睡蓮ー透光編ー
【よくある質問】
大バキュラは第何バキュラですか?
【回答】
第陸バキュラ
輝は顔を上げた。
目の前にバキュラがいる。
今のところ、動きはない。
ただ見ている。
輝:『チョコチップメロン、食べる?』
そう言って輝はクソデカいチョコチップメロンパンを手品のように両手から出してバキュラに見せた。
バキュラ:『……』
バキュラはチョコチップメロンパンを見た。
輝:『実はパン嫌いなのだよ。ただ、丸いのが落ち着くから買っている。それだけなのさ。さあ、一緒に食べよう』
そう言って、輝はチョコチップメロンパンを床に置いて靴紐を直した。
バキュラは触手を伸ばしてチョコチップメロンパンを取った。
輝:『バキュラ、それは二人で食べるチョコチップメロンパンだぞ』
バキュラはチョコチップメロンパンを掴んだまま無言で輝を見つめた。
バキュラの瞳の五色の光が、ゆっくりと混ざり、やがて深い一色へ沈んでいく。
その色は、さっきまでの闇の光ではなかった。
輝は、その視線を受け止めた。
輝:『嫌いなものにお金を使う。軽い選択だったな』
輝の目は、まっすぐバキュラを捉えている。
何かを理解した者の、静かな余裕を感じた。
バキュラは輝の瞳を見て、チョコチップメロンパンを輝に返そうと、ゆっくり触手を下した。
輝:『二人で食べよう』
輝はニコッと笑った。
バキュラもつられて笑みを見せた。
輝は、ゆっくりとチョコチップメロンパンに手を伸ばした。
バキュラは輝の掌を見て目が輝いた。
そこに確かにあたたかい風があった。
その刹那、乾いた破裂音がした。
空気を裂く短い衝撃と銃声と共にチョコチップメロンパンが弾けた。
中心から抉られ、内側から押し出されるように裂けた。
生地とチョコチップが四方に飛び散り、破片がアスファルトを叩いた。
バキュラの触手が、ぴたりと止まり、銃弾が飛んできた方向へ向いた。
その先に人影あった。
バキュラの身体が、わずかに前へ傾く。
行く氣だ。
バキュラ:『ギュラアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!』
バキュラは六本の触手を同時に伸ばし、ニンゲンを襲い掛かった。
輝は覚悟を決めた。
ここで行かせたら終わる。
止めるなら、今がその時である。
輝は空を見つめながら左手から80mの特大のハリセンを取り出し、踏み込んだ。
地面を蹴るように駆け、バキュラの前に身体ごと滑り込む。
そして、巨大なハリセンを持ち上げ、乾いた音が空気を裂くように地面を叩きつけた。
ハリセンが地面にめり込んでいる。
バキュラの視界を塞いだが、ここで油断したらハリセンを貫通してニンゲンがやられる。
輝は走って銃を持ったニンゲンの前に立ってハリセンを両手で押さえた。
一歩間違えれば、即死だ。
両手に、あり得ない圧がかかっている。
地面にめり込んだハリセンが、わずかに軋む。
下から押されているのが体に伝わり、輝は銃を持ったニンゲンが腰を抜かしている中で独りでバキュラを止めていた。
ハリセンから手を離したら終わる。
そう、思った瞬間、視界の片側が弾けた。
輝:『……………………!!!!!』
焼けるような痛み。
輝の身体がわずかに揺れる。
ハリセンを押さえたまま、呼吸が乱れた。
片目が見えない。
温かいものが頬を伝う感覚がした。
裏で死んでいるように生きていた場所に光が照らし、芽が出る瞬間の生温かい感覚だ。
バキュラの触手が輝の左目に直撃し、目玉が綺麗に抉られている。
痛みの向こうに世界が透き通るように見えた。
灰色の曇りは消え、金星がおうし座に移動した光が現実を整えていくかのようだ。
その時、輝は分かった事がひとつある。
見ていなかったのは自分だった。
世界をちゃんと見たくなかったニンゲンの一人だった。
剛仁からも白石からも弟からも親からも全部から逃げてきた。
輝の胸の奥で、ずっと絡みついていた剛仁への恨みの呪縛が熱と光と共に溶けていく。
剛仁への恨みという呪縛、軽く考えて使ってきたお金や選択、曖昧だった人間関係。
それらを一つずつ解き放つ瞬間だった。
輝は胸の奥で、ずっと避けてきたものを確かめた。
本当に大切なものは儚い光の中にあった。
左目から流れる温かい血も、もはや恐怖の色を帯びていない。
それは、恨みの呪縛を手放した証でもある。
剛仁への恨みも、弟や親・白石への迷いも、空へと溶けていった時、本当は全部愛していた事に氣づいた。
これが時代が幕を開けた瞬間だった。
輝は笑った。
世界を初めて正しく見れた。
やっと、そこに立てた。
覚悟が決まった顔だ。
輝はダブルピースをして満面の笑みでバキュラに顔を見せた。
世界が透き通って、全ての色と感情が呼吸しているかのようだった。
血に濡れた頬。
片目は潰れ、視界は欠けている。
