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伝説のスーパースター大饅頭

澄子は久しく剛徳寺のお土産売り場でバイトを再開した。

お店の中に入ると、温かい空気が漂い、穏やかな寺の雰囲気が心を和ませる。

短い期間ではあるが、この場所で過ごしてきた照子と再会できることを心から楽しみにしていた。

照子は、元気で明るい性格を持っており、いつも澄子を自然と笑顔にしてくれる。

澄子が店に到着すると、照子は嬉しそうに澄子を迎えた。


身体を心配しつつも、目を輝かせながら澄子を歓迎した。

澄子は微笑みながらレジの前に立った。


剛徳寺のお土産売り場は、住職の桂之助がお寺に興味を持つ人を増やしたいと一心に考えた結果、生まれた場所である。

このお土産売り場は、地元の人々や観光客に長年親しまれているが、苦行の過去があった。


この日、初めてこのお店が誕生したときのエピソードを、照子から聞いた。


それは、桂之助が、地元のお気に入りの饅頭屋に『この店を私のお寺に移動してほしい』と大胆な提案をしたとき、店長は怒り心頭だったという。

だが、桂之助は決して諦めず、交渉を続けた。

最終的に、店長は『店ごとの移動は無理だが、私のお饅頭の作り方を教えた店員を譲ろう』と譲歩した。

その店員が照子である。

照子はその後、桂之助と共にお饅頭を作り、姉妹店として店長と固い絆で結ばれ、剛徳寺の名物に広めていったのだった。


通常、この店では天台宗のスーパースターの顔が焼印された大饅頭が売られている。

特別な縁日には桃の餡子を使った桃大饅頭も販売され、これが地元でも大人気である。


そして、今日、澄子は照子からお饅頭の作り方を学ぶことになった。

照子は、嬉しそうに自分の作業スペースを指差し、まずは生地を練るところから始めた。

澄子は、照子の手際の良さを見ながら、ワクワクしながらその場に立っていた。


照子の指示に従って生地を捏ね始めた。

小麦粉の香りが漂い、手のひらに伝わる感触が心地良い。

照子は、何度も澄子の手を優しく導きながら、細かいポイントを教えた。


照子:『餡子は、絶対に自家製が一番美味しいから、店長はずっとこれにこだわっていたの』


と照子は続けた。


照子:『特に桃大饅頭の餡子は、フレッシュな桃を使って作るから、甘さと酸味のバランスが絶妙なの』


澄子は、照子の話を聞きながら、作業に集中した。

生地を整え、餡子を包む。

手先の感覚を大切に覚えながら、丁寧に作業を進めていくと、次第に自分の中にもお饅頭作りの楽しさが芽生えていくのを感じた。


澄子は、照子と共に時間を忘れてお饅頭を作り続け、次第にその楽しさに浸っていった。

お店の歴史や仲間たちとの絆を思いながら、お饅頭作りを通じて、澄子は新たな一歩を踏み出した。


剛徳寺のお土産売り場には、もう一つ伝説的な出来事があった。


それは、お土産売り場開業から10年が経過した頃、経済危機に襲われ、閉店することになってしまった時のことである。

そんな閉店事情を知りながらも、10周年を記念して10歳のスーパー破壊アイドルが剛徳寺で歌を披露するという衝撃のイベントだった。


このアイドルは、デビュー当初からメンタルが図太く、どんな批判の嵐にも動じず、真っ直ぐ破壊的なスタイルで話題をさらっていた。

彼女のデビュー曲は“キラキラ”というタイトルで、初めてのパフォーマンスでありながら、何とその最中にステージを豪快に破壊。

ちゃんと破壊していくスタイルは、どの場でも貫いていた。

観客たちは目を丸くし、驚きと興奮が入り混じる中、彼女は全く動じることなく、“汚い大人”という自作の歌に切り替えた。

その曲は、アイドルらしからぬテーマで、大人社会への反発や不満を赤裸々に表現していた。


アイドルとしてのデビューを果たした彼女だったが、彼女の持ち歌は、当時のアイドルの常識を打ち破るものであった。

通常アイドルとは、華やかな衣装を身にまとい、キラキラとしたダンスを披露するところを、彼女は全く逆のスタイルを選んだ。

用意された衣装は一切着ず、ボロボロの短パンに穴の開いた靴下、そしてヨレヨレのタンクトップ姿で両手にゴミ袋を持って登場したのだ。

視聴者たちは、その姿に唖然としながらも、彼女の歌声に引き込まれていた。

彼女の歌唱力と持ち前の体の柔らかさとキレキレのダンス力は抜群で、どんな曲でも心に響くような力強さと心を持っていた。

人々が彼女の歌を聴くと、何を伝えたいのかが明確に感じられ、そのメッセージは心の奥深くに届いていた。

声にも魂が宿り、まるで彼女自身が生きていることの証明のようだった。

そんな彼女のパフォーマンスは、徐々にファンを増やし、特に破壊的なスタイルに惹かれる層が多かった。


ところが、剛徳寺の住職は記念という言葉に良く思わず相手にしなかったが、彼女には熱意があった。

なんと、彼女は自分から直接、スーパースター大饅頭の空箱を持って『私と同じ10歳のお店を記念して何が悪い。お誕生日だって一緒だし、剛徳寺のお饅頭をおばあちゃんと一緒に買ったことだってあるんです。閉店反対。スーパースター大饅頭を返せ』と感情的に抗議し、無許可でお寺に登場し、無許可で閉店したお土産売り場の前で生中継で全国テレビで歌を堂々と披露し、警察が出動する事件が発生した。

