表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 最終章 魔人大戦
469/930

番外 <<幕間>> 飛ばされた魔人とその眷属 ~その1~

ちょっと短めです。

とりあえず、今夜から、三夜連続投稿です。

砂漠を歩く五人。

全ての事情を知る者がそこにいれば、驚いたであろう。

なぜなら、その五人の内の一人は、魔人だから。

そして、残りの四人は、その魔人の眷属(けんぞく)だから。


眷属のうちの、荒々しい雰囲気を纏った、豪快、粗野、荒削りといったイメージをまとめて形にしたかのような巨漢。

長く伸ばした濃いオレンジ色の髪と、同色の瞳が、その巨体以上に目立つ男が口を開いた。

「ガーウィン様、ずっと砂漠だからノドがかわいたのですが」

「黙れオレンジュ! 俺の眷属であるお前は、水など飲まなくとも死なんだろうが」

身長190センチ、金髪褐色の偉丈夫であるガーウィンが怒鳴った。


「そりゃあ、死にませんけど……ノドはかわく……気がするんですよね。するよな? イゾールダ」

「いいえ、特には」

オレンジュに尋ねられた長い黒髪の女性イゾールダは、首を振りながら答えた。


「マジか……。え? じゃあ、俺の気のせい?」


オレンジュは、驚いた表情になり、自信なさげに言う。

だが、すぐに、言葉を続けた。

「っていうか、俺らは何でこんな所を歩いているんですかね」

「魔法、<インプロージョン>の暴走でしょ」

イゾールダが、事も無げに答える。


暴走時、死んでいたはずなのだが、なぜか理解できているようだ。



五人の中に、一人混じっている子どもが、横を歩く魔人ガーウィンに深々と頭を下げた。

シュールズベリー公爵アーウィンの体を乗っ取っていた眷属、ジュクだ。


それに対して、オレンジュに対するのとは全く違う、優しさすら感じさせる声でガーウィンが言う。

「よい、ジュク。そなたの落ち度ではない、気にするな」

「……」

「そうだな、あの少年公爵の意地、俺も見誤っておったわ。げに恐るべきは人の執念よ。俺の見立てが甘かったのだ」

「……」

「ふははは、そうか、さすがジュク。向上心の塊だな。うむ、期待しているぞ」


そんな二人の様子を、オレンジュは首を傾げながら見た後で、隣を歩いているイゾールダに問いかけた。

「いつも思うんだが、ジュクの声って、ガーウィン様にしか聞こえないよな」

「ええ、そうね」

「何でだ?」

「さあ? それは知らないわ。そういうものとしか言いようがないでしょう?」

「同じ眷属なのに?」

「同じガーウィン様の眷属だけど、ジュクは特殊なの。今は、見た目子どもだけど、本当の姿は私もあなたも知らないでしょう? 基本的に、いつも誰かの体を乗っ取って、ガーウィン様に力を送っている……そういう役割の眷属。ガーウィン様が封印されている間も、あの子だけは動けたしね。本当に特殊なのよ」


イゾールダは、チラリとジュクを見てそう答えた。



オレンジュとイゾールダが先頭、ガーウィンとジュクがその後ろに続き、最後尾を守るのがヴィム・ロー。


ヴィム・ローは、ガーウィンやオレンジュに比べれば、細身だ。

もちろん、しっかりと筋肉はついており、人間に比べれば圧倒的に強い。

それは当然であろう。

魔人ガーウィンの最上位眷属、四将の一人なのだから。


だが……。


「ヴィム・ローは、相変わらず(しゃべ)らんよな」

「それはいつものことでしょう?」

オレンジュとイゾールダが言う通り、喋らない。

実は、二人も、声を聞いた記憶がない。


「ジュクの声は聞こえず、ヴィム・ローは喋らず……四将の中で普通にしゃべるの、俺とイゾールダだけなんだよな」

「今さらどうしようもないでしょう。そもそも、ガーウィン様の本体まで含めて、五人こうやって揃うのも久しぶりなんだし」



そんな五人が、砂漠を歩いている。



「それにしても……ここはどこなんすかね。ずっと砂漠じゃ景色も楽しめない」

オレンジュがぼやく。

「中央諸国でも西方諸国でもない事だけは確かだ」

珍しく、ガーウィンが怒鳴ることなくオレンジュのぼやきに答えた。

何やら確信があるようだ。


「本当ですか? ガーウィン様の言うことは、どうも……」

「黙れオレンジュ! 貴様と違って理由があってそう言っているんだ!」

やっぱり怒鳴ることになったガーウィンであった。


「ガーウィン様。ここが中央諸国でも西方諸国でもないという理由はいったい……?」

イゾールダの絶妙のフォロー。

と思いきや、イゾールダ自身も、その理由を知りたかっただけであり、別にオレンジュを助けたわけではない……。


「ここには、『集積器』がないからな」

「集積器?」

「我ら魔人……あの頃は、スペルノと自称していたか……。我らスペルノが、力を得るために中央諸国と西方諸国の各地に設置したやつだ。地脈の集まる地点、あるいは噴き出す地点を中心に設置した。あれば、勝手にそこから力が流れ込むのだが、この辺りにはそれがない」

「だから、ここは中央諸国でも西方諸国でもないと」

ガーウィンの説明に、イゾールダは頷いた。


長い間、最上級眷属としてガーウィンに付き従っていても、未だ知らない事が多い。


「それって、だいぶ昔に設置したんでしょう? 今でも機能しているんですか?」

オレンジュが問う。

「ああ。しばらくしてから、人間どももそれらの場所の良さに気付いたようでな。(ほこら)や神殿を建てておったな」

「もしかして……人間たちが『隠された祠』とか言ってたやつが……」

「ああ、それだ」

オレンジュが驚いたように問い、ガーウィンが事も無げに頷いた。


「それって、魔力を集めていると考えてもよろしいのでしょうか?」

イゾールダが首を傾げながら尋ねる。

「さて……そこは正直分からん。というのは、『魔力』と呼ばれるものが、明確に何なのかを理解しているものが、多分おらんからだ。なんとなく、感覚で分かっているだけでな」

ガーウィンは、首を竦めてそう答えた。



そして、少しだけ笑いながら言葉を続けた。

「まあ、あの集積器、あれらがある限り、我らは消滅しても復活する。復活してしまうのだ」

ガーウィンははっきりとそう言いきった。

「ガーウィン様を切り刻んだ水魔法使い……頑張ったのに」

オレンジュが、小さく首を振りながら嘆いた。


敵であろうと、強い者は強いと評価する。それがオレンジュの流儀だ。


「奴も……多分リチャードの末裔(まつえい)と共に、どこかに飛ばされたであろうな」

ガーウィンは、何かを思い出すように言うと、嬉しそうに笑みを浮かべて言葉を続けた。

「また、あのような心がわき踊る戦いをしたいものだ」


「お! ガーウィン様。街が見えました!」

オレンジュが嬉しそうに言う。

指し示す砂漠の中に、街がある。



一行は、オアシスの街に辿り着いたのであった。


明日は「その2」を投稿します。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