それでも、その笑顔は崩れなかった。
子供のように無防備で、すべて手放した者の顔だった。
それを見たバキュラは、自分の触手が輝の目に刺さっている事に気づき、驚いて固まっていた。
六つの触手が震え、空気の圧が変わった。
押し潰すような重さではない。
今までとは違う見方で輝の中身を見ている。
選択と覚悟を。
触手をゆっくりと引いた。
輝の目を貫いた触手が音もなく抜かれた。
血が流れ落ちている。
バキュラは触手をゆっくりと下ろし、輝の瞳をじっと見つめた。
その眼差しには、土星の重厚さと静かな承認の力が宿っていた。
血の匂いも、痛みも、もはや恐れではない。
すべては光を取り戻すための通過点だったのだ。
輝:『空、奇麗だな。嫌いなものに使った金も無駄じゃなかった。ここで、本当に必要なものを残すための学びだ。二人でこの光を感じる事ができて嬉しい。ありがとう、バキュラ』
バキュラは一歩、後ろに下がった。
地面が沈でいる。
それは襲うための距離ではなかった。
境界線に立っていた。
夜空の土星の冷たくも厳格な光がバキュラから漏れ出した。
重力のように、すべてを締め上げる力がそこにあるかのように。
バキュラは輝を見下ろしながら静かにゆっくりと口を閉じた。
バキュラ:『吽』
その一語が、空間を震わせた。
それは輝が手放した呪縛を受け取り、秩序として固定する音である。
世界は揺らぎ、透光の光が辺りを包み込む。
すべての価値観が整列し、金星おうし座の安定が、現実の質を引き上げる。
不必要なものは手放され、本当に残すものだけが、輝の視界に映っていた。
吽の現実が静かに降り立った瞬間だった。
この瞬間、剛仁への恨みの鎖を解き放った自分と、バキュラの吽が、この世界の答えになったのだ。
光と価値、愛と安定、全てが交わる場所に二人は立っていた。
外の世界はまだ荒れ狂っているかもしれない。
透光の世、ここにあり。
光、確かに存在する。
そこに到着した瞬間、周囲の現実がリセットされ、目に見えない秩序が整列していく。
手放すものは自然に還した。
土星の重さと金星の安定が交わるこの瞬間、二人の世界は透光の世として完成。
そして、すべてが揃い、輝は本当の意味で自由になった。
その後、世界は変わった。
浄光はツインテールの美少女にビデオ通話で早朝に別れを切り出した。
浄光:『別れよう』
浄光は朝食のフランスパンとポーチドエッグを眺めながらシンプルにこれだけを言った。
すると、ツインテールの美少女が『別れ話なら会って話そうよ』と返した。
浄光:『優しくする時間は、もう無いから』
ツインテールの美少女:『なんで?』
浄光:『お金や物でしか関係が続いていないって感じるからだよ』
ツインテールの美少女:『必要なものだからちょうだいって言って何が悪いの?』
浄光:『お金も果物もあげる余裕ないって言った日に会った日あった?』
ツインテールの美少女:『それは……ないけど……』
浄光:『それが答えだよ。会う条件がお金・物は、おかしい』
ツインテールの美少女:『じゃあ、もう死ぬ!遺書にこうちゃんに無理やりされて辛くなったって噓書いて首吊って死ぬから!』
浄光:『そういうこと言うのは心配になるけど、もう関係を続ける余裕がない』
ツインテールの美少女:『別れたくない!こうちゃんじゃないと嫌!』
浄光:『何かあると、すぐ死ぬ死ぬって脅されるの嫌だよ。そういう言動疲れる』
ツインテールの美少女:『………もう、言わないから』
浄光:『言わないって言って何回繰り返したよ?』
ツインテールの美少女:『もう言わない!絶対言わない!』
浄光:『無理。じゃあ、もう切るね。お元気で』
そう言って浄光は通話を切った。
この日、剛徳寺に事件が起きた。
剛仁が学校に行こうとランドセルを背負って門から出ようとした時の事である。
門の先に刃物を持ったツインテールの美少女が立っていた。
剛仁:『……!』
ツインテールの美少女:『浄光さん、今、居るでしょ。呼んできて』
剛仁:『だぁれ?』
ツインテールの美少女:『こうちゃんの彼女。早く連れてきて。居るの知ってるから』
剛仁:『あの……、浄光さんっていう人、私、知らない。ここにそのような名前の人、居ないよ?』
ツインテールの美少女:『知らないわけないでしょ!呼んできてよ!』
この後、剛仁は寺に戻って最蔵を呼んだ。
すると、驚く事に誰も浄光を知っている者は居なかった。
不思議なことに通話履歴も消していない筈なのに浄光と通話した履歴は無かった。
それどころか、浄光という存在を知る者はだれ一人として居ない。
ツインテールの美少女は取り残されてしまったとさ。
次回はGWに公開します
第壱バキュラ・第肆バキュラ・第陸バキュラと新キャラも登場
実話あり・イラストあり
お楽しみに




