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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 最終章 魔人大戦
467/915

番外 <<幕間>> 「次にくるライトノベル大賞2021」エントリー記念 王族のお仕事

ちょっと短めの幕間です。


20日(土)0時に、「第三部冒頭2600字」を投稿します。

そちらも、よろしくお願いします。

セーラは、かすかに聞こえてくるヴァイオリンの音色に気付いていた。

技術は(つたな)い。

というより、まだここ数日で初めて楽器を持った、という感じではないだろうか。


しかも聞こえてくるのは、これからセーラが入ろうとしている部屋からだ。

「はて?」



ノックせずに入っていいと言われているため、静かに扉を開けてちょっとだけ中を見る。


きっと、アベル辺りが見ていれば、呆れた調子でこう言うだろう。

「セーラは、動きからしてリョウに似てきているよな……」

言われたセーラは、逆にとても喜ぶだろうが。


部屋の中では、ヴァイオリンのレッスンが行われていた。


レッスンを受けているのはノア王子。

母であるリーヒャ王妃が、部屋の隅の方に座って、笑顔を浮かべてその様子を見ている。



セーラは、静かにリーヒャの元に歩み寄った。


「ああ、セーラ。例の書類ね?」

「そう、持ってきた。持ってきたのだが……ヴァイオリンの練習中か?」

「そうなの。私も、結婚してから知ったのだけど、ナイトレイ王家に生まれた子たちは、全員ヴァイオリンが弾けるようにならなければならないらしいの」

「……凄いな、それは」

リーヒャが苦笑しながら言い、セーラは驚く。


リーヒャもセーラも、ヴァイオリンは弾けない。


「弾けるようにならなければならない、というのは……」

「中興の祖、リチャード王がヴァイオリンの名手だったらしいのだけど、それが影響しているみたいね。だから、ヴァイオリンが弾けるようになるのは、趣味ではなくお仕事ね」

「まだノア王子は三歳だろう……」

「ええ。三歳になったから、レッスンに取り掛かるらしいわ」

「王族というのは、大変だな」

セーラはため息をついた。


国を統治する実務的な知識の取得は当然として、多くの教養、武芸全般、さらにダンスや乗馬に果てはセーリングまでこなすことを求められる王族。

外国に出て、『王国の顔』として振る舞う以上、恥をかけばそれは王国、そして王国民が恥をかくことと同義となる。


とはいえ……。

小さな頃から、それらを修めるのが当然という環境は、普通ではないだろう。



だが、セーラは知っている。



目の前にいるリーヒャは、結婚して王室に入った後、それらを修めようと努力していることを。

「嫁いできた者ですから、なんて外国の民には関係ないもの。私のせいで、王国の評判が下がるのは嫌よ」

事も無げにそう笑いながら、ダンスレッスンに取り組んでいる姿は、凄いものだった……。


若いうちから取り組んでいれば、身につける時間は短くて済む。

だが、大人になってから取り組むと……多くの場合、かなりの時間を必要としてしまうのだ。

だからこそ、リーヒャの取り組みは凄いものだった。



全ては、王国と王国民のために。



王国民は、リーヒャを馬鹿にしたり笑ったりすることはないだろう。

だが、そこは問題ではないのだ。

王国民が笑われないために……あんな王妃を戴いている王国民たち可哀そう、などと嫌味を言われないために。



しかし、実はリーヒャにはリーヒャの思いがある。

大変なのは確かなのだが、決して嫌ではないのだ。


それは……愛する人が、かつて辿(たど)った道だから。

それを、自分も辿ることになった……辿ることが許されたから……。


アベルが、小さな頃から辿った道を、今、自分も辿っている……その思いがあるから、大変ではあっても辛くはない。



人の心は複雑だ。



「アベルがヴァイオリンを弾けるというのは聞いたことがあったが、リョウは、ぴあのが弾けるらしいのだ。だが、私はぴあのという楽器を知らない。リーヒャは知っているか?」

