01 追放スタート
「こりゃ驚いた! 魚じゃなくて役者みたいな綺麗な顔の男の子が俺の網にかかってる」
大人の男の声がする。
どうやら俺は今、全身ずぶ濡れで漁師の網にかかって船の上に引き上げられた。まるで魚のように。
「ゴホッ、がはっ!」
苦しくて水を吐いた。海水だから口の中が塩っ辛い。
「ちょっと、あんた! その坊ちゃん、船遊びの最中に落ちたお貴族様じゃないかい!? 着てる服があからさまに上等だよ!」
漁師の妻らしき女性が見えた。そこそこの美人で年齢は20代くらい。陽に焼けた小麦色の肌をしてる。
「しかしこの辺りに船遊び中のお貴族様なんかいなかったぞ?」
これまた女性より陽に焼けた浅黒い肌のイカつい体つきの漁師。顔はなかなかの男前で年齢は30代くらい。
──そして、俺は思い出した。大事なことを。
ここは剣と魔法のある世界のエスヴェイン王国というところで、ロドルフォース伯爵家の貴族の4男として生まれた俺。
そう、名前はリオンベルタ・ノエル・ロドルフォース。年齢は12歳の子供。
俺はロドルフォース伯爵家から追放された。
理由は貴族として相応しいスキルを加護の儀式で授からなかったから。
剣聖だとか、大魔法使いなら良かったのに、オレのスキルは、仕入れ。であった。
落ちこぼれ、貴族としての名折れ、恥。
貴族じゃなくて商人かよと、兄弟に笑われバカにされた。
せめて見目の良い娘であれば年老いた貴族の後妻として売り飛ばす事も出来たのになんて、酷い事も言われた。
銀貨30枚と銅貨40枚だけを手切れ金として渡され、家を追い出された。
生きる希望もなかった。
ただの子供だったし、夏の日差しを浴びてキラキラした綺麗な海に入った。自殺のつもりで。
ただ、海の水の中で、死にかけていたところを助けられた。
俺を助けたのは漁師だった。
魚を取ろうと網を投げたら人間がかかったなんて、お笑いぐさだ。
食えもしないこんな重いだけの人間で正直すまんかった。
しかし、入水自殺で死にかけて俺は前世の記憶を思い出した。
前世の俺は38歳の元ホストだった。
女に刺されて死んだ。下手を打った。
まぁ、女誑かして金とってたから、自業自得ともいえる。
しかし俺の仕入れスキルは、特別なものだ。
過去に自分が食べたことあるものが、仕入れられるというものだからだ。
塩もコショウも砂糖も油もだ!!
この異世界ファンタジーな世界では貴重な調味料が手に入るのだ!!
ただ、仕入れのためには元手はいる。
今ある銅貨と銀貨でなんとかするしかない。
俺はこれから平民のリオとして生きていく。
この仕入れスキルで生き延びる!
前世では38歳のおじさんだったんだ。
12歳の子供の俺は貴族らしからぬ仕入れのスキルでもうダメだと絶望したが、地球の調味料がゲット出来る仕入れ最高じゃないか!
と、今は前世の知識チートとおじさんの強かさがある。
◆◆◆
「漁師の方、た、助けてくださってありがとうございます」
息を揃えて、なんとかそれだけ喋った。
「とりあえず陸へ向かうぞ!」
まだ海上なのである。
「ところで、あなた様はどこのお家のお坊っちゃまで?」
漁師の妻が怖々と問うてくる。厄介事の気配を感じてるのかもしれない。
「家を追放されたので、今は……平民ですから、帰る家はもうありません」
馬鹿正直に話した。
「まぁ! なんてこと! こんな可愛い子を!」
今は平民と聞いておばさんから恐怖は消え、逆に同情が引けた。
俺はひとまず砂浜で船から下ろして貰った。
「ここでいいのかい?」
「はい、ありがとうございます」
「丁寧な子だ、泊まるとこがないなら家に来てもいいよ? うちはあの丘の上の大きな木のそばの家だよ」
おばさんの指差す先の家を確認し、覚えた。
「ありがとうございます。後から伺います。あの、それから厚かましいお願いですが、その麻袋、お借りしてもいいですか?」
「あ、これ? なんも入ってないからあげるよ、こんなもん」
ついでに漁師の妻から麻袋を貰った。
俺は海に入る前、金の入った袋を木の根元に埋めていたので、その金の入った袋を掘り起こした。
そしていよいよ仕入れスキルを使う時が来た。
死にかけた時、走馬灯のように見えた物がある。
スキルの使い方だ。
『スキル、仕入れ!!』
空中に浮かぶ半透明のステータスウインドウから仕入れという項目を指でタップする。
そして今買える品目リストから調味料を選択し、更に塩、コショウ、醤油、味噌、油を選択!
すると、ここに通貨を入れるようにと、魔法陣が出てきた。
俺は銅貨を入れて、ひとまず麻袋に入れて持てる分だけ調味料を買う。
これから助けてくれた漁師の家に行って、この調味料で料理でも作って恩返しをしようと思う。
今の俺が出来るのは……このくらいだから。




