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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
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0864 混沌

「互角?」

「いや、わずかにホーリーナイツが押されています」

アベルの言葉を、自ら趣味で錬金術に(いそ)しむと公言する涼が修正する。


「ホーリーナイツは列を組んで戦っていますが、ヴァンパイアゴーレムはバラバラです」

「そうだな」

「そのために、ホーリーナイツは標的が上手く絞れず、戦い方が曖昧(あいまい)になっています」

「ゴーレム戦もいろいろあるんだな」

涼の指摘に、アベルが小さく首を振る。


アベルは国王として、その前も経験豊富な冒険者として、部下や後輩冒険者らを率いて戦闘指揮を行った経験がある。

だから、戦闘指揮が難しいことを知っている。

どうもそれは、人だけでなくゴーレムにおいても同様らしい……。




オスカーは剣だけでなく、<ピアッシングファイア>など近距離での魔法も繰り出しているが、ゾルターンが適時展開する<障壁>を破れていない。


ゾルターンの方が、余裕を持って戦いを進めている。

当然、自軍のゴーレムの戦いも理解している。


「グラハム、ゴーレム指揮はまだまだだな」

「何?」

「いや、戦略的思考がまだまだというべきか?」

かなり大きな声であるため、グラハムにも聞こえたようだ。

もちろん、グラハムの近くに立つ涼やアベルにも聞こえた。


「戦略的思考?」

「これを見れば分かるか? ゴーレム第二軍団を投入するぞ!」

ゾルターンの言葉が響くと、奥からさらにゴーレムが出てきた。


しかも……。


「最初と同じくらい?」

「倍になるということか」

「合計百体……?」

アベルも涼も驚く。


「戦略的思考が足りないというのは、そういうことか……」

グラハムが新たに出てきたゴーレムたちを(にら)みつけながら、声を絞り出す。


「え?」

意味が分からない涼。


「つまり、四十カ所もの採掘場を二年にもわたって占領し続けた。大量に鉱石類を手に入れたはずなのです。それで作り上げたゴーレムが、たった五十体のわけがないだろうと」

「ああ……大量の鉱石を手に入れたということは、大量のゴーレムを製造した? 今、百体ですけど、それよりもさらに……ある?」

グラハムの説明に、涼も理解する。


同時に顔を思いっきりしかめる。

現状でもかなり厳しいのに……。


四十体のホーリーナイツだけでなく、最後の切札ともいえる十体のホワイトナイツも投入される。



ヴァンパイアゴーレム百体と、ホーリーナイツ四十体+ホワイトナイツ十体の戦い。



「それでも厳しいな」

「はい……」

アベルの言葉に、涼は頷く。

頷くのだが、同時に首を傾げる。


「どうした?」

「いえ……ヴァンパイアゴーレムなんですけど、何か違和感があるんですよね」

「違和感?」

涼の言葉に、今度はアベルが首を傾げる。

正直、アベルは涼の言う違和感は分からない。


「確かに、大きさはホーリーナイツよりは小さいな。ホワイトナイツよりは大きいが」

「ええ。全長二メートルちょっと、って感じですよね」

アベルの指摘に涼が頷く。


人間でも、ウォーレンのような体格なら、同じくらいだと思える。

法国のホーリーナイツ、共和国のシビリアン、あるいはハンダルー諸国連合の人工ゴーレムであっても、全長三メートル。


現在、戦場に投入される主力ゴーレムは三メートルというのが、中央諸国でも西方諸国でも共通認識だということだ。


だが、先進的なゴーレムとして法国が投入したホワイトナイツは一・五メートル。

大きいものから小型化していく流れは、ゴーレムにもあるのかもしれない。

そう考えると、ヴァンパイアのゴーレムが二メートルちょっとというのは、不思議なことではないのだが……。



状況は、二人を置いてさらに進んでいく。


「奥から、さらに敵が!」

「ヴァンパイアが出てきました!」

そんな声が響く。


「ザック、スコッティー!」

「ははっ」

アベルの言葉に、二人の王国騎士団中隊長が答える。


「王国騎士団が前に出るぞ!」

「法国と帝国はサポートを頼む!」

ザックとスコッティーが怒鳴る。


グラハムが無言のまま、右手を掲げて二人の要請を受け入れる。

ここは平地だ。

正面からの衝突である以上、法国の異端審問官よりも、王国騎士団の方が対処しやすい。


いずれはさらに戦場が混とんとしてくるかもしれない。

残骸(ざんがい)と化したゴーレムなどを障害物にして、異端審問官たちが力を発揮できる戦場に変わっていく可能性がある。



だが一人、ソワソワしている水属性の魔法使いがいる。

味方が目の前で戦っているのに、奥に引っ込んだままなのが嫌らしい。

「僕も戦いに加わるべきでは……」

「待て。恐らくゾルターンは、別の札を切ってくるぞ」

アベルが冷静に指摘する。


アベル自身も、先頭に立って戦う方が向いている……そう自覚している。

だが、涼と『十号室』だけを傍らに置いたまま、まだ留まっている。


「さっき言ってた、さらなるゴーレムの投入ですか?」

「それもあるが……さっきから、あの奥、嫌な気配がしてくるんだ」

「あの奥?」

ゴーレムたちが出てきた奥の方をアベルが見て、涼もそちらを見る。


「<アクティブソナー>」

涼はソナーの魔法で探る。


だが……。


「空気の膜というか、真空の膜というか……そんなのがあって、奥の方は分かりません。それなのに、アベルは分かるのです?」

「ああ、分かる。やたら強いのが四体、他がたくさんだ」

アベルがそう言った次の瞬間だった。


奥から何かが飛び出してきた。



ガキンッ。



一歩前に踏み出して、剣で受けるアベル。

「女性? ヴァンパイア?」

「ほぉ、人間のくせに私の剣を受けるか? ゾルターンの馬鹿に叩き起こされた時はぶん殴ってやったが、これほどの人間相手のために起こされたのなら、悪くない」

アベルの言葉に、女性外見のヴァンパイアが笑いながら答える。


「私の名はネダ、ルミニシュ公爵だ」

「ほぉ、俺の名前はアベル、ナイトレイ王国国王だ」

互いに名乗り合う、ヴァンパイアの公爵と人の国王。


その会話が聞こえて、一気に顔をしかめたのはステファニアとグラハム。

「まさか、ルミニシュ公爵は……」

「ああ、名前の残るヴァンパイア公爵九人の内の一人。『剣閃のネダ』……」

「よく知っているではないか。その服からして、教会の高位聖職者辺りか。心配するな、他の者たちの相手も準備しているようだぞ」

やはり笑いながら言うルミニシュ公爵ネダ。


その言葉通り、奥から三人のヴァンパイアが走り出てきた。


「伯爵三人だが、まあ何とかなるだろ」

「ニルス、アモン、頼む!」

アベルが後ろも振り返らずに怒鳴る。


「承知!」

「はい!」

ニルスとアモンが答えた。



その光景を見ていた、別の人物も動こうとしていた。

「陛下、私もあそこに加わらせてください」

「分かった、行ってこいグロウン」

護衛隊長グロウンが求め、主たる先王ロベルト・ピルロが許可する。


戦場はさらに混とんとしてきた。

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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