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fantasy love  作者: 朱希
6/6

ぱられるってあり? 3

「で、なんやかんやあって俺に何一つ言えなかったわけだ。」

「…ハイ」

「七緒君と俺の間ってそんな薄っぺらいもんだったわけ?」

「ちっちが!」

「七緒、足正座崩れてるぞ」

「…ハイ」






琴司が異変に気付いたのは七緒とanfangのコンサートへ行った後だった。

嬉しそうにほほ笑み、そう、最初の異変は良いものだった。

だからこそ琴司は何も触れなかったし、七緒が話してくれるのを待っていた。

しかし、ワイドショーに出た家を見た瞬間それが悪いものへと変わっていくのを感じた。

その日から学校に来なくなり、連絡も取れなくなった七緒に焦りが募る。






どうして何も言ってくれなかったのか。

自分は、七緒にとって自分とはなんだったのだろうか。







七緒のことを知っている琴司の両親もさすがにテレビで出た七緒家を心配するようになった頃、知らない携帯から電話がかかってきたのだ。

『もしもし、あの、俺…七緒だけど…』

驚きすぎて携帯を落としそうになるのを必死に抑えたのは言うまでもない。

こうして琴司は七緒の居場所を教えてもらいそのホテルへ駆けつけたのであった。

息を整える暇も与えずノックをして呼び出す。

ドアを開けた七緒の顔はどこかやつれていて、後悔を感じずにいられなかった。







自分があんなコンサートに連れて行ったから、こんなことになったのではないか。

彼には、彼にはもう悲しんでほしくないのに。








七緒には正座をさせ状況を聞く。

七緒の話を聞けば聞くほど、自分への苛立ちが募っていった。

そして冒頭に戻るのである。苛立ちがついつい七緒のへの態度にも出てしまっているのにまだまだ子供だと感じながら、それでも七緒への何も言ってもらえなかったことへの寂しさもあったのだ。それは態度に出てもいいだろうと勝手に納得する。

一緒にいた双子は琴司が買ってきた大好きなお菓子を食べて幸せそうに寝たところであった。

琴司はため息をつくと七緒をじっと見据えた。

「わりい。俺が、俺が行こうって言ったからだよな。」

「ちがっ!俺は、俺は最初から香南さんのこと」

「好きだったっていうのか?」

「っ…」

「確かに一目ぼれとか、運命だとか。そういう類の言葉はたくさんある。俺だって、そういうの信じてえって思ってるけど」

「…言いたいことはわかってる。俺も、いい加減冷めなきゃって思ってたところ。」

「七緒、俺は」

「琴司も悪かったな、迷惑かけて。大丈夫。ちゃんと解決させるから。」

心配させまいと精いっぱいの笑顔を見せる七緒に琴司は何も言えなくなる。

「無理だけはぜってーすんなよ。俺、お前に迷惑かけられたなんて一度も思ったことねえからな。」

「…さんきゅ」












その翌日、七緒は雅に香南と接触したいと頼み込んだ。

その表情に雅も何か感じ取ったのか早急にスケジュールを組んでくれた。

数週間後の夕方、七緒は香南の事務所近くのスタジオへやってきた。

久しぶりに会った香南はいつもよりも細く見え、顔色も青白かった。

香南が七緒の姿を見つけると椅子から立ち上がり七緒の傍へやってきた。

七緒はぎゅっと手に力を入れると香南に話しかけた。

「お久しぶりです。」

「ああ。久しぶり…だな。」

「…」

「…」

少しの沈黙の後、香南は七緒へと腰を折った。

「ごめん。本当にこんなことになるなんて思ってなかった。」

「香南さん、謝らないでください。俺も悪かったんです。何にも考えないで心のままに行動してたんですから。」

「いや、七緒が謝ることは何もない。悪いのは全部私なのだから。…これからは今以上に気を付けて」

「香南さん、そのことなんですけど…」

「え、」

香南もまさか七緒に遮られると思っていなかったのか顔をあげる。

「香南さん、もう駄目なんです。俺、もう限界なんです。」

「なな、お?」

「俺には守らなきゃならないものがあるんです。それをないがしろにできるはずがない。今の状況はそれを守ることができないんです。だから、もうこの関係を終わりにさせてください。」

七緒はポケットから香南にもらった携帯を取り出す。

それを見て香南はさらに青ざめる。

「ま、まって、七緒、私は、」

「俺すっげー楽しかったんです。双子たちも香南さんに会ったらスゲー嬉しそうで。香南さんはすげー良い人です。いろんな人と出会って、いろんな人と気持ちを共有できる人です。俺、ずっとテレビの前で応援してます。」

取り出した携帯を香南の手にしまい込む。

「七緒!」

「香南さん、ありがとうございました。」

そっと耳元でつぶやいた言葉は何にも遮られないまま香南の心に沈み込む。

気づいて手を伸ばしたころには七緒はドアを開けていた。

「------っ!!!」

切なそうに微笑む七緒に香南は何も言えない。










待って、私は何も言っていない。

私もすごく楽しかった。

初めて人と触れ合うことの喜びを知った。

人と会えない寂しさを知った。

これ以上何を知ればいい?

これ以上何を失えばいい?

私は、この今の感情は何?

私はただあなたに会いたいだけなのに。









言いたいことはたくさんあるのにうまくまとまらない。

七緒の笑顔を見ていると言えなくなる。

無残にもドアの閉まる音だけが残酷に響いていったのだった。

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