子供の笑顔を守るため1 改稿
「誰だ?」
「泥棒か!? それとも俺の財産を狙いに来た雌狐か?!!」
するどい声がするといきなり後ろから羽交い締めされた。自分の事を話そうにもこれでは何も言えない。バタバタと足をばたつかせると、近くにあった椅子を蹴飛ばした。
その音を聞いて翼が泣き出すと、椿を羽交い締めしていた腕の力が抜けた。力なくその場に崩れ落ちる椿に翼が泣きながら抱きついて来た。
「先生!!椿先生大丈夫? お父さん、やめて!この人は僕の幼稚園の先生なんだよ。今日は誰もお迎えに来なかったから、椿先生が僕を家まで送ってくれたんだよ。おいしいオムレツも作ってくれたんだから!」
喉を押さえ咳き込む椿に翼は何度も大丈夫かと聞いて来た。声はまだ出ないが、とにかく翼を安心させるために喉を押さえながらもコクコクと頷いた。
「すまない…物取りか、それともまた会社の変な女かと思ったんだ…」
人を物取りだなんて…抗議するように目を見開くと、目の前の男はがしがしと首の後ろをかくと悪かったなと明後日の方向を見て言って来た。
これが大の大人の謝罪の仕方なわけ? 椿は掠れる声で翼に明日幼稚園で会いましょうねと告げると出て行った。
恐らく、あの父親は椿が本当に幼稚園教諭だと思っていないのだろう。なら、それでいい。明日の朝、幼稚園で彼が自分を見てどんな顔をして謝って来るのか見てやろうと意地悪く考えながらも家路へと急いだ。
家に着いた椿を迎えたのは義兄の臣だった。
「翼くんは大丈夫だったのかい?」
「…は…い…」
掠れ掠れで出て来る椿の声に眉を顰めた臣は、妻の蘭を呼ぶと椿の着替えを手伝ってやってくれと言いだした。
初めは何てことを言うのよと言う眼差しを妻から受けていたが、蘭も椿の掠れた「…大…丈夫…」と言う声を聞くと顔を青ざめさせた。
やはり声帯をやられたのか、思うように声が出せない。声を出そうとする度に咳が出る。
自分の部屋に急いで連れて行かれた椿は、蘭に手伝ってもらうと着替え始めた。
「椿…あんた…まさか…襲われたの?」
「…ち…が…」
掠れた声をたどたどしく出しながらも、椿は今日遭った出来事を蘭に話した。
「じゃあ、何なのよ。この痣は! しかも首だなんて…女の子に対してこんな事をして来るのが園児の保護者だななんて…」
「え…」
蘭に指摘されるまで気がつかなかった。
確かに翼の父親から羽交い締めをされたが、まさか首を絞められてたなんて…。
「臣ちゃんにも聞いてもらわないと、こればかりは秘密には出来ないんだからわかってるわよね?」
「…う”…ん…」
リビングに椿、臣、蘭の三人が座っている。
「椿ちゃん、本当に何にもなかったんだね? もし襲われたのなら、警察に届けるが…「襲われ…ゲホ…てない…」
椿の白い肌にくっきりと残る痣を見て眉をしかめる臣。
「椿、なら、その痣は何なの? いくらあんたの肌が痣を作りやすいと言ったって、そんな赤黒い痣を見れば、誰だって無理矢理あんたが誰かに襲われたって思うに決まってるでしょ!」
いつもは強い蘭姉の言葉も涙まじりに聞こえて来る。実際、蘭の目には涙がたまっていた。
「違…ゲホゲホ…」
必死になって反論している椿に蘭も臣も佐々木翼の転園を考え始めていた。
「椿ちゃん、僕はね義兄として妹にこんな酷い痣を残せる男が幼稚園の保護者だと言うだけで、吐き気がするくらい怒っているんだよ。君には辛いかもしれないけど、佐々木翼くんには転園をするように僕から言っておこう」
「!!」
「椿、とにかくあんたは明日、幼稚園を休みなさい」
「嫌よ!ゲホゲホ!」
咳こみながらも椿は自分が明日休めば、事情を知ってる翼が苦しむ。そんなのは幼稚園教諭として一番嫌だ。子供には笑顔でいて欲しいのに…。
だから…。
そう力説する椿に根負けした二人は椿に包帯を巻くように告げた。




