12.クロい親子と黒い王太子
◆王宮廊下 ステファン(16歳)視点3
「やあ王太子殿。毎日毎日、公務と学業の両立お疲れ様だねぇ」
珍しいな…コイツが王宮に来ているなんて。カイゼルが後ろから横へと移動した。警戒しているのだろう。
「オーフィス。君がもう少し真面目にやってくれれば、私の学園での仕事も減ったんだがね」
「あくせくやるなんて性に合わねぇのさ。まぁ精々頑張んな。ところで、ディアナはいつ帰ってくるんだ?婚約者を隣国にやっちまうなんて、浮気でもするつもりか?お前ら本当は仲悪いんじゃないのかぁ?」
オーフィスはニヤニヤと私の反応を窺っている。
コイツが私の婚約者のディアナに横恋慕しているのは、すでに皆が知っている。当のディアナの父アルデバラン公爵からも警戒されていて、留学の話をすると一も二も無く送り出したくらいだ。
「ディアナとは良好だよ。ほぼ毎日手紙のやり取りをしているし、今度の私の誕生日には一緒にいられない事が残念だと、先にプレゼントも貰っているしね」
と、さり気なく美しい刺繍のクラバットを手で示す。ディアナは刺繍が上手なのだ。
「チッ!あ~あ、なんか面白い事起こらねぇかなぁ」
オーフィスは舌打ちをして去って行った。後で【影】に見張らせておこう。
「あいつが王宮にいるという事は、伯父上も来ているのだろうな」
「オーフィス公子が一人で来る事は無いでしょうね」
カイゼルが忌々し気に答えた。カイゼルには婿入り予定の婚約者がいる。
フライングで既に妊娠しているが近々入籍するらしい。その婚約者が以前オーフィスに付き纏われた事から、カイゼルはヤツを敵視しているのだ。
本当に迷惑な従兄弟殿だよ。
「カイゼル。今日はもうあがっていい。身重の婚約者どのを見舞ってさしあげろ」
王宮では【影】が多数いるから大丈夫だ。それに私はこれから作戦会議だからな。
「ありがとうございます。では失礼いたします」
嬉しそうに一礼して去って行く…リカルドの言う【カイゼルルート】とやらも崩れたのではないかな。
◆王宮 王の執務室 宰相視点1
「サーヴラよ。何が言いたい」
王の異母兄であるクロタリアス公爵がやってきて、また世迷い事を申しております。毎度毎度…それでなくともお忙しい王の邪魔をするなど…大したご趣味ですな。
「ステファン殿下は【闇属性】を持っているだろう?心配しているのだよ。ほら私のように【闇属性】は嫌われ者だ。その点、オーフィスは王と同じ【土属性】だ。国民も安心するんじゃないか?」
だからオーフィス殿を王太子にしろと?大体クロタリアス公爵が嫌われているのは【闇属性】だけが理由では無いのですがね。
それにあの素行の悪いクソガ…コホン、お子様を王太子になどと…
「(小声)頭が沸いているのでは?」
「何かいったか?ペリステラ伯爵」
ふむ、地獄耳でしょうか…
「いえ別に、王はこれから『その』ステファン殿下とお約束が御座います。どなたかと違ってキチンと先触れを出してのお約束ですので、クロタリアス公爵にはそろそろご退席願います」にっこり
言外に『マナーも守らぬお邪魔虫は去れ』と追い出しにかかります。
「ふん…宰相殿には確か優秀な子息がいたな?オーフィスが王太子になったら側近にしてやろうか」
「結構でございます」
即答すると、クロタリアス公爵はやれやれと部屋から出て行った。挨拶も無しとはマナー知らずめが。
程なくしてステファン殿下がやってきました。おひとりですね。
「父上、ペリステラ伯爵も、お忙しいところ時間を頂きありがとうございます。廊下でオーフィスに会いましたが、クロタリアス公爵がこちらに?」
オーフィス殿も来ていたのか…王とふたりで苦笑いをしていると、廊下での一件をお話して下さいました。
こちらもクロタリアス公爵の無礼をお伝えしておきましょう。報・連・相は大事です。
「へぇ…側近ねぇ」
ステファン殿下から黒いモノが出ています。さすが【闇属性】…黒い、黒いです!
殿下が【闇属性】をお持ちである事は、立太子された10歳の時に教えていただきました。
「で、何の相談なのだ?」
「あ、はい。実はリカルドが『やっと』エステル嬢の【影ちゃん】の存在を知りまして」
「なに!あやつ『やっと』気付いたのか!ははは…自分だけ知らなかったと知って、さぞ悔しがっておろうな」
10年気付かせなかった【影ちゃん】殿の御業にも脱帽ですが、さすがに鈍いでしょうリカルド殿…
【影ちゃん】殿の存在は殿下が11歳の時に【王家の影】からの報告で知りました。
実害が無い事や、使役側がパルセノスという悪意からとんでもなく離れた家であった為、王家は放置を決めました。【影】も『見ていて楽しい・飽きない・ほっこりする』とよく分からない業務日誌を提出しておりましたな。
流行病の新薬事業を提案したのがリカルド殿である事は知っております。功績を発表するのを辞退された事も…国に大きく貢献されたのに、なんて謙虚な! 王や大臣達と『パルセノス家にはいつか恩返しをするぞ』と決めております。
「それで、先ほどの話では無いのですが、ヨハンに生徒会に入って貰えないかと思いまして」
クロタリアス公爵が言っていた『優秀な子息』は、今年学園に入学したヨハンの事。妻によく似た、紺色の髪に眼鏡をかけた碧眼の、ええ『優秀な自慢の息子』でございます。
「ヨハンなら不測の事態にも対処できましょうが。…もう何かございましたか?」
「んん…リカルドの育児が再開し……いや、ポンコツがよりポンコツになりそうだから人手が足りん。次期宰相候補ヨハンに協力をお願いしたい」
「わかりました。ヨハンに伝えておきましょう」
「助かるよ。よろしく頼む」
一瞬笑いを堪えた殿下。何を思い出されたのでしょう。【影】の業務日誌が楽しみですな。
[おまけ]~ある日の【影】待機部屋Ⅰ~
影A「リカルド様ってめちゃめちゃ良い人だよな」
影B「俺、暑い日に時々経口補水液もらう事あるぞ。開いた窓辺にそっと置いてくれるんだ」
A&B「「あの人絶対【おかん属性】だよな」」(リカルドの属性が増えた)




