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10.侍女のアリサとお疲れモブ兄

◆パルセノス邸 エントランス アリサ視点1

 

「で、リカルド様が走って取りに戻られたと…」


「ハア…ハア…アリサ。わるい…エステルの杖。取ってきて…」

「かしこまりました。暫しご休憩を」


 エステル様のお部屋に向かう。杖は大事そうに飾ってあるので、すぐに持ち出してリカルド様にお渡ししました。


「じゃあ行くわ」

 と、また強風を纏って走り出されました…。

 髪の毛が面白可笑しい事になっておりますよ。


「エステル様…影ちゃん様に頼めばよろしいのに…焦って思いつかなかったのでしょうね。『影ちゃん様』」


 アリサの影からひょっこり現れる影ちゃん。


「杖だけではなく。教科書もお忘れです。届けてくださいませ」

 と、教科書を渡すと、影ちゃん様は敬礼しながら戻って行かれました。




 影ちゃん様とはエステル様が6歳の時からのお付き合いです。もう10年近くになるのですね…


 わたくしは一応男爵家の長女でしたが、子だくさんで奉公に出され実家とはそれっきり…結婚の予定もございません。エステル様がお生まれになってから何やら覚醒されたリカルド様とタッグを組み、育児に邁進してまいりました。


 エステル様は風属性と闇属性をお持ちです。

 闇属性は希少と言われておりますが、多少マイナスイメージがございますので、持っている人間が公表しないからではないかと思っております。

 なぜなら、わたくしがそうだからでございます。


 リカルド様が7歳で領地に行かれた時に、エステル様は淋しさのあまり病みかけました。【闇】だけに…ふふ


 光属性にたまにやたらとテンション高い輩がいらっしゃるように、闇属性には稀に闇に引きずられて闇落ちする方がいます。これがマイナスイメージの原因ですね。


 鬱々とされているエステル様の前に、ある日黒い【穴】が現れ『穴が呼んでる』と仰います。

 これはリカルド様の言うところの【あかんヤツ】だと思いました。


 とっさに先ほど同僚に返して貰った小銭の銅貨を取り出し…

「お嬢様、この穴の深さを調べましょう」

と、穴にコインを投げ込みました。


『チャリ~ン』んん? 地面に落ちた音ではありません。作られたような?聞いたことの無い音です。


「へんなおと~」

 エステル様が興味を示されている。もう一枚…

『チャリ~ン』

「おもしろいおとだね~」

 喜んでおられる。


「ちょっと奥様のところでコインを調達して参ります。穴に入ってはなりませんよ」

「はぁ~い。いっぱいもってきてね~」



「奥様!理由は言えませんがお金をくださいませ」


「いきなりすぎてビックリよ。アリサ」

 ですが、エステル様が闇落ちしかけているとは流石に言えません。


「無駄な出費となるかもしれませんが、街でひったくりに会ったとでも思ってくださいませ。エステル様がご所望ですので。…できれば銅貨で沢山」


「はぁ~エステルがらみなのね。いいわ」

 奥様は家令に言って、銅貨の詰まった袋を渡してくれました。エステル様の部屋へ戻ります。重い…


「溶かして銅像でも作る気かしら?」



「さあ、いっぱいありますよ。投げましょうか」

「やるやる~」


『チャリ~ン』『チャリ~ン』『チャリ~ン』・・・・・・・・・・・『チャリ~ン』・・・


「ぜんぶいれる~」ザラザラザラザラ~~

『チャリチャリチャリチャリチャリチャリ・・・・・・・・・・・・・・・ピコーン』


「アリサ~もうはいらないよ~」

 穴は開いたままですが、コインが弾かれておりますね。


「クッキーいれてみる」

 エステル様が放り込んだクッキーは穴の中へ消えます。

 追加を取りに向かおうとしていたら、エステル様は穴にどんどん近づいて…


「お嬢様‼いけません‼」

「ッ‼」


 すると突然、穴から黒い物体が飛び出してきたのです。

 黒いスライムのような感じで、手らしきものがクッキーを持っておりますね…あ、食べた。モグモグしています。


 黒いソレは、ふにょふにょと形を変えます。

「あ!いにゅ(いぬ)」噛みましたね。

 正解!と飛び上がって、次のかたち


「とりさん!」とりはさん付けなのですね。

 正解!


