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ヘンリック

ギルバートが遠征に出る少し前。


「ぐぁっ!?」

 

空に響く当打の音と少年の叫びが訓練場に響く。


「お坊ちゃま。本日は、私も陛下と共に遠征へ参ります故、稽古は短めに致します。なので、やや激しめに行かせて頂きます。さぁ、お覚悟下され。」


老いた猫人の執事は背筋をピンと左手を腰に当てて右に拵えた杖を幼きライドットに向けて真っ直ぐ構えた。


「くっ、ヘンリック!お前が俺に手心加えてくれた事なんか一度でもあったかよ!?」


弾かれて膝をつきながらも、両の手に本物のナイフを逆手に持ち対峙するライドット。


「お坊ちゃま、それは心外です。これはいつだってお坊ちゃまを想っての事なのですから。そして、得物はもう少し選ぶべきかと。」


ヘンリックは膝をついて構えるライドットを冷ややかに見つめ左手で顎をさする。


「うるせぇ!想ってるならもっと優しくするべきだろ!!」


ヘンリックの空いた左脇をここぞと襲うライドットであったが全く通じる事はなかった。


「いいえ!あなた様の将来を想うと私は滾ってまいります!!」


ヘンリックの素早い身動きは目で追うのもやっとであったが、ライドットの目でギリギリ理解できた。


ライドットの攻撃が届く直前、すっと左の手刀で自分の左脇を狙ったナイフを落とし、勢いのままクルッと背後に周り右手に持った杖をライドットの首に当てた。


「こんのっ!クソジジィ!」


ライドットは刃がカスリもせず捕まえられバタバタと恥ずかしそうにあえぐ。


「ホッホッホ。まだまだお若いですな。さて、そろそろ本当に征かねばなりませぬ。ライドット様。」


クソジジイと呼ばれた老人は名残惜しそうにその場を離れるのであった。

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