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1.モブな兄と悪役令嬢役(予定)の天使な妹

◆パルセノス邸 リカルド(16歳)視点1


 端的に言えば『俺の妹は世界一可愛い』


 誰が何と言おうとも、たとえ兄馬鹿と周囲にドン引かれようとも、

 実は彼女が【この世界の悪役令嬢(予定)】であったとしてもだ。


「に~ちゃ」

 初めてそう呼ばれたとき、かつての記憶が怒涛の如く押し寄せた。


「あ~姉貴がハマってたゲームの……マジかぁ~」

そしてこの瞬間、自分が異世界転生者である事と兄としての責任を自覚して決意した。

『何がなんでも彼女を悪役令嬢にはしない!』

でないと俺の代で侯爵家が終わっちゃうじゃん!勘弁してよぉ


 そんなこんなで、あれから十数年。


「お兄様。ご休憩中ですか?わたくしもご一緒しても?」

 家族が使うリビングスペースに、天使がひょっこり現れる。

エステル・パルセノス。来月からあのゲームの舞台聖バルゴ学園に通う、悪役令嬢ポジションの15歳に成長した超天使!イヤッ!もはや女神!


「もちろんいいよ。隣にどうぞ」

「はいお兄様」


 エステルは嬉しそうにしつつも優雅な動きで俺の隣に腰かけた。

 うんうん。りっぱな淑女に育ったものだ。悪役のあの字も見えないよ。危うくナデナデしかけた手を降ろす。淑女にナデナデはいかんだろう。


「来月からお兄様と一緒に学園に通えるなんて、嬉しいですわ」

「ありがとう。俺も嬉しいよ。でもエステルが本当に嬉しいのは、婚約者のレオンと毎日会えるからじゃないのかな?」

「も、もちろんレオン様の事もですけれどっ!もうっお兄様ったら」

 テレテレしてる妹を見て悶絶しそうになる。耐えろ俺。


 レオンハルト・アエトース。俺と同じ16歳。三大公爵家の実質トップになるアエトース公爵家の嫡男だ。

 エステルが10歳の時に婚約。とても仲睦まじい二人だ。ヒロインが入り込む余地は無いだろう…

 そう、レオンは所謂攻略対象のうちの一人だ。

 銀髪にグレーの瞳の超イケメン。学園でも王太子と人気を争っている…まぁ本人達は我関せずだがな。


 だからヒロインが『レオンルート』を選べば、エステルが【悪役令嬢】確定となるのだ。

 俺?俺は攻略対象じゃない。モブ中のモブだ。ああ自己紹介が遅れて申し訳ない。


 リカルド・パルセノス。侯爵家嫡男。エステルと同じ黒髪でこげ茶の瞳。

 エステルは母に似て美人だが、俺は父に似てフツメン。


 そして、レオンルートの悪役令嬢がエステルである為の【必要員】

 この国は女性でも爵位継げるから、エステルが公爵家嫡男の婚約者であるには、侯爵家にも嫡男が要るだろう?

 作中ビジュアルも無く、名前紹介も無く、ただ影絵状態で家が没落するのを両親と嘆いていた、モブ中のモブだ~←ナンテコッタイ





◆パルセノス邸 エステル(15歳)視点1


 只今リビングスペースにお兄様がいると聞いて、小走りで向かっておりますの。

 後で侍女のアリサから小言を貰う事でしょうが、今はそれどころではないのですわ。

 開いてる扉の手前でス~ハ~して息を整えた。エステルはお兄様には淑女と思われたいのだった。


「お兄様。ご休憩中ですか?わたくしもご一緒しても?」

「もちろんいいよ。隣にどうぞ」


 お兄様は満面の笑みで、自分の横の座面を優しくポンポン叩いた。……ソファになりたい…

 ハッ!ダメダメ!淑女!淑女よ!

 はやる気持ちを抑え込んで、ゆっくりと腰掛ける。

 お兄様は一瞬手が持ち上げたが、ふっと微笑んで元に戻してしまった。…撫でてほしかったな…ションモリ


 お兄様の通学が始まってから交流の時間が減って、切実なお兄様不足なのにぃ…

「来月からお兄様と一緒に学園に通えるなんて、嬉しいですわ」

 何なら明日からでも一緒に行きたいのですけれど


「ありがとう。俺も嬉しいよ」

 お兄様も?嬉しい!淑女なので心の中だけで小躍り。

「でもエステルが本当に嬉しいのは、婚約者のレオンと毎日会えるからじゃないのかな?」

「も、もちろんレオン様の事もですけれどっ!もうっお兄様ったら」

 茶化されても気にならないくらい、お兄様の笑顔が眩しいですわ~~~


 レオンハルト様との婚約は私が10歳の時に決まった。お兄様のゴリ押しで…


『イケメンは早めに抑えとかないと』とか『幼馴染ポジで補強しとけば安心か?』とか

 お兄様は意味不明の言葉を時々仰るの。 イケメン=いけてる面(顔の事)

