雪華7
霧島暴走
ゆっくりと瞼を上げると目の前には白い天井が椿を迎えた。
まだ体を起こそうにも、鉛のように重い。目だけを使って周りを見渡すと側に誰もいないのか機械の音だけが聞こえる。
何これ?シール?
額や、胸の辺りには脳波を調べる物がペタペタと貼ってある。
思うように動かない自分の腕に叱咤しながらも、それらを一気に剥がした。
ちょっぴり皮膚を引っ張る感じで痛かったけど、大丈夫この痛みだって私が生きてるって証拠なんだ。
私……生きてる。
剥がした際にコードまで抜いてしまったらしく、心音や脳波の計測する装置の液晶画面に一筋の光る線が走る。
『大丈夫ですか!?』
天井に備えてあるスピーカーから声が降って来た。
「は、はい」
『そちらにすぐに伺います』
すぐに看護士を引き連れた医師がやって来て、診察をし始める。
まだ椿の頭の中は今日がいつで、何曜日なのかも分からない。
「あ、あの…今日は何曜日ですか?」
「今日ですか…日曜ですよ。あなたは6日ほど昏睡されていました。吐き気や目眩はありませんか?」
6日も眠った状態だったのかと驚きながらも、椿はいいえと応えた。
廊下では走らないでくださいと言う年嵩の看護士の声が聞こえたかと思うと、討ち入りでもするかのように乱暴に扉が開かれた。
その音で病室内にいる誰もが扉に注目した。
「椿!目が覚めたのか」
視界を覆っていたヴェールのような砂嵐が溶けて行くと目の前に現れたのは必死の形相で自分の名を呼んでいる霧島だった。
目を見開いた椿は呆然と扉の前に立つ男を見つめた。
髪はぼさぼさでネクタイはよれよれ。顔なんて目の下はクマだらけだし、無精髭が顎を覆っている。
くすっ、いつもはオーダーメイドのスーツを着て身だしなみも完璧な彼はどんな状況に陥っても冷静沈着な人だったのに、こんな人間じみた表情をするのね。
「椿!俺の指は何本だ?」
必死な顔で私の目の前に手をひらひらと翳している。
もう、いつもの私って言う一人称から俺に変わっているなんて、この人って相当慌てているのね。
いつも前髪を上げてるのに、今日は下ろしているのね。そんなに私がこの人を心配させていたのね。
でも悔しいなぁ。どんな表情でもイケメンはイケメンにしか見えないよ。だって女だったらそうは行かないもの。
ドラマみたいにベッドに駆け寄って来た霧島に抱きしめられた時は、恥ずかしさと嬉しさがおしくらまんじゅうしてて、嬉しさが僅差で勝利したんだよね。だけどあんまり嬉しすぎて頭の中が飽和状態になったのは、いただけないな〜。人が怪我をするとドーパミンが沢山出るんだっけ?それでハイになっちゃったのかな〜。
「霧島さん、奥様がお目覚めになりましたよ。まだご本人は混乱していらっしゃるので…」
ーーー奥様って何? 誰の事よ!!
医師の言葉が起爆剤になったのか、その後私は肩の痛みと脳みそパンクの状態で人生二度目の失神をした。
「椿!!しっかりしろ!!椿!!」
「霧島さん!落ち着いてください!奥様は大丈夫ですから!」




