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< 32 この世界に就任した神 十七柱目 09 冒険者ギルド誕生までのお話 08 >

< ブレナン視点 >


連絡の取れなくなった冒険者が多数居るとの報告を受けた。

「また、あの斡旋所の話か…。」

うんざりしながら、話を聞く。


「連絡の取れなくなった冒険者が多数居ます。評価の高い者ばかりです。」

「護衛の指名依頼が来たので連絡を取ろうとしたのですが、連絡が取れませんでした。」

「そんな者が大勢居ました。評価の高い者ばかりです。」

『冒険者と連絡が取れない』というのは、別に珍しい事ではないだろう。

危険な仕事なのだから、死んでしまったり、怪我で引退してしまったりして。

それに、仕事を斡旋しているだけで、その冒険者が所属している訳ではないのだ。

だから、居場所を把握していなくても当然だ。

しかし、『大勢の評価の高い者たちの居場所が分からない』というのは問題だ。

それも、指名依頼が来る様な者なら、尚更なおさらだ。

『逃げられた。』なんて噂が立ったら、斡旋所の評判ひょうばんを下げてしまう。

「以前は良かった。」なんて言われたくない。

奴より下に見られるなんて、認められない。

「探させろ。居場所を確認するんだ。」


後日。

「探させていた者たちが見付かりました。」と、報告を受けた。

「仕事で最後に派遣された街に、最初に人を派遣したのですが、ほとんどの者が最後に派遣された街に居ました。」

「最初に人を派遣した街でしたので、すぐに報告が返って来ました。」

簡単に発見できた事を喜ぶ。

だが、そんな事は、俺の前に来てまでする様な報告ではない。

嫌な予感がした。

報告の先をうながす。

「見付けた冒険者たちは、その街に在る別の組織に所属していて、街の治安維持の仕事をしていました。」

「その冒険者たちの全員に『この街に定住ていじゅうするつもりだ。』と、言われたとのことです。」

「………。」

思わず黙ってしまった。

全員だと。

それでは、護衛の仕事は?

斡旋所が回す護衛の仕事は?

斡旋所は、どうなるんだ?


それとは別の違和感も在る。

”冒険者”と”定住”という言葉は、あまり繋がらない。

冒険者は定住などしないから。

あちらこちらに移動しながら、護衛や討伐などの仕事をしている。

だから、何処どこかで悪い事をして追われても、他所よそに行けばいいだけ。

そんな者が多かったから”ならず者”なんて言われていたのだ。

最近の冒険者は、”ならず者”と呼ばれる事が無くなってきた。

斡旋所が出来てから、冒険者全体の評価が徐々に変わっていった結果だ。

冒険者が、他の一般人と同様に扱われる様に、徐々になっていった。

その結果として、定住を望む冒険者が出て来た。

いや、『定住を認められる様になった。』と言うのが、より正確か。

冒険者を見る周囲の目は、それほどまでに変わってきていた。


報告に来たそいつは、まだ報告する事が有る様だ。

言いにくそうな、言いたくなさそうな表情をして立っている。

嫌な予感がするが、先をうながした。

俺にとって、聞きたくない報告だった。

所属している組織の名は、『クレイトン護衛会』。

街の治安維持の仕事を専門にしている組織だそうだ。

引き抜かれたのか! 奴に!

「くそっ!」

奴に怒りがこみ上げる。

「ふざけやがって!」

今度は、我々が引き抜く!

すぐに人を派遣した。


数日後、あの件の報告が来た。

聞かなくても、表情を見れば分かる。

上手くいかなかったのだろう。

報告を聞いた。

俺の想像を超えて悪い報告だった。

冒険者たちは本気で定住する気だった。

『付き合っている恋人が居る。』、『以前よりも安全な仕事だ。』、『街の人たちに受け入れらている。』、『家は領主が用意してくれた。』

そんな事を言われたとのことだ。

気になるモノがあった。

領主が家を与えた?

領兵扱いなのか?

いや、仕事中に死んでしまった場合、その後に費用が掛からない分、冒険者の方が都合が良いのか。

所属は、奴の組織なのだしな。

奴は、領主に金を払わせて、冒険者たちを働かせているのか。

クレイトンの奴め、上手い事やりやがって。

ムカついた。

さらに報告があった。

さらに悪い報告が。

「調査をしていた者が領兵りょうへいらえられました。5つの街で。全部で8名です。」

「釈放するのに補償金を要求されています。どういたしましょう?」

捕らえられる様な事をしたのか?

何をしたんだ?

「街の治安維持を担当している者を引き抜こうとした。『街と住人たちに対する敵対行為』とのことです。」

「なに? ただの冒険者……、ではなかったな…。」

そうか、家を与えられているのだったな。領主から。

ただの冒険者だと思っていた。

迂闊だった。失敗だった。

捕らえられた者たちを見捨てては、見限られてしまう。他の者たちからも。

「…補償金を支払って釈放させろ。」

「はい。」


困った。

評価の高い者たちを奪い返す方法を見付け出さないといけない。

移住させる…は、無理だな。

次は、接触しただけでも領兵につかまるかもしれない。

手を出せない。

ダメだ。

奪い返す方法なんて無い。



奴に冒険者を引き抜かれ、素材を買い取らされた。

一体いったい、奴は、いつから準備していたんだ?

我々は、奴の不意を突いたはずだ。

おかしい。

誰かが通じていたのか?

きっとそうだ。

調べさせよう。


おかしい。

奴の行動を調べさせたら、我々が行動を始めるずっと前から奴が行動していたことになってしまう。

そんな訳があるはずない。

我々の行動が読まれていた?

バカな。

店長が裏切る事を知っていた?

バカな。

裏切る事を知っていて店長にしたことになってしまう。

有り得ない。

前の店長が辞めた理由にも、不自然な点は無かった。

やるべき事をやり終えたら身を引くのは、この国では普通の事だ。

それが美徳とされているのだ。

奴も身を引く事を考えていた?

だから、斡旋所を大人おとしく手放した?

有り得ない。

この国で唯一無二の大きな斡旋所だぞ。独占状態なのだぞ。

それを手放すなんて、そんな者は商人では無い。

奴がそんな事をするとは思えない。

我々が奪う事を分かっていた?

有り得ない。

有り得ない、………はずだ。

そうとも。

そんなことは、有り得ない。

そうとも。

有り得ない…。


そんな………。

奴のてのひらの上で動いていただけなんて…。

そんな事…、認められる訳が…ない…。


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