 対してご自分は【フツメン(普通の顔)】で【モブ(その他大勢)】だとか……


 え?お兄様が?あんなにキラキラで慈愛に満ち満ちてるお兄様のお顔が?普通?モブ?有り得ない…

 何ならわたくし、レオン様よりお兄様のお顔の方が超好みなのですわぁ♡


 エステルは淑女の猫を被った、立派なブラコンに成長していたのだった。





[おまけ]~侍女アリサのお小言~


エステル「は、走ってはいなくてよ。大股で歩いていただけですわ!」


アリサ 「お嬢様、淑女は『大股』という言葉も使いません」






◆聖バルゴ学園 生徒会室 リカルド(16歳)視点2


 今日は入学式の打ち合わせで居残りだ。


「リカルド。レオン。お前たち…嬉しいのは分かるが、ニヤニヤしながら作業するな」

 呆れモードの生徒会長が、青い目を眇めて書類を片手に溜め息ひとつ。


 生徒会長、王太子ステファン・ヴァリオス16歳 

 王族特有の金色の長髪は肩のあたりで緩くまとめられている。


「ニヤニヤなんてしてませんよ。リカルドと一括りにしないでください」

「うちの天使…いや女神が入学してくるんだ。幸運な婚約者であるレオンの鼻の下が伸びるのは見て見ぬふりしてやってください」

「ぶっ!女神ときたか!」

「リ~カ~ル~ド~」


 俺たち三人は8歳からの付き合いで、所謂幼馴染。

 出会って割と早い段階で、攻略対象の二人には乙女ゲームの話をした。

 もちろん直ぐに信じてくれたわけじゃない。信じざるを得ない黒歴史を言い当ててやっただけだ。ムフフッ…


「だがエステル嬢が入学するという事は、同時にヒロインも入学でゲームとやらが始まるのだろう?大丈夫なのか?リカルド」

「まあやれる事はやったし、後は臨機応変に対処するだけだね」


 そう、この十数年。俺はフラグを折って折って折りまくったのさ!





◆回想 リカルド(3歳&8歳)視点3


 ゲームの【エステル嬢】が悪役令嬢である由縁。先ずはその苛烈な性格だろう。ならば何故その性格になったのか?

 親の甘やかしの一言に尽きるんだが、俺が原因になった部分もあるので、それも含めて対処することにした。


 リカルド3歳(記憶を取り戻して中身20歳)

「ちちうえ。ははうえ。いくらたいぼうのかわいいむすめだからって、あまやかしすぎてはエステルのしょうらいにかげがさしますよ」

「「!!!!」」

 父母驚愕…突然3歳の息子が説教を始めた…神童だった…


「こんご、エステルのいくじにはオレもさんかしますからね。みなできょうりょくしましょう」

 3歳の息子が…育児参加…え、される側じゃなくてする側?…そして「オレ」なの?

 父母と使用人は思考が停止した。


 結果、神童の育児によるフラグクラッシュで、エステルは常識的な令嬢に育った。

 めでたしめでたし……では無く。実はもう一つ重大な案件がある。


 俺が10歳に罹る流行病だ。

 この新型の流行病は猛威を振るい、死者数こそ多くなかったが罹患し重症化した者には醜い痣が残った。

 見えない場所なら幸いだが、顔や首に残れば最悪だ。そしてその最悪をリカルドは被ったのだ。


 顔の右半分が痣で覆われ、人前に出ることが出来なくなり、そんなリカルドを「醜い引きこもり」とエステルは蔑んだ。

 この時、人を蔑む事に快感を覚えてしまったんだな。……え!俺のせいじゃん!


 というわけで、どうすればいいのか……ピコンッ!! 

 流行病の薬を準備しておけばいいんだよ。

 当時はいきなりの流行で何が効くかも分からなかった。薬が出来た時にはもう重症化が進んでいたのだ。


 しか~し!今はまだ俺は8歳!今から薬を準備すれば全然間に合うのさ!と、俺は幼馴染二人を巻き込んだんだ。

 未来の王太子と小公子は、俺の為国の為に奮闘してくれて国家事業で薬を準備し、程なくしてやってきた流行病を重症化させずに終息させたのだ。

 何ならとよその国にも薬と恩を売って、王様や大臣たちはウハウハしてたらしい。




[おまけ]~神童と侍女~


神童 「きみがエステルのじじょか、たがいにせっさたくましていこう。よろしくたのむ」ペコリ


アリサ「こちらこそ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます」ペコリ


     そんなふたりのやり取りに、終始あわあわするパルセノス侯爵夫妻であった…





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