 エステル様は大喜びです。気付くといつの間にか黒い穴は無くなっていました。





[おまけ]~お母様困惑~


アリサ「奥様。余りましたのでお返しいたします」


お母様「あらそう。何に使ったの?」


アリサ「エステル様にお友達が出来ました」


お母様「え、…お友達を…買ったの???」







◆聖バルゴ学園校門前 リカルド(16歳)視点13


「はぁつかれた…うわ、追い風ヘアーになってる」


 手櫛で直しながら校門をくぐると、向こうからいけ好かないヤツがやってきた。


「よう。王太子様の腰巾着じゃねえか。遅刻とはいい御身分だな。ステファンは自分の飼い犬の躾も出来ないのか?王太子失格じゃねーのかなぁ」

 やれやれと大げさに首を振っている。

 ホントこの男ステファンの事が嫌いだな。何かあれば足引っ張ろうとしてくる。


「クロタリアス公子こそ、これからどちらへ?外へ出るのは校則違反ですよ」

 …俺も人のこと言えないんだが(ブーメランが刺さる)


「体調不良で帰るのさ。ここは獣が多くて空気が悪いからなぁ。おっと、そういえば最近従魔付きの女とつるんでいるらしいな。見目は良いが獣臭いのはかなわん。お前も獣臭いのがうつるぞ。ハハッ」


 そう言ってオーフィスは校門から出て行った。またサボりか…




 本来なら生徒会長は、三年生で王族関係者(ステファンの従兄弟)であるオーフィスが担う筈だったが、素行が悪すぎて学園長が二年生のステファンに打診してきたのだ。


 クロタリアス公爵はステファンの父である現王の異母兄で、ステファンが生まれてから臣籍降下して公爵位を得ている。


 前王はなかなか子が出来ず、側妃を娶ってサーヴラ殿(現クロタリアス公爵)が生まれた。

 しかし程なくして王妃も懐妊、王籍を継ぐのは(第二王子にあたるのだが)現王アンドレア様に決まったのだ。


 王妃(第二王子派)と側妃(第一王子派)の確執を見て育ったアンドレア様は、ご自身は何があっても側妃は娶らないと宣言し、ステファンは現在一人っ子というわけだ。


 過剰に【影】を付ける王の気持ちも分からなくもないな。

 ステファンに『何か』あれば王位はクロタリアスに転がり込むからな。オーフィスや、あの何か気味の悪いサーヴラ殿に仕えるのは心底嫌だ。


 特にオーフィスは性格が悪いし女にだらしない。自分は土属性な事に劣等感を持っていて、光属性のステファンの人気に嫉妬している。

 ステファンを貶める為に、彼の婚約者にも手を出そうとしたので、ステファンは留学というかたちで彼女を避難させたのだ。急な話だったが、治療薬支給の恩を掲げてゴリ押ししたらしい。腹黒王太子…さすがだ。


 因みに現王アンドレア様は光属性もお持ちだがメインは土属性で、その事を誇りに思っていると仰っていた。


ホコリだけに』ってドヤ顔で……あぁ隣で宰相が苦笑いだったな。





[おまけ]~人気の王様~


王宮庭師「宰相様、王様をお貸し下され」


宰相  「また土起こしですか?王様は耕運機ではありませんよ」


王宮庭師「王様ほど上手にできる者がおらんのですわい。王様は土属性に誇りを持っておられるゆえ」


王・庭師『ホコリだけに!(だけに~だけに~(エコー))』


宰相  「……仕事してください」






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