お店には閉店と書かれた紙をビリビリに破り、“お土産屋10周年記念イベント”と書かれたデカ文字がかかげられており、お土産売り場の店員が付けていた紫色のリボンを自作で作ってはちまきのように頭に巻き、黒いビニール袋で作った自作の衣装で破天荒っぷりを見せつけながら、僧侶たちに睨まれる中、彼女は最後まで真顔で歌を披露していた。


挿絵(By みてみん)


その時に披露したのは“大復活☆剛徳寺のスーパースター大饅頭”という歌であった。


剛徳寺のお土産売り場での10周年イベントでは、彼女の独自のダンスも見どころの一つだった。

いきなり歌うのは失礼だと感じた彼女は音楽が流れる前に自ら天台宗に沿ったやり方で合掌してから歌を披露した。

その前に色々とお寺の関係者をキレさせているので、もうアウトなのだが…と、スタッフは涙目になりつつ、見守った。

そして習った振り付けをフル無視し、まるでお寺のお土産売り場の苦行の過去を表現するために踊っているかのように、自由奔放な動きで舞台を彩った。

誰も読まなさそうな場所(店内の端っこ)にひっそりと書いていたお店ができあがるまでの苦行の過去とスーパースター大饅頭への熱量とおばあちゃんとの思い出を語りながら、天台宗のスーパースターの志を歌とダンスで全国に響かせ、地球がついていけず、カタカタ揺れている。

一番揺れていたのは本店であった。

睨んでいた筈の僧侶たちはその姿を見て、驚きと共に涙を浮かべ、自然と頭が揺れていた。

彼女の存在は、アイドルの常識を覆し、新たな風を巻き起こすものとなっていた。


しかし後日、彼女は非常識だと全国から批判の嵐に襲われ、アイドル活動を強制的に休止させられた。

更に迷惑行為につきお寺から出禁を言い渡された。

それだけでなく剛徳寺まで多くの人から批判され、彼女が良かれと思ってやった行為が大変な事態になっていた。


そんな時、彼女は誰の手も借りずに一人で何度もお寺とお土産売り場の本店に頭を下げて反省し続けていた。

彼女の親は不動産の社長だが、そんな親の手すらも借りずに一人でお寺に謝りに行った。

そして、自分の給料を全て剛徳寺のお土産売り場に寄付して5年かけてお寺に許してもらい、店員をお寺に返してもらう為に本店に何度も頭を下げて、彼女一人の力でお店を大復活させたのだという。

親にも頼らず、ツテの手も借りず、事務所にもスタッフにも関係者にも黙っていたが、住職が彼女の大真面目な一面と熱意を黙っていられなくなり、法話で語ってしまい、お店が復活した流れを世間に知られてしまうのである。

休止中にそんなことがあった事は親も関係者も知らず、両親はすぐに謝罪した。

この騒動には全米が全身で泣いた。


地獄のような5年の嵐を抜け、10周年記念大復活イベントに彼女が特大サイズの丸いスパースターの大饅頭の着ぐるみ姿でド派手に登場し、人々を笑わせただけではなく、歌とパフォーマンスを磨いて再び世間を湧かせた。

“大復活☆剛徳寺のスーパースター大饅頭”ではなく、“大復活☆剛徳寺のスーパースター大饅頭音頭”に変えて披露した。

僧侶たちは涙目で応援し、住職はスーパースター大饅頭にここまで思い出があるものになることなど予想できなかったと語った。


その後、スーパースター大饅頭を求めて剛徳寺にやってくる観光客が増えたという。

本店まで売り切れが続き、昔ながらのシンプルな味にやみつきになるなることから予約でパンパンになるほどであった。


そして、彼女はアイドルを引退する最後の瞬間まで世の中にブレずに破壊スタイルを貫き続けた。

大人たちが求めるアイドル像を真っ向から否定し、その姿勢を貫くことで、多くのファンを惹きつけていった。

彼女の人気はどんどん高まり、警察沙汰になった剛徳寺でのイベントは、まさに伝説となった。

また、彼女は天台宗の魅力に気づき、将来は剛徳寺の僧侶になることが夢だと語っていた。

その伝説のスーパー破壊アイドルとは、一条楓芽のことである。

宣言した言葉通り、今は剛徳寺の僧侶として真面目に生きている。


澄子は、その伝説を聞くたびに、剛徳寺のお土産売り場が持つ魅力や歴史の深さを感じた。

照子とのお饅頭作りを通じて、この場所の一部となりつつある自分自身を再確認し、楓芽のように自分の道を突き進む勇気をもらったような気がした。

剛徳寺は、ただの観光地ではなく、そこで繰り広げられる数々の物語が人々の心をつかんでいく、そんな特別な場所であることを感じていたのであった。

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