< 14 この世界に就任した神 十二柱目 08 >
随分と長く、この世界で魔法を教えています。
”長く”とは言っても、人間の尺度での話ですが。
娘がベッドに横になっています。
娘と呼んでいますが、私の子供ではないのですけどね。
神は人の名を口にしません。
良くない事だと言われているからです。
だからずっと”娘”と呼んでいました。
その事について、深く考えた事はありませんでした。
今までは。
娘の人生が今日終わる事を、私は知っています。
神ですから。
知りたくもない事まで知る事が出来るなんて。
なんて神は万能ではないのでしょう。
ベッドサイドの椅子に座ります。
先ほどまで娘の娘が座っていた椅子です。
娘の娘には、少しだけ席を外してもらいました。神力を使って。
申し訳ない気持ちも有りますが、自分にはどうしようもありませんでした。
娘と目が合います。
こうして会うのは初めての事です。
小さい頃から知っている娘なのに。
長いこと、ずっと見守っていた娘なのに。
どう話し掛けて良いのか分かりません。
ただ、話し掛ける。
ただそれだけの簡単な事なのに。
私は神なのに。
「初めまし…て?」
長い沈黙の後、「何か言わなくては。」と思って何か言ったら、変な挨拶が口から出ていました。
娘にはほとんど時間が残っていないと分かっているのに、どうしようもないことで悩んだり、どうしようもないことを言ったり。
自分で自分に文句を言いたい気分です。
私は神なのに。
なんて神は万能ではないのでしょう。
「ふふふ。」
娘は笑います。
「えへへ。」
私も笑います。
困りました。
何を話していいのか、分かりません。
困りました。
そもそも、何でここに来たのかも、分かりません。
困りました。
困りました。
困りました。
「ありが…とう…。」
娘がそう言いました。
何のお礼を言われたのか、分かりませんでした。
小さい頃から知っている娘なのに。
長いこと、ずっとずっと見守っていた娘なのに。
私は神なのに。
「見守っていて…くれて…、ありがとう…。」
バレてしまいましたか。
今まで姿を見せた事は、一度も無かったのに。
この世界でも、夢の中でも。
ずっと姿を見せた事は無かったのに。
私は神なのに。
でも、私の姿を見て娘が気付いても当然かも知れません。
娘が笑顔なら、私も笑顔でした。
娘が泣けば、私も泣きました。
ずっと、ずっと、そうでした。
娘とは、ずっと心が繋がっていたのです。
そうです。
だから、娘が気付いていても当然ですね。
娘を見ます。
言葉が出てきません。
お話しがしたいのに、言葉が出てきません。
すぐそばに居るのに、言葉が出てきません。
もう時間が無いと分かっているのに、言葉が出てきません。
何か一言。
なのに言葉が出てきません。
娘の名すら。
何も言葉が出てきません。
私は神なのに。
こんな簡単な事も出来ないなんて。
こんなにも神は万能ではないなんて思いませんでした!
「ありがとう。」
娘はハッキリとそう言いました。
娘は笑顔です。
今まで沢山見てきた笑顔です。
私の大好きな笑顔です。
私の大好きな大好きな大好きな笑顔です。
娘が笑顔なら、私も笑顔でした。
娘が泣けば、私も泣きました。
私たちは、いつも一緒でした。
ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。
ずっと。ずっと。ずっと。ずっと。
最愛の娘の笑顔を見て。
私は泣きました。
娘の葬儀が行われました。
多くの方が参列してくれました。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
娘の遺体は、丁寧に墓地に埋葬されました。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
参列者たちが帰った後、周りを見渡します。
”街”の近くに在る良い墓地だとは思いますが、少々不安です。
以前はただの村だったここは、発展し続けて、今では街になっています。
立地が良いので、これからも街が大きくなり続けていく様に思います。
将来、この墓地が移転を強いられたりしてしまうかもしれません。
うん。
その様な事が無い場所に、娘のお墓を移そうと思います。
娘に静かに眠っていてもらえる様に。
ずっと静かに眠っていてもらえる様に。
しっかりと準備をしました。
今、私は、街を見下ろす山脈の峰の一つに居ます。
ここに娘と彼女の両親のお墓を移します。
元のお墓には、髪を一房残しておきました。
空にしてしまっては、お墓を訪れてくれた人たちに失礼ですからね。
娘のお墓を真ん中に。その両隣に両親のお墓を置きました。
周りに沢山の花を植えます。
そして結界を張ります。
永遠に残る様に。
誰にも触れられない様に。
しっかりと、今ある私の神力を、全力で使って。
ええ、これは私の我が儘です。
神だって我が儘したい時があるのです。
神は公平である必要なんてないのです。
だって、神は万能ではないのですから。




