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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第四部 最終章 暗黒戦争
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0855 採掘場

エトーシャ政府からの情報提供と、アドルフィト枢機卿が先に送り込んでいた者たちの情報収集によって、全四十カ所の採掘場の状況が分かってきた。

それに基づいて、ファンデビー法国軍は作戦を構築する。


それは、後方支援として待機することになっている王国陣営にも伝えられた。


「四十カ所、同時制圧ですか。すごいですね」

「だいたいどこも、ヴァンパイアは一体だけでストラゴイが十体ほどといった感じだな」

「ストラゴイって、ヴァンパイアに()まれた人がなっちゃう、あれですよね」

「ああ。ヴァンパイアほど強くはないし知性もかなり低くなっているらしいが、人間よりは速いし強いからな。エトーシャの軍だけで奪還できなかったのは仕方ないかもしれん」

アベルが指摘する。



「異端審問官だけでなく、ゴーレムも投入するようだ」

「ホーリーナイツですね。なるほど、彼らならヴァンパイアも圧倒できるでしょう」

アベルの補足に涼が頷く。


涼の中では、ゴーレムは『彼ら』呼びなのだ。

自らもアイスゴーレムを生成する涼ならではの基準があるらしい。



「それにしても、帝国の爆炎の何とかも投入されるのですね。しかも見たところ、一番敵の多そうな所じゃないですか」

「そりゃあ、強力な戦力だからな。一番厄介(やっかい)そうな場所に投入したいと思うのは当然だろう。それに、帝国側から、最前線で協力したいという申し出があったらしいぞ。帝国人であるハーゲン・ベンダ男爵救出に、協力してもらうのだからという理由らしい」

「くっ……そうやってグラハムさんの歓心(かんしん)を買おうとは、浅はかですね! さすがは爆炎です」

最後は皮肉のつもりらしい。


アベルは無言のまま首を振るだけだ。


「爆炎が投入される所と、法国軍主力が投入される所……どちらも鉄鉱石の採掘場ですけど、そこだけは、ヴァンパイアが多いんですね」

「そうだな。その二カ所はどちらも、ヴァンパイアだけで五体以上、ストラゴイの数は不明と書いてある。他とは比べものにならん」

「爆炎が失敗して、僕らに緊急出動がかかるかもしれません。気合いを入れておかないと!」

「……あの爆炎の魔法使いとルビーン公爵、その配下には二人がかつて鍛えた皇帝魔法師団の団員達がいるらしいぞ。それが、ヴァンパイア数体程度の制圧に失敗するか?」

「……しなさそうです」

アベルが肩をすくめながら言い、涼も渋々ながら認める。


涼は、爆炎の魔法使いことオスカーのことは嫌いだが、決して能力を低く見ているわけではない。

さらに妻であるフィオナに関しては、実はなかなかの傑物(けつぶつ)なのではないかとすら思っている。

だって、あの爆炎と結婚しているのだから!


「小さい頃から帝城で鍛えられた精神力、恐るべきです」

涼の呟き。


それを聞いたアベルは小さくため息をつき、もう一度詳細に資料を見直す。


そして気付く。

「ミトリロ鉱石の採掘場は無いな」

「ミトリロ鉱石って大陸南部で産出するんでしょう? ここ、大陸南部ですのに?」

「一番の産出地は南部でも東側、ニュートンの街の近くらしい」

「ああ、ニュートン」

涼が頷く。


いつもの適当相槌(あいづち)ではない。

有名な物理学者の名前と同じなので、キンメがカフェで言ったときに覚えていたのだ。

そこの港の近くでクラーケンの大群と戦ったとか。


「でも、ニュートン周辺以外で、全然産出しないというわけでもないんでしょう?」

「そうだと思うんだがな。少なくとも、今回奪還する一覧表には()っていない」

「表に出せない、秘密採掘場とかがあるに違いありません」

「なんだよ、表に出せない秘密採掘場って」

アベルが胡乱気(うろんげ)な目で涼を見る。


もちろん、涼のいつもの適当妄想であることは理解している。

それでも突き放したりはしない。

アベルは善い奴なのだ。


「密貿易に使うための鉱石を採るための採掘場です」

「密貿易?」

「誰にも知られないような、外国との怪しい交易です」

涼が、いかにもな表情で説明する。

アベルでなくとも胡散臭(うさんくさ)さを感じるだろう。


「例えば西部諸国連邦に属している国が、連邦政府に知られないように東部諸国と密貿易を行う、とかなら分かる。だが、このエトーシャ王国は独立国だろ。誰に気兼ねすることなく、交易を行ってもいいだろう?」

「た、確かに」

アベルの完璧な正論に、涼の怪しげな陰謀説は叩きのめされた。



「ミトリロ鉱石の件は、後でエトーシャ政府に聞いておくとして……」

アベルは思考を戻す。


ヴァンパイアが、四十カ所もの採掘場を占領し続けているという事実が存在する。


どんな場合でも問題になるのは、誰が、何のためにだ。


今回の「誰が」は、ヴァンパイアが。

「何のために」が、分からない。


「理由が分からないと、こちらは振り回されます」

「うん?」

「捕まえてみれば、倒してみれば分かると言うのですが、実はそれは間違いです」

「どういうことだ?」

「捕まえる相手、倒す相手は本当にその対象でいいのか? ミスリード……誤誘導されている可能性はないのか……本当の黒幕に、ということです」

「なるほど」

いつもの涼の適当推理に比べれば、理に適っているからだろう。

アベルも、一考する。


「採掘場を占領して手に入るものは何か?」

「……鉱石だな」

涼の問いにアベルが答える。


「倉庫を襲撃するのではなく、採掘場を占領……しかも占領し続ける理由は何か」

「……襲撃では一時的に、少量だ。大量に継続的に手に入れるためには占領し続ける、だな」

「大量に、それも継続的に手に入れるべき理由は何か」

「……何かを大量に作るため、作り続ける、あるいは修復の際の材料を手に入れ続けるため?」

「その『何か』とは、鉄を中心に作られるものらしいが、何か?」

「……武器の類だよな、やっぱり」

涼の問いに答え続けたアベルが出した結論。


「大量の武器なんて、普通は必要ありません。でも、相手が個人や盗賊の類ではなく……」

「国に対する戦争ならあり得るか?」

「でも、このエトーシャ王国とか、こう言ってはあれですけど、ヴァンパイアたちなら武装してなくても滅ぼしちゃえるでしょう?」

「う~ん……」

結局、結論は出なかった。


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