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「しかし、今さらながら七不思議の調査とはねえ……」
今俺たちがいるのは学園の旧校舎。設備の増改築が激しい晴嵐学園だが、この旧校舎は晴嵐学園発展の礎となった職業訓練高校時代の姿をほぼそのまま残している。
本校舎から少し離れた旧校舎はほぼ記念館のような扱いであり、学園の古い備品なんかが置いてあるだけで訪れる生徒や教師はほとんどいない。
七不思議もこの旧校舎を中心に存在しており、俺たち調査団はわざわざこの陰鬱な雰囲気漂う場所を訪れているのであった。
「なんですか? 本当に今さらですね」
軋む廊下を歩きながら呆れたかのうように桐花は振り返った。
「いやだってよー、俺たちもう高校生だぜ?」
「はあ」
「小学生の時ならともかくよ、この年になって七不思議なんかで一喜一憂するのもどうかと思わねえか?」
「まあ……確かに」
「それをわざわざ調査って……今は令和だぜ? 科学万歳のこのご時世に幽霊も怪談も子供騙しとしか思えねえよ」
やれやれと首を振る。
「……あの」
すると桐花がいきなり立ち止まった。ぶつかりそうになったので慌てて足を止める。
「なんだよ」
危ないな、こんな薄暗い中だと本当にぶつかっちまうぞ?
「なんでさっきから私の後ろを歩いているんですか?」
「……。」
目をそらす。
「……何言ってんだ。お前は今回リポーターだろ? 主役を差し置いて前を歩けねえよ」
そうだ、俺はあくまで賑やかし。ガヤが前に出てどうする。
「あと、制服がシワになるので掴まないで欲しいんですけど」
「安心しろ、アイロンがけは得意だと自負している」
なんならクリーニング代を出しても良い。
「吉岡さん……」
「な、なんだその目は! 俺は別にオバケなんか怖くないぞ!!」
「あっ、あそこにろくろっ首が!!」
「ひいっ!! ごめんなさいごめんなさい!! 調子に乗ってすいませんでした!!!」
「吉岡……さん……!」
桐花は信じられないようなものを見る目で俺を見つめてくる。
「冗談ですよね!? そんなでかい図体してオバケが怖いなんて! ていうか、今時ろくろっ首なんかじゃ子供だって怖がりませんよ!」
ろくろっ首舐めんなっ!! あいつらは人を食い殺すこともあるとんでもなく凶悪な妖怪なんだぞ!!
「どうしたんですか? そんなんじゃ学園一の不良の名が泣きますよ?」
戸惑いながらも、桐花の声色は俺を気遣うように優しい。
「……見たことがあるんだ」
「へ?」
「ガキの頃、ジイちゃんの田舎の山の中で、明かにこの世のものではない化け物を……!」
「いやいや、そんなまさか……」
忘れもしない、決して入るなと言われた山の中で見た、この世の全てを恨むかのような禍々しいあの目を。
「面白そうね、話してくれない?」
興味津々と言った様子で神楽坂先輩はこちらを向く、百目鬼先輩もカメラを向けてくるが、黙って首を横に振る。あんなものとても俺の口からは言えない。
あの後山を必死で降り、泣きながらジイちゃんのところへ着くと、普段温厚な爺ちゃんが見せたこともないような表情で俺の肩を掴み、ガンガン揺らしたのだ。
『あの山に入ったな!! 一体あの山で何を見たぁ!!』
そのあとの事はよく覚えていない、ジイちゃんの家の蔵みたいなところで大勢の大人に囲まれ呪文のようなものを唱えられていた気がするのだが……
とにかく、あの出来事がトラウマになり幽霊や妖怪の類に滅法弱くなってしまったのだ。……妖怪○ォッチもダメだった。
「それにしてもその怖がり方は過剰な気が……」
「お前はアレを見たことがないから言えるんだ!!この世の悪意を全部煮詰めたようなあの……」
「あっ、あんなところに血塗れの女が!!」
「唵! 阿謨伽! 尾盧左曩! 摩訶母捺囉! 麼抳! 鉢納麼! 入嚩攞! 鉢囉韈哆野! 吽!!」
立ち去れ悪霊よっ! 消え去れぃっ!!
「……なんですそれ?」
「魔除けの経文、ジイちゃんに習って死ぬ気で覚えた……」
桐花が心の底から憐むような目で俺を見つめ、ため息をつく。
「そんなに怖いなら着いてこなくてよかったのに……」
「馬鹿野郎! 夜の校舎に女のお前1人でよこせるか!!」
「な、なっ! ……こんなところで変な男気見せないでくださいよ……」
ああ怖いよ、怖いよ! トラウマが蘇る……!
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