくりするぐらいなんも安心できねぇ!」
実質死刑宣告をされたのとそう大差ない言葉を受け、思わずコクシは感想を口に出す。
それを聞いたティールは、一々反応するなうっおとしい、と言わんばかりに盛大に舌打ちをした。
彼女はがりがりと神経質そうに頭を掻きながら、
「......さっきも言ったけど、多分君はまともに働けないだろう。だから――」
そこまで言って、ティールは少し目を瞑り呼吸を整えた。
そして意を決したように口を開き、
「コクシは私のところで『使用人』兼『便利屋』として働いてもらうよ。期限は三年間。それまでに借金二千万サースを返済できなければ......」
「借金の形に売り飛ばされる...ってコト!?」
「そのとーり......あぁ、分かっているだろうけど、拒否権はないよ。まぁ精々奴隷みたく働いてくれ」
ティールが告げたのは、他のところでは働けないであろうコクシを、自分のところ雇うという提案。つまり――無情にもコクシは、異世界に来て早々奴隷堕ちする羽目になったのだった。




