< 30 この世界に就任した神 十七柱目 07 冒険者ギルド誕生までのお話 06 >
強い感情を持つ者は、利用し易い。
行動が読みやすいから。
その感情を刻み込んだ者にとって、これほど使い易い”駒”は、他に無いだろう。
支店が多くなり過ぎた。
急激に。
これでは、情報をやり取りするだけで膨大な費用が掛かってしまう。
費用が掛かり過ぎてしまう。
大きな組織だ。
だが、この国で唯一無二の組織だ。
これなら、この組織を欲しがる者に事欠かないだろう。
手放すなら、今だ。
普通に手放すだけでは面白くない。
奪わせる。
それが最善。
『騙された。』、『こんなはずではなかった。』なんて、文句を言わせない為に。
『助けてくれ。』なんて、言わせない為に。
私にすがるのが、”最後の手段”となる様に。
私が、より長く楽しむ為に。
彼が邪魔だ。
苦労を共にして組織を作り、育て上げた。
彼が、私から奪ってくれる訳が無い。
だから、邪魔だ。
だから、彼を追い出した。
少し情報を与えただけで、出ていってくれた。
始末した。
漏れてはいけない情報を知っていたから。
まとめて始末できた。
さらに、国王陛下から褒美を貰った。
すべて簡単だった。
行動が読み易いから。
新しい店長を迎えた。
彼なら私から奪ってくれる。
彼は、私を恨んでいるから。
そうなる様に、私がしたから。
その時が楽しみだ。
いや、その後も楽しみだ。
きっと、私を楽しませてくれるだろう。
奪われた。
ありがとう。
彼なら絶対にやってくれると思っていた。
いや。
彼なら絶対にやってくれると知っていた。
しかも、共犯者を五人も連れて来てくれた。
ありがとう。
私が思っていたよりも、ずっと美味しいエサに見えていた様だ。
美味しくなどないのに。
彼ら行動は、私が思っていたよりも少しだけ早かった。
そこだけは、少し驚いた。
でも、遅い。
こちらの準備は、既に終わっていた。
ありがとう。
決着が既についている勝負に乗ってくれて。
楽しみだ。
この後が本当に楽しみだ。
ありがとう。
こんな楽しみを私に与えてくれた彼に感謝しよう。
彼に出会わなければ、今の、この様な状況は起こり得なかった。
ありがとう。
私は彼に感謝しよう。
心から。
ありがとう。
彼も私に感謝しているだろう。
彼の夢を叶えたのだから。
彼と私の二人で。
< クレイブ視点 >
新しくなった『冒険者斡旋所』は順調だ。
素材の買い取り価格が上がった事で、冒険者たちが喜んでくれている。
連日、笑顔で沢山の素材を持ち込んで来る。
今まで、売る手間を惜しんでいたのだろう。
買い取り価格が安過ぎたから。
10日経った。
副店長のベイカーが、俺に言う。
「素材の買い取り価格を引き下げます。」
「…おい、まだ、あれからたったの10日だぞ。」
「素材が、こちらの予想を遥かに上回るほど大量に持ち込まれているのです。」
「確かに沢山の素材が持ち込まれているが…。五つも商会があるのだろう?」
「本当に予想以上なのです。このままでは買い取り資金が尽きてしまいます。既に追加の資金を出し渋る商会も出てきました。」
俺には納得できなかった。
以前の買い取り価格が安かったと思っているから。
冒険者たちの喜ぶ顔を沢山見たから。
ベイカーが、さらに言う。
「資金が尽きたら、買い取り自体が出来なくなります。そうなる前に手を打つ必要があります。」
買い取り価格の引き下げには、納得できない。
しかし、素材の買い取りが出来なくなったら問題だ。いや、大問題だ。
多少の妥協は、やむを得ないのか?
「…で、買い取り価格を、いくらに引き下げるんだ?」
聞かされた買取り価格は、以前よりも安い価格だった。
「は? そんなの了承できる訳ないだろう。」
「そうしないと資金が尽きてしまいます。素材を売却して資金を得る時間が足りないのです。予想を遥かに上回る大量の素材が持ち込まれて。」
「確かに大量の素材が持ち込まれているが…。」
一度、引き下げられた買い取り価格は、その後、どうなるのだろうか?
さらに、引き下げられていくなんて状況になるのではないか?
冒険者たちにそう思われて不安にさせない様に、すぐに買い取り価格を戻したい。
「買い取る為の資金が揃えば、今の買い取り価格に戻るのか?」
「正直、分かりません。すべての商会から、買い取り価格を元に戻すという同意を取り付ける時間的余裕が有るとも思えません。」
どうなっているんだ?
まだ10日しか経っていないというのに。
”時間的余裕”という言葉に引っかかったので、買い取り価格をどうするかは置いておいて、別の事を訊く。
「告知はどうするんだ? 買い取り価格の変更は、前もって告知したいんだが。」
「すぐに買い取り価格を下げさせてください。」
「バカな事を言うな! そんな事は出来ない! 最低でも一日前には告知しておくべきだ!」
「本当に、すぐにでも買い取り価格を引き下げたいんです。」
「森に行った冒険者が『帰って来たら買い取り価格が引き下げられていた。』なんて状況はダメだ。納得してもらえない。大問題になるぞ。」
「買い取り価格を引き下げないと、買い取り自体が出来なくなります。資金が尽きて! その方が大問題になります!」
「………。」
大変な事になった。
大問題だ。
本当に、大問題だ。
妥協をしないといけないのか?
しかし、本当に資金が尽きたのか?
奴の商会一つで賄えていたのだぞ。
買い取り価格を引き下げたいだけなんじゃないか?
コイツの言う事をすべて信じていいのか?
奴の商会一つで賄えていた事を、五つの商会で出来ないなんて事があるのか?
「資金が尽きそうになっているのは、一時的な事だよな? 短期間に大量の素材が持ち込まれたのが原因だよな?」
「ええ、そう聞いています。」
「では、一時的に買い取り価格を引き下げる。ただし、以前と同じ価格にだ。期間は20日間。その後は今の価格に戻す。」
「それと、買い取り価格を引き下げるのは、明日の昼からだ。告知の準備も必要だからな。他の支店は、報せを受け取ってから1日後だ。」
「これ以上の妥協はしないぞ。」
「…すぐにでも価格を引き下げたいのですっ。」
「お前が昨日の内に言っておけば良かっただけだ。そちら側のミスだ。」
「ただでさえ冒険者たちに迷惑を掛けるんだ。告知も無しに引き下げるなんて事は出来ない。」
「しかし…。」
「奴の商会一つでやっていた時でも、いきなり買い取り価格を引き下げるなんて事は無かったぞ。五つの商会が集まって、奴の一つの商会以下なのか? 違うだろう?」
「………。」
「告知は行う。以前の価格に引き下げ、期間は20日間。その後は今の価格に戻す。いいな?」
「………。」
ベイカーは出ていった。
返事は無かった。
自分の親分と他の商会のところに、お伺いに行くのだろう。
五つの商会が携わっているから大変なんだろうな。
しかし、なんなのだ? この状況は。
以前は、こんな問題が起きたことなど無かったはずだ。
奴の商会とだけ、やっていた時には。
…きっと、奴の部下たちが優秀だったのだろう。
混乱は一時的なものだろう。
きっとすぐに収まる。
そうとも。
きっとすぐに収まる。
俺は、自分にそう言い聞かせた。
自分の直感を信じたくなくて。