「ぴあの? さあ、聞いたことがないわね。少なくとも、中央諸国には無い楽器ね」

セーラの問いに、首を傾げて答えるリーヒャ。


リーヒャは、王室に入ってから、中央諸国各国の政治情勢と共に、伝統文化を含めた生活面に関しても学んでいた。


高い地位に上がれば上がるほど、実務面以外の知識や教養を求められる部分が増える。

それどころか、実務能力がいかに高くとも、他を知らないばかりに、責任ある地位を任せられなくなることもある。

対内よりも、対外の仕事が増えるからだ。


「男二人はどちらも楽器を弾くのに、我々は弾けないのな」

セーラは小さく笑いながら言う。

ノア王子の練習中だから、声を潜めて。


「私たちも、趣味で楽器を練習してみる? 二十年後くらいに弾けるのを目処に」

「趣味か……。考えた事も無かったが、そういうのも悪くないか。だが、簡単ではないだろう?」

「ええ、凄く大変かも。楽器を弾けるようになるのは、本当に大変だと思うわ」

リーヒャはそう言うと、一生懸命練習しているノア王子を、微笑みながら見た。



「殿下、お上手です。毎日練習すれば、もっと素敵な音が出せるようになります」

「はい、先生」

先生と、ノア王子の会話だ。


それを離れた場所から、嬉しそうに見る二人。


「先生は、褒め上手だな」

「ええ。それだけは、強くお願いしたの。できるだけ褒めて指導して欲しいと」

「そうなのか?」

「リョウが言っていたの。教育の基本は褒める事です、って」

「確かに、リョウならそう言うだろう」

リーヒャが言い、セーラも同意する。


そう、褒めて伸ばすのが基本。

涼はよくそう口にし、実際に自分の教え子たちを褒めている。


もちろん、ただ褒めればいいわけではなく、きちんと具体的に、頑張った部分、伸びた部分を褒める。

それは、相手を注意深く見ていないと見落とす。


逆に言えば、的確に褒める事ができるという事は、相手をちゃんと見ている、見守っているということだ。


それは、褒められる側も感じるため、嬉しくなる。

もっと褒められたいと思い、頑張る。

頑張るから、さらに成長する。

そしてまた褒めてもらう。


そんな好循環。


それが、教育だ。



リーヒャもセーラも、涼がそうやって、ゲッコー商会の子どもたちに、水属性魔法を教えているのを見たことがあった。

その結果、子どもたちが、みんな楽しそうに水属性魔法を使っている姿も。


「楽しく学ぶ方が身に付きやすい」

「そう、リョウは、頭のヘントウタイとカイバがどうこうと言っていたけど……そこはよく分からなかったわ」

「リョウは時々、難しい事を言うからな」

リーヒャが思い出しながら言い、セーラは苦笑しながら頷いた。


「でも、こう言っていたのは覚えているわ。好きこそものの上手なれ」

「リョウは修行も楽しそうにやるからな。リョウらしい」

リーヒャもセーラも、涼が楽しそうに水属性魔法や錬金術の修行をしている姿を思い出していた。



楽しい。きっと、それは正義なのだ。


中央諸国にピアノはありません。

はたして、涼がピアノを演奏する描写は、どこかで出てくるのか……。




さて、タイトルの通り、『水属性の魔法使い』が「次にくるライトノベル大賞2021」にエントリーされました!


聞きなれない大賞?

ですね、今回が第一回目ですから。

「次にくるマンガ大賞」にインスパイアされて、KADOKAWAが主催するようです。



この度、『水属性の魔法使い』がノミネート作品に選出されました!


ありがたいですね。


TOブックスからも、いくつかの作品がエントリーしているようです。

https://twitter.com/TOBOOKS/status/1460471540571541509?s=20



「つぎラノ」の公式HPは

https://tsugirano.jp/



11月16日~12月15日 一般投票期間



『毎日1票投票できます!』(重要!)



つまり、

今日、「水属性の魔法使い」に投票して、

明日、別の推し作品に投票して、

明後日、また「水属性の魔法使い」に投票して……とか、できるのかなと。



ぜひ、ぜひ、『水属性の魔法使い』に、清き1票……いえ、何票でも!

こういう実績が、書籍続巻の刊行に繋がると、筆者は思っています。



エントリー条件に「シリーズ3巻以内」というのがあるため、

今回が最初で最後、チャンスはただ一度の賞です!


なにとぞ、よろしくお願いいたします!




さて、

「水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編Ⅲ」

の発売(11月20日(土))まで、あと4日です!


もうしばらく、もうしばらくだけ、お待ちください!

サイン本と書店向け色紙は、編集部に送りましたからね。

あとは、店頭に並ぶだけです!



(宣伝お終い)




あと、今回の幕間「王族のお仕事」

なぜヴァイオリン?と思った、そこのあなた!


『涼とアベルの午後の会話 ~水属性の魔法使い外伝~』 

「009 能ある鷹は……」


を読んでいただけると、よく理解が深まるかもしれません。



さて、今週末20日(土)には、『水属性の魔法使い』第三巻が発売されます。

それに合わせて、以前告知した通り!


11月20日(土)0時に、『第三部冒頭2600字』を投稿します。


お楽しみに!

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『水属性の魔法使い』第三部 第1巻表紙  2025年3月19日(水)発売! html>
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