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第16話 冒険の終わり

 ☆★☆★☆★☆




 深い海の底から浮上するような感覚。


 暗い世界からぼんやりと明るい世界へと浮上する。


 重圧から解放され体が弛んでいく。


 微睡みからゆっくりと意識が覚醒していく。


 うっすらと瞼を開くと見知らぬ天井が見える。ぼんやりと黄ばみや黒ずみが作る天井の模様を眺めていると、直ぐ近くで悲鳴が聞こえた。




「わぁー!ぅわあー!ちょっ、誰かー!」




 もの凄く取り乱している。ゆっくりと首を傾け、悲鳴の元を探してみる。


 尻尾を逆立て、慌てた様子の猫系獣人の女性がいる。両手で頭を抱え、うろうろしている。




「ティオ!何があった!」




 ドカンと音を響かせ扉を勢い良く開け放ち、部屋に入ってきたのは、同じく猫系獣人の男性。そっくりだが双子なのだろうか?




「ぅあう~う、はっ!ニオ!見て!目が開いてる!」




 片方が俺を指さし驚いている。もう片方は何やら叫びながら部屋を飛び出して行った。全く騒がしい二人だ。


 暫く、猫系獣人の女性のあたふたした声や音をBGMに、ぼうっと過ごしていると、また人が部屋に飛び込んできた。




「ノル!ノル!ノル!」

「ぁーあーうるさいよ。ちょっとボリューム下げてくれよ、フュー」




 フュー?誰だったか。自然と出てきたが目の前の女性の名前だっただろうか。




「ノル!」




 更に声のボリュームを上げた女性が飛び付いてきた。


 抱き止めようと思ったのだが、腕が動かなかった。なんだこれ?




「ノル!」

「ぁーあー分かったから。ちょっと記憶が混乱してるみたいなんだ。色々と教えてくれないか?」




 そこから半日くらい掛かっただろうか。途中、粥を食べさせて貰いながら、長い長い話を聞いた。



 オスター島での依頼を受けたところから物語は始まり、小鬼が砦を占拠していたこと、洞窟の大蛇を倒し拠点を築いたこと。


 竜の牙の話に鉄の扉の話。


 仲間の魔物化から、負傷した仲間のために、薬草を探し回ったこと。


 途中で魔物の大群を見つけ、急いで洞窟に戻ったこと。


 仲間の裏切りと魔力結晶。


 洞窟からの脱出劇。


 海岸での元仲間との戦闘。そこで俺が重傷を負ったこと。


 船で本島に戻ってからのこと。


 俺は治療を受けたが、1ヶ月も意識が戻らなかったこと。


 俺と同じように治療中の仲間があと二人いること。


 なんとなく、うっすらと、ぼんやりした記憶が蘇ってくるが、なんだか自分の記憶ではないような感覚だ。




「それで、俺の体が自由に動かないのだが、怪我が完治していないのか?」

「完治してる!リハビリが必要!」




 どうやら俺の記憶の中のフューと目の前のフューにはギャップがある。こんなにテンションの高い女性ではなかったと思うのだ。




「リハビリ?なぜ?」




 長いこと動かなかったために筋肉が固まってしまったらしい。これから数日はリハビリしながらゆっくりと体を動かしていくしかないらしい。




「フュー、こんなことを聞くのはあれだけど、俺とフューって恋人どうしだったりする?」




 目の前のフューは、プスッと蒸気を頭から噴き出し固まってしまう。隣では猫系獣人の女性がキャーキャー走り回っている。うん。記憶ではこんなに落ち着きのない猫系獣人の女性も出てこない。はぁ。一体、どうなっているのやら。




 あれから、数日。リハビリを続けながら、何とか歩いて外に出れるようになった。どうやら何処かの屋敷に泊まっていたようで、敷地内の中庭のような所を歩いている。柔らかい陽射しが気持ち良く、芝生に横になり昼寝をしたくなる。




「ノル、報告」

「ん?なに?」

「フェムが意識を戻した」




 フェムか。確か魔物化したが、俺が隷属させ、最後の海岸で一緒に戦ったんだったな。




「じゃあ、残るはオッタだけだな」

「うん」




 フェムとオッタは魔物化の治療で意識が戻らなくなったと聞いたが、意識が戻ったということは、魔物化が解けたのだろうか?




「フュー、フェムに会いに行ける?」

「うん。同じ屋敷にいるから。今から行く?」

「あぁ、行こう」




 フューに支えられながらゆっくりとフェムの元へ向かう。




「よう」

「やぁ、ノル。君が無事で良かったよ。フューも元気そうだな」




 意外としっかりしているフェムに驚きつつも、お互いの無事を讃えあった。それから、フューが俺にした説明よりももっと簡潔な説明をフェムにする。フェムは全てを理解しているようだ。更にその後の冒険者組合(ギルド)等の動きも報告していく。俺の時はなかった説明だ。


 フェムがリーダーをやっていた戦団・鉄の扉(アイアンゲート)は実質、活動を停止している。まぁ、リーダーがこの状況でサブリーダーのフューも俺らの看護に回っていたらそうなるよな。フューがサブリーダーだったのは初耳だけど。


 冒険者組合(ギルド)は大規模な調査隊を組んでオスター島の調査をしたらしい。調査隊が全員、魔物化対策として魔力循環の魔道具を所持していたのは、魔物化しなかった俺とフューの体質からヒントを得たらしい。


 で、肝心の調査結果だが、あの洞窟に魔力結晶があったこと、それが持ち出されたことが確認された。その結果、竜の牙の四人は指名手配されたとのことだ。



 それから数日後、オッタも無事に目を覚まし、魔物化から戻っていた。これで、セクスを除いた鉄の扉の面々が元に戻るかと思われたのだが、少々問題が発生している。




「俺達はあなたに命を救われた。だから、どこまでもあなたについて行きますよ」




 ニオ、ティオが鉄の扉を抜け、俺について来ると言う。俺は基本的に戦団は組まず、一人でやっているのだが。




「私、鉄の扉やめた。ノルと一緒に冒険するから」




 そしてフューもこんなことを言う。俺は意識の高い冒険者ではないし、特に目標も定めていない。とりあえずは落ちた体力を戻し、鈍った体を鍛え直そうと思ってるだけ。こんな俺についてきても何も面白くないと思うのだが。




「当面は体を鍛え直すだけだぜ?面白いこともないだろうし、特に目標もない。そんなんでも良いのか?」

「構わないよ。俺達はどこまでもついていく」

「うん、ついてく」

「私、色々教えてあげる」




 こんな俺だけど慕ってくれるって言うなら、やってみてもいいかもしれないな。




「ノル、特に目標ないなら、俺に付き合わないか?」




 そこに横からオッタが入ってくる。




「付き合う?」

「ああ。あいつらを探して借りを返したいんだ」

「あー、あいつらか。まぁ、俺も文句が言いたいしな。良いぜ。やろうか」




 こうして俺達の新たな冒険が始まることになったのだが、それはまた別の機会にでも話すこととしよう。




 ☆★☆★☆★☆





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