↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/62

4

「さて、ここが目的地よ」


 薄暗く不気味な廊下を歩き続けてたどり着いた先は、さらに不気味な場所であった。


「ここは……理科室でしょうか?」

「ええ、正確には理科準備室ね」


 今は使われていないとのことだったが、室内は意外にも整っていた。


 埃のかぶったガラス棚の中には、見たこともないような実験器具が保管されており、薬品庫には厳重に鍵がかけられている。


 雑多なイメージのあった準備室は小綺麗に整頓されており、そこだけを見れば七不思議の存在など感じられない。


 しかしそんな準備室の中で明確なまでに不気味な存在があった。


 取り立てて恐ろしげな物のない準備室の中で、場違いなまでの存在感を放つ“それ”


 学校の怪談話の中では、定番とも言えるほどの登場頻度をほこる“それ”


 ガラスの檻に閉じ込められた“それ”の眼はうつろなまま、暗闇を見つめている。


 “それ”は人間の死の象徴そのもの。


 ガイコツだ。


「……骨格標本、じゃあこれが?」

「そう、七不思議その2、徘徊するガイコツよ」


 骸骨を中心に空気が一気に冷えたような気がした。



「…… 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中 無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界 乃至無意識界 無無明亦 無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽 無苦集滅道 無智亦無得 以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃 三世諸仏 依般若波羅蜜多故 得阿耨多羅三藐三菩提 故知般若波羅蜜多 是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪 能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪 即説呪日 羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」


「吉岡さん、魔除けはいいです」

「違う、これは心を落ち着かせる経文で、さっきのとは別物だ」

「……どっちにしろやめてください」


 落ち着けー、落ち着くんだ俺。こんなのただの作り物だ。


「あれ? ……これ」


 桐花が何かに気づいかのように声を上げる。


「これもしかして本物の人骨ですか?」

「ええそうよ」

「えっ!!???」


 本物!? 本物ってなんだよ! そんなの許されるのか!? ガイコツって要するに人間の死体じゃねえか! そんなの飾るって犯罪じゃねえのか!?


 パニックになる俺を尻目に、桐花と神楽坂先輩は話を進める。


「徘徊するガイコツでしたっけ? 大体想像はつきますが、どんな内容なんですか?」

「桐花さんの指摘のとおり、この骨格標本は本物の人骨が使われているわ。これがこの学園にやってきたのは今から50年以上前、職業訓練高校から私立の進学校へと経営方針を変えようとしていた時期よ」


 そう言いながら神楽坂先輩はガイコツに近づく。


「職業訓練高校で成功を収めた当時の学園には潤沢な資金があった。進学校へと姿を変えようとした時に教材として購入した物がこの本物の人骨を使った骨格標本なのよ」

「……なるほど、それでなぜ徘徊するなんて話が出てきたんでしょうか?」

「ここを見てもらえる」


 先輩に促され、桐花も骸骨に近づく。


「ほら、こことここの骨、ちょっと違うのがわかるかしら?」

「本当だ、大きさが微妙に違いますね」


 なんでそんな冷静でいられるんだこいつらは!! 本物のガイコツをじっくり観察するなんてどんな女子高生だ!!


「人間1人分の骨格標本を作るのって結構大変なのよ。折れていたり、紛失したりする場合もあるから。そんな時は他の遺体からパーツをかき集めてツギハギで作り上げるそうよ。そうやって複数の遺体から作られた骨格標本は、複数の思念がぐちゃぐちゃに混ざり合い、自分の骨を見つけるために夜な夜な彷徨い歩く……という話よ」

「ほう、それはまたベタな……いえ、王道な怪談ですね」


 だからなんでそんなに冷静でいられるんだ!!


「彷徨い歩くって、そんなわけないだろ!! デタラメだ!!」


 そうやって自分を誤魔化すように否定するが、ここでも冷静に桐花は指摘をしてきた。


「いえ、あながちデタラメではないかもしれませんよ?」

「……なんで?」

「ほらこのガラスケース、開くようになってますよね?」

「だから?」

「開いた時に地面の擦れた痕があるんですが、この傷、結構新しい物ですよ」

「……。」


 普段人が近付かない旧校舎の理科準備室に置かれているガイコツに用事のある人物なんているのだろうか?



「吉岡さん、何を貼ってるんですか?」

「お札、これでコイツを封印する」


 これ以上コイツをのさばらせてはいけない。


「全く……どこでそんなもん手に入れたんですか?」

「俺が作った」

「作った!!??」


 珍しく素っ頓狂な声をあげる桐花。


「え、嘘? 結構ガチっぽい見た目してますけど!?」

「見た目だけじゃないぞ、ジイちゃんに教わったガチもんだ」

「……オジイさん何者?」


 何してる人なんだろうな、あのジイちゃん。孫の俺にもわからん。



「ちなみに血で書くと効果は倍増するらしいぞ」

「……先に言っておきますけど、絶体にやらないでくださいよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。