第8話 詰問
秦岳が訪ねてきたとき、林瓶は薪を割っていた。
午後の陽射しが、白く聚霊谷の土の庭を照らしている。地面は焼けつくように熱い。雑役たちはみな室内で休んでいた。垣根の下では数羽の鶏がぼんやりと土をつつき、遠くの灶房からは包丁が俎板を打つ鈍い音が、途切れ途切れに聞こえてくる。この谷の午後は、いつもこんなふうだ。
林瓶は灰色の襦袢を一枚、上半身に引っかけているだけだった。丸太が真っ二つに割れ、鈍い音を立てて地面に落ちる。木片が飛び散り、汗ばんだ腕に張りついた。すでにかなりの量の薪を割っている。それでも息は乱れていない。動きには一定のリズムがあった。
誰かが院子に入ってきたことにも、気づかなかった。
目の前の薪の山に影が落ちて、ようやく気づいた。
林瓶は斧を止め、顔を上げた。
——秦岳が、二歩先に立っていた。
鎮獄峰の大弟子。三十二歳。太乙宗二師兄。深い藍色の執法袍をまとい、腰には玄鉄令牌を下げている。その顔からは感情がまったく読めない。
林瓶は斧を置き、身を起こした。
「秦師兄。」
秦岳は頷いた。だが、すぐには口を開かなかった。視線が林瓶の全身をひととおりなぞる。何かを確かめるような目だった。
やがて口を開く。声は、日常の問いかけのように淡々としていた。
「林瓶か。聚霊谷の雑役。」
「はい。」
「入宗して、十年になるのか。」
「はい。」
秦岳はもう一度頷いた。腰から名簿を取り出し、数行に目を走らせてから顔を上げる。
「最近、宗内で不審なことは見なかったか。立ち入るべきでない場所に、誰かが——」
林瓶の心臓が、かすかに縮む。だが、こうした問いにはもう備えができていた。柳絮の探り。陸青の威嚇。それらを経て、林瓶の盾は少し厚くなっている。
「いいえ。私は雑役の仕事をしているだけです。行く先はすべて、内務長老の指示によるものです。」
秦岳はすぐには答えなかった。名簿を閉じ、掌の中で軽く叩く。何かを測っているようだった。
そして次の問いが来る。口調は変わらず淡々としている。だが、その鋭さは明らかに一段増していた。
「お前が最後に鎮獄峰へ物資を届けたのは、いつだ。」
林瓶の呼吸が、ほんの一瞬止まる。
——ためらうな。ためらえば、それだけで疑われる。
林瓶は少しだけ顔を上げた。思い出すふりをするように、ごく自然な間を置く。そして日付を口にした。「死ぬ」直前、あの日の日付だ。さらに不自然にならないよう、補足を添える。
「そのときは補修用の木材と縄を届けました。内務長老の指示です。」
秦岳は林瓶を見ていた。敵意ではない。だが、見定めようとする目だった。
数秒、沈黙が続く。
やがて秦岳は視線を外した。
「もういい。行っていい。」
そう言って振り返り、歩き出す。二歩ほど進んだところで立ち止まり、振り返らないまま言った。
「仕事に専念しろ。」
それだけ言い残し、秦岳は院子を出ていった。歩調は来たときと変わらない。落ち着いていて、速くも遅くもなかった。
その背中が院門の向こうに消えるまで、林瓶は動けなかった。
やがて自分の手を見る。斧の柄を握っていた指先は、血の気が引いて白くなっていた。林瓶はゆっくり指を開き、関節を動かす。背中には冷たい汗が流れていた。
――
しばらくして、林瓶は斧を足元に置いた。背を柱に預け、院門のほうを見つめる。陽射しが土の庭を白く照らしつけている。その眩しさの中を、ただじっと見ていた。目が痛くなって、ようやく視線を外す。
秦岳は、わざわざここまで足を運んできた。
柳絮とは次元が違う。柳絮は「偶然」を装っていた。探りと好奇心、そしてかすかな警告。だが秦岳は名簿を持ってきた。準備してきたのだ。はっきりとした狙いがある。
問いも具体的だった。
「鎮獄峰へ——最後に——いつだ」
峰の名をはっきり口にした。これは、知っているからこそできる質問だ。
秦岳が最後に言った「仕事に専念しろ」。あれはただの励ましか。それとも、「余計なことに首を突っ込むな」という警告なのか。
林瓶には判断がつかない。
崩れた薪の山を積み直す。そして再び斧を握る。
腕を上げる。丸太が割れる。木屑が飛ぶ。
何本か割ったところで、林瓶は手を止めた。斧を壁に立てかけ、枕の下からあの玄鉄令牌を取り出す。
冷たい。重い。
月明かりが窓から差し込み、令牌の表面に刻まれた「法」の字の紋様を、くっきりと浮かび上がらせていた。
林瓶はそれを握ったまま、しばらく座っていた。何かを考えていたわけではない。ただ、その冷たさと重みを感じていた。
遠くで鈍い音がした。何か重いものが岩壁にぶつかったような音だ。大きくはない。だが、夜の静けさの中では遠くまで響いた。谷間に何度か反響し、それから消える。
林瓶は令牌を握りしめたまま、耳を澄ませた。
音は、二度としなかった。




