第三巻発売記念 《なろう版》第三部冒頭2700字
本日2021年11月20日(土)、『水属性の魔法使い』第三巻
『水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編Ⅲ』
の発売日です!
それを祝して、《なろう版》第三部の冒頭2700字を先出し公開しました。
2600字の予定が、2700字になってしまいました……。
「おい、リョウ、起きろ」
「……もう、無理。もう、ケーキは無理ですって。お腹いっぱいです……むにゃむにゃ」
「多分、ケーキなんて、ここにはないぞ」
アベルのその言葉が決定打になったのだろうか。
涼は目を大きく見開き、文字通り飛び起きた。
辺りを見回す。
傍らには、アベルがいる。
二人がいる場所は、砂浜。
眼前には、海が広がっている。
後ろには、海岸近くまで迫ってきている森。
いつものローブは着ている。
デュラハンから貰った靴も履いている。
村雨、ミカエル謹製ナイフ、自作の鞘もちゃんとある。
いつも身に着けているように言われた、身分証明のプレートも首から下がっている。
特に問題はない。
「ふぅ、良かったです。致命的な問題は発生していないようです」
涼は状況を把握すると、安心した表情を浮かべてそう言った。
「いや、どこからどう見ても大変な状況だろうが……」
傍らのアベルは、涼の意見に賛同できないらしい。
それは仕方がない。
世界は多様性からできているのだ。
自分とは意見や考え方の違う人もいる、その基本認識は常に持っていなければならない。
「確かに……いつもの鞄を置いてきてしまったので、塩とコショウという調味料の持ち合わせがありません。それは大変な状況ですが、それくらいは我慢して欲しいですね。アベルは、王様になって我慢ができなくなっちゃったんじゃないですか?」
「そんなんじゃねーよ! だいたい、ここはどこだよ!」
「海岸ですよ? それ以外のいったいどこだと……」
アベルの理不尽な激高に、不思議な面持ちで首を傾げて答える涼。
「ああ、うん……そうだな、俺の言い方が悪かった。なんで、俺たちは、こんな海岸にいるんだ?」
「なるほど。アベルは、あの時、何が起きたか分かっていないんですね」
涼は、ようやく、アベルがなぜそんな事を口走っているのか理解した。
……理解した、と自分では思っているらしい。
「魔人ガーウィンの魔力……というか、魔法が暴走したんですよ。魔人って、重力操る系の魔法が得意でしょう? 重力とは空間の曲がりだと、偉い物理学者が言っていましたから、思いっきり空間がねじ曲がって、どこか分からない所に転移しちゃったんだと思いますよ」
「……すまん、全く分からん」
涼が懇切丁寧に説明したのに、アベルには理解してもらえなかった……。
根本知識のない人に理解させるのは難しい。
足し算引き算ができない人に、10元連立2階非線形偏微分方程式を理解させよといっても無理なのと同じだ。
……うん、そもそも10元連立2階非線形偏微分方程式自体が、理解できないですね。
普通解けないし。
「つまり、二人とも、どこか遠くに飛ばされた、ということか」
「そうです、そういう認識でいいと思います」
アベルがざっくりと言い、涼もその言葉を受け入れた。
「早いところ戻らないといかんな」
「ええ。でも、難しいでしょうね……」
アベルの言葉に答える涼。
そして、涼は黙った。
しばらくアベルが待っても、涼は黙ったままだ。
その表情は、珍しく深刻な、深い思考に沈んでいるのがアベルには見て取れた。
いつものような、深刻さを装ったやつとは違う。
アベルほど長く付き合えば、その違いは把握できるようになる。
「どうした、リョウ?」
「アベル……僕たちは、いずれ、避ける事のできない戦いに身を投じることになると思います」
「藪から棒になんだ?」
涼が深刻な表情のまま言い、アベルは首を傾げて問い返す。
涼は腕をすっと伸ばした。
指し示す先は……。
「海?」
「ええ。ずっとここにとどまるのでもない限り、いつかはこの海に出ていかねばなりません」
「ああ……」
そこで、アベルも涼が何を懸念しているのか理解した。
「海の中は、別世界です」
「そうだな……。夜の森以上に、人が入っていくべき世界ではないと言われている」
涼の言葉に、アベルも頷いて答えた。
「海の中で、海の魔物に勝てる者などいない……」
アベルはそう呟いた。
そう、それは当然なのだ。
周りを全て水に囲まれた環境で、火属性魔法や風属性魔法での攻撃など、意味をなさない。
土属性で石の槍を生成して飛ばしても……水の抵抗を受けるだろう。
