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【完結・BL】転校生に学年トップを奪われたから弱みを握ろうと友達のフリして近付いたらとんでもない修羅場が待っていた  作者: ルー
【後編 / 02】 蛹室にて

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 薄明るい光で目が覚めた。うっすらと目を開く。

 頬に当たる布団の感触に、んん、と小さな声が漏れた。


 カーテンの隙間から、光が薄く差し込んでいる。どうやら、ベッドに突っ伏して眠ってしまったようだ。無理な体勢で寝たせいで身体が痛い。

 ゆっくりと身を起こす。いてて、とつぶやいて、伸びをしようとして。


「あ……」


 ベッドで身を起こしている三島と、目が合った。

 三島は静かな目で、じっと俺を見つめていた。硝子レンズを通さない、名前のない宝石みたいな眼差しが、なにか不思議な静謐を湛えて俺を捉えている。


「えっと……おはよう」


 とりあえず挨拶する。三島は返事をしなかった。ただ、見たこともないほど静かな表情で、俺のことを見ているだけだ。


「どうしたんだよ。もしかして、具合──」


 とっさに頭の怪我を気にした。だが三島はゆるく首を振る。そして、すっと手を伸ばして、俺の指先に触れた。

 ぴくっ、と思わず手を引こうとする。反射的な動作だった。いつもの〝ちょっかい〟だと思ったのだ。


 だが、俺の反応に、三島はかすかに眉根を寄せて、耐えるような表情をするだけだった。

 なんとなく拍子抜けして、俺はすとんと力を抜く。

 三島の手が、そっと俺の手を取った。そのまま、ゆっくりと持ち上げられる。


 三島の両手が、俺の手を掬うように握った。不思議なくらい静かな表情、それがほんのかすか、本当にわからないくらいかすかに、歪む。


「三島……?」

「……っ」


 なにか俺にはわからないものを湛えた瞳が、静かに閉じられて。震える呼吸が三島の口からこぼれる。細くて長い、たよりない息。


 ゆっくりと俯いた三島の額に、俺の手の甲がそっと押し当てられた。祈るような仕草だった。俺の手を捉えた指先は、力なんてほとんど入っていなくて、震えていた。


「……んで」

「三島?」


 消え入りそうな声に問いかける。三島は俺の手を額に押し付けたまま、ささやいた。


「ずっと、ここにいたのか」

「ああ」

「一晩中?」

「そうだ」

「なんで」

「六時間は様子見るって、言ったろ」

「……った、けど……」


 三島の語尾が震えて、消えていく。俺を握った手に、かすかに力がこもる。丸くなった背、俺なんかの手に祈るみたいにすがって、三島がバカ、と小さくつぶやく。


「おまえ、そんな、俺……ほしくない」


 支離滅裂な言葉だった。たどたどしくて、ほとんど片言みたいで、それは確かに、かつての三島の喋り方だった。

 じん、と胸の底が切なくなった。懺悔みたいにいらない、と繰り返す三島が、痛ましくて悲しかった。


「俺、俺が、ほしいのは──」

「三島」

 空いた方の手で、ぐっと肩を引き寄せる。それ以上なにも言ってほしくなくて、丸い頭を胸元に押し付けた。

 三島は小さく震えて、息を殺して「いやだ」と小さく言う。ますます強く押し付ける。


「何度だって言う。俺はおまえの思うようにはならない」

「いくじなし」

「それでもいい」

「終わらせてくれ」

「嫌だ」


 駄々っ子のような問答に、三島はぐず、と鼻を鳴らす。「嫌なんだ」と涙まじりの声。


「もうこんな風に生きていたくない」

「俺だってそうだ」

「だったら」

「それでも。俺はおまえの思うようには、ならないんだ。絶対に」

「……っ」


 腕の中で、三島がかすかに身をよじった。きつく抱く俺の腕を振りほどいて、どん、と胸元を突き飛ばされる。


「三島」

「もう、触るな……」


 痛いから、と言う声。それが身体の痛みを示しているのか、それとも別の場所のことなのか、俺にはわからなかった。三島がつぶやく。


「俺たちは友達だ。俺は──おまえを信じてる」


 懸命に、言い聞かせるような言葉だった。俺は「ちがう」とはっきり言う。


「俺たちは、最初から友達じゃない」

「……っ」


 うなだれて、肩を落とした三島が「うそだ」と絞り出した。「嘘じゃない」と繰り返す。俺の胸に押し当てられた両手が、ゆっくりと垂れていった。


「……それでも、俺は、宗像がいい」

「終わらせる人間が?」


 こくりとうなずく。絶望的なため息が落ちる。

 そんなこと絶対にしたくない。俺はおまえの思い通りにはならない。言いたい言葉はいくらでもあった。でもこれ以上はなにを言っても平行線だ。


 気持ちを切り替え、布団の上に落ちてしまった手を軽く握る。「なあ」と呼びかけた。


「学校、行けそうか」

「……行ける」

「よし。なら、支度するぞ」


 話は終わり、という空気をにじませる。三島は諦めたような息を吐いて「わかった」とつぶやいた。

 座りっぱなしだった椅子から立ち上がり、窓に歩み寄る。カーテンを開ける。


 しゃっ、という音とともに、まだ抜けきらない空梅雨の光が、あいまいに部屋を照らし出した。

 ゆるゆると顔を上げた三島が、まぶしげに目を細めた。




 

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