2-6 機種転換訓練 その3
一瞬の自失から回復すると、ライオットは即座に回避機動を取り、ターゲットドローンの攻撃を回避する。
敵機を視認する事が出来たが、如何やらミサイルはまだ残っているらしい。幸いロックオンされていないので、即座にミサイルが飛んでくる事は無い。しかし、いつ飛んできても可笑しくない状況で、対応策を必死に考えていた。
「ミサイルは最低3基、そうで無いと落とせない。」
アレクからの報告を聞き、その機動性に舌を巻く。
「あの人はどれだけ強化しているんだ?」
思わず愚痴が漏れるが、それも仕方がない。現に追われている身としては、愚痴の一つも漏らさないとやってられない。
再び模擬戦の当初の様な状況に追い込まれ、対策が見つからない状況で、それでもライオットは機体にギリギリの機動を強いていた。
状況は極めて不利。速度差は余り無く、ターゲットドローンに上を取られている。徐々に追い詰められている現状に、必死に対策を考え続ける。
先ほど取った様に、急減速で後方を取る作戦は無理。後方を取れても、意識を飛ばしかねないあの機動では、攻撃手段が無かった。ミサイルを撃ち尽くしている状況では、機銃を使うしかないが、ライオットも意識の無い状況で、機銃を命中させる事は不可能。
ターンして敵の後ろを取る方法も不可能。ターンを開始しても、敵機に上を取られている現状、及び、敵機が2機居る状況では、偏移射撃を受けるか、後ろを取ったとしても、もう1機に更に後方を取られ、撃墜されるのが目に見えていた。
様々な戦術、機動を検証するが、その全てが否定されていく。ライオットとアレクは、実戦用の装備を選択しなかった事を後悔していた。
実戦用の装備であれば、後方に向けた実弾射撃装備も存在する。そうであれば、敵機の速度を利用して、急降下爆撃に近い効果も得られ、勝機も得られる。が、無い物ねだりをしても仕方がない。2人は徹底的に足掻く事にして、勝機が得られる瞬間を待つことにした。いや、した筈だった。
ライオットは次第に追い詰められていく状況の中、初陣の際感じた感覚を覚えていた。
次第にぶつ切りに為っていく思考、間延びして感じる時間、視界の中全てを赤く染めるあの時の記憶。初陣の時とは違い、緩やかに、しかし、確実にライオットの意識を浸食していく。
徐々に、
確実に、
意識が
消えていく
…………
唐突に鋭くなった機動に、アレクは思わず息を呑んだ。今までも、十分に鋭い機動だと思っていただけに、この唐突な変化にが信じられなかった。
此方の指示に対する反応、軌道変更の誤差、その全てが信じられないくらい早く、また、小さかった。
(人間業じゃないだろう、是は……)
あまりに正確無比な操縦に、一瞬意識を失い、オートパイロットに切り替わったのかと危惧したが、その様子も無い。第一、切り替わったのならば、後席の自分にシステムからの警告がない事がおかしい。
敵機から放たれるミサイルを、その速度で振り切り、あるいは、チャフやフレアでかわし、もう間もなく敵機のミサイルも尽きるころ合いだった。
一瞬の減速で、敵機に追いつかせると、照準の為の態勢作りの為の時間も惜しいと体当たりを行い、1機を弾き飛ばす。
(こんな指示は出してない、何が……)
いきなり懸った負荷にうめき声を漏らし、アレクは話しかける。
「行き成り如何した、ライオット」
だが、ライオットは答えない。まるで聞こえていないように、応える必要が無いように。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ、私のかわいいシルフがぁぁぁぁぁぁぁ」
シーラは思わず絶叫していた。航空機、航宙機を問わず、空を飛ぶ物は繊細なバランスの上で飛んでいる。体当たりなどをすれば間違いなく傷が付くし、最悪空中分解などと言う事にもなりかねない。
当然シルフの機体にも、傷が付いていた。シルフを愛するシーラが絶叫するのも、其れは其れで仕方がないのかもしれない。しかし、周囲の人々は、そんなシーラを生温かい目で眺めているだけだった。
曰く、“あんたが要らんチョッカイ掛けたんだろう”
まさに自業自得。周囲の人々にとって、生温かな目で見るしかない状況を、自ら作り出したわけである。
「……あの2人、ただじゃ済まさない……」
しかし、その生温かい目は、その一言で凍りついた。
1機を体当たりで弾き飛ばした後、残り1機を追撃し、容易く後ろを取ったライオットは、容易く撃墜判定をもぎ取る。
弾かれた最後の敵機が漸く追いついてくる。その中、アレクは予想外の機動を取るライオットの機動が生み出すGの負荷に耐えていた。
容易く撃墜判定をもぎ取るライオットの生む負荷は、アレクの意識を奪い去ろうとしている。だが、最後の1機を落とした途端、限界が訪れ意識が闇に包まれる。
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