しかも、その海の水は、海の魔物たちの制御下に置かれる……。
そもそも、海の中とか……呼吸をどうするのかという、根本問題があるわけだし。
「だからこそ、水棲の魔物から採れる水の魔石は、驚くほどの高値が付く……というか、滅多に手に入らない」
「そういえば、水の魔石ってほとんど聞かないですね」
アベルが言い、涼も思い出しながら頷く。
アベルが涼の耳を見ながら言う。
「リョウが着けているその耳のやつ、それは水の魔石だが、その大きさでも目が飛び出るほどの金額だ」
「これ?」
涼が耳に着けているのは、アベルの『魂の響』用に、王立錬金工房のケネス・ヘイワード子爵がプロトタイプとして製作した物だ。
小指の爪の半分ほどの大きさの、青い魔石が中心にはめ込んである、とても綺麗なイヤリング。
「その水の魔石は、王立錬金工房にも、年に二、三個しか回ってこないはずだ。王国内で、最も優先的に魔石を回している機関であるにもかかわらずな」
「ほっほぉ~」
かなりのレア装備だったらしい……。
そう、海中の魔物たちは、倒したら海の底に沈んでいくのだ。
かつて、ベイト・ボールを倒した時がそうだった……。
海の底に……それも、浅瀬ではなく、沖に、より深くなっている方に流れて……。
確かに、あれでは、海中の魔物を倒せたとしても、魔石の回収は無理だろう。
「でも……あいつを倒さないと、僕らは出ていけないでしょう?」
「あいつ?」
「ええ。僕たち共通の宿敵です」
「そんなのがいたか?」
涼の言葉に首をひねるアベル。
「僕の魔法制御を易々と奪い、アベルの乗った船を海中に沈めた……」
「……クラーケンか。ここにもいるかな」
ロンドの森の沖にはいた。
ここにいるのかは分からない。
もちろん別の個体だろうが……海を渡るには、あの巨大イカは無視できない。
「もちろん、すんなり通してくれればいいですが……。僕が西方諸国で学んだ限りでは、クラーケンはテリトリーを侵すものを積極的に攻撃するらしいです。戦うことになる可能性を、考えておいた方がいいと思います」
「マジか……」
伝説にもなった魔人と死闘を演じるほどの涼であっても、はっきり言って、海中でクラーケンには勝てない。
海中で、水の制御を奪われるのだ。
海中で水の制御を奪われたらどうなるか?
<アイスウォール>で守れない。
<アイシクルランス>で攻めれない。
泳ぐこともできない。
もしかしたら、海水で体を押し潰される……などもありうる。
つまり、戦いにならない……。
だが、そんな巨大な相手を倒さなければならないかもしれない……。
涼とアベルが生き残るために。
次のステージは海スタート……かな?
二人も大変ですね。
いじわるな作者に翻弄されて。ふふふふふ。
さて、本日発売の第三巻、
『水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編Ⅲ』
紙に印刷された表紙が、とっても綺麗です!
ぜひ、多くの人に見ていただきたい。
電子版で購入される読者の皆様も、見るだけでいいので、
お近くの書店にお寄りの際は、ラノベコーナーにも顔を出していただき、
第三巻の表紙を見てください!
デジタルデータとはまた違った、上質な紙に、プロフェッショナルな印刷が織りなす、精緻さと圧倒的な迫力があります!
第三巻、初めて見た時、感動してしまいました。
そんな紙の三巻ですが、なんと、
『ブックファースト新宿店』さん
で、カバーと口絵を掲示していただいているのだそうです!
ブックファースト新宿店といえば、新宿駅徒歩3分、新宿西口最大1000坪、90万冊の品揃えを誇る、
都内有数の大型書店さんです!
繭の建物でとっても目立つモード学園の、地下にあります。
ありがたいですね~。
ブックファースト新宿店
https://twitter.com/book1stshinjuku
お近くにお寄りの際は、足を運んでいただけると嬉しいです!
(11月23日(火祝)は臨時休業だそうです)
墨天業 (ボクテンゴウ)先生によるコミカライズ
『水属性の魔法使い@COMIC』
https://seiga.nicovideo.jp/comic/55002?track=official_list_l1
第三話が、18日に更新されました!
前話で初めての戦闘をこなした涼、今回はいったい何があるのか。
ぜひ、お読みください。
最後に。
《なろう版》第三部、ちゃんと準備を進めていますから!
開始時期など、決まりましたら、お知らせいたします。
では、また次のSSでお会いしましょう!




