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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
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0870 四号君の姿

「四号君……」

ゾルターンの剣を弾き返し、その前に立ちはだかったのは、全長一・五メートルの水色のゴーレム。


ザックを守るように立つ四号君。

その後ろで、王国騎士団員がザックを回収する。


その様子を四号君は見ない。

まるで、背中で認識しているかのような……()()()()なら必ずそうすると信頼しているかのような……。



ゾルターンの正面に立ち、剣を構える。


まるで涼のように……四号君用特注剣『村雨改』を正眼に構える。


王国騎士団との交流の中で、多くの剣術に触れて進化させてきた。

しかしそれでも、最も根本にあるのは創造者である涼の剣だ。



「小さきゴーレム……我がゴーレムたちと戦っていた白いゴーレムとは……全く違うな。これは、かなり興味深い」

ゾルターンが呟く。


ゾルターンも剣を構えるが、動かない。

四号君の力を()(はか)るかのように……。


「ゴーレムなのは間違いない。金属ではなく、透明の……氷か? 氷? 水属性? もしや、先ほどザックが言っていた『水属性の魔法使い』と関係がある?」

ゾルターンの呟きには、誰も答えてくれない。


ここは戦場。

そもそも小さな声であるため、目の前の四号君にしか届かない。


そして四号君は(しゃべ)らない。


仕様上喋れないだけなのだが、その立ち姿はまるで……。


剣士に言葉は不要。剣で語れ。

そう言っているかのようだ。



「剣で語れ……そう思わせるほどに、見事な立ち姿よ」

ゾルターンですら認めざるを得ない。


自分でゴーレムを制作したからこそ、余計そう思う。

「我のゴーレムに、これほど見事な雰囲気を(まと)わせることはできなんだ。当然、見た目だけの問題でなく、ふさわしい力を内在するからこそ、それが表に溢れ出てきているということ。例の水属性の魔法使いが、魔法使いとして大したことなかったとしても、このゴーレムを造りだしたことだけで、歴史に名を残すやもしれんな」



絶賛。


正直、ザックはああ言ってはいたが、そこまでは期待していなかった。

人が言う『凄い』というのは、ヴァンパイアの公爵以上にとっては、実はたいしたことない……そういう経験を何千年もしてきたからだ。


だが、目の前に立ったゴーレムは……。


見事。



「とはいえ、ゴーレムの本当の評価は、戦ってみねば分からん」

そう呟くと、ゾルターンは神速の踏み込みで、四号君の間合いを侵略した。


カンッ、カンッ、カキンッ……。


ゾルターンの連撃を、流し、流し、弾き返す四号君。



「小さくとも力は人以上、我らヴァンパイア並みか。さすがゴーレム」

ゾルターンは、四号君の力を認める。


「いや、それ以上に、スムーズな足さばき……いやいや、違う。我がゴーレムに持たせることができなかった、関節のスムーズな使い方。あれがあるからこそ、我の剣を流すことができたのだ。これは……すごいな」


再びゾルターンは四号君の間合いを侵略し、連撃。


十数合、剣を合わせる。


有効打を与えることができず、大きく後方に跳んで距離をとる。



「見事なものだ」

何度目かの、口から漏れる称賛。


「実際に、どうやって身に付けた? 頭の先から足の先まで、完璧だ。ある種、剣士の理想の形と言ってもいいだろう。人ですら、身に付けるのは難しい。いや、むしろ人だから難しいのか? ゴーレムなればこそ可能? 直感的にはそう思うが……ならば我がゴーレムを、具体的にどうすれば、この高みにまで達することができるかと問われれば、答えることはできん」

ゾルターンはそこまで考えて、ふと四号君の向こう側を見た。


ポーションを飲まされ、さらに<ヒール>も受けたザックが座らされ、二人の戦いを見つめている。


「ゴーレムと人との絆……?」

ゾルターンの頭に突然(ひらめ)く。


確認する方法は一つ。


「おい、ザック! このゴーレムを鍛えたのはお前か!」

怒鳴って質問する。


「……戦場でする質問じゃないだろ」

呆れたように、だがまだ流した血が戻っていないために小さな声で答えるザック。


「疑問を持ったら解決する。錬金術に取り組む際の、大切な姿勢だぞ!」

ヴァンパイアは耳も良いため、少し離れていてもザックの声を完全に聞き取れるようだ。


「何でヴァンパイアのくせに、人間の錬金術師みたいなことを言ってるんだ」

「お前たちの言う錬金術師の定義はよく分からんが、この小さきゴーレムを造った者は錬金術師と呼んでよかろう? 我もゴーレムを造ったのだから、同じ様に錬金術師と呼ぶべきであろう? 何か変なことを言っているか?」

むしろ、ゾルターンが首を傾げる。


「……そうだな。そうかもしれん。俺が、人やヴァンパイアという枠に囚われ過ぎていたようだ」

「ザック、なかなか柔軟(じゅうなん)な思考じゃないか」

「その、上から目線で言われるのはムカつくがな」

ゾルターンは笑いながら言い、ザックは顔をしかめる。



「しかし、この小さきゴーレム、自らは攻撃してこんな」

「俺を守ってくれているんだろう」

「うん?」

「四号君は、俺たちよりもはるかに視野が広いし、考えて動くことができる。この広がった戦場の中において、自分の置かれた状況と行動すべき内容について、きちんと考えて動くことができる。今、この場で最も適切な行動は、俺を守ることだと判断したのだろう」

「……凄いな。そこまで自律的に考えて行動できるだと? 我らの半ヴァンパイアのゴーレムより賢いのではないか?」

ザックの答えに、小さく首を振るゾルターン。


ゾルターンが造ったヴァンパイア側のゴーレムは、正確にはゴーレムではない。

中に、ヴァンパイアが入っており、それらがゴーレムを動かしている。

だがそのヴァンパイアは、ゾルターンが錬金術で『促成栽培』したものたち……だから、双方を合わせて、『錬金術によって生み出されたゴーレム』という点は事実。


そんな、人工生命的に生み出されたヴァンパイアたちであるが、目の前の小さきゴーレムほどには、剣を使えない。

だから当然、それにゴーレムの『ガワ』をかぶせても、スムーズな剣を振るうことはできない。


四号君の剣術を際立って称賛する理由だ。



「小さきゴーレムに攻撃させるには、さて……」

ゾルターンのその呟きは、誰にも聞こえない。


小さく頷くと、ゾルターンは一気に四号君の間合いを侵略、大きく剣を打ち下ろし、つばぜり合いとなる。

そのまま、体を入れ替えた。


それによって、四号君とザックの間に、ゾルターンが挟まれる形になる。

しかしそれは同時に、ゾルターンがザックに攻撃を加えようとしたら、四号君の位置からでは守れなくなるということ。


「さあ、この位置なら、攻撃してザックの身を取り返さざるを得まい」

「ゾルターン!」

意図を理解したザックが、悔しそうに怒鳴る。

負傷から回復しきっていない自分のせいで、四号君が無理な攻撃に出ねばならなくなったからだ。


「悪いなザック。小さきゴーレムの攻撃も見てみた……」



ゾルターンの首が斬り飛ばされた。

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