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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
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0299 増える謎

「突然、六人の反応が消えて……」

「リョウからそれを聞いて、急いで救援に来たんだ」

涼とヒューが、事の経緯を説明した。


もちろん、『ボードレン』の外だ。

街の中だと、また何が起きるかわからないので……。


「六人が消えたあたりを探し始めて……十秒くらいで、六人が突然現れました」

涼が思い出しながら答える。

そして、微笑んで言った。

「無事でよかったです……」


その素直な言葉に、なぜか六人とも照れた。



その後、ニルスとエトを中心に、何があったかの説明がヒューに対して行われた。


「つまり、小国使節団は、もう……」

「はい。全滅したかと……」

ヒューの確認に、顔をしかめながらニルスは頷いた。


これには、涼も心を痛めた。

帝国や連合の使節団に比べれば、「仲間意識」を比較的持っていたからだ。

もちろん、一方的に。

だからこそ、『シュルツ』では、いちはやく<アイスウォール>で、小国使節団を守ったのだし。



他にもいくつかの確認の後、ヒューは、ニルスら六人に頭を下げた。

「すまなかった。俺の判断ミスだ」

「え? グランドマスター?」

ニルスが声に出し、他の五人も首を傾げる。


「まさか、そんな化物がいるとは思わず、六人だけで行かせたのは、俺の判断ミスだ」

「いや、それは……。あんなのがいるのは誰にも分からなかったですし、そもそもあれは……多分、誰がいても勝てる相手ではないかと」

ヒューの言葉に、エトが答える。



「グランドマスターもですが、俺たちも、以前、コナ村の依頼で魔人に会いました。今回の奴は、そんな魔人並みの、あるいはそれ以上の存在のように感じました」

ニルスがそう言うと、エトとアモンも頷く。


魔人を見たことのない十一号室の三人は驚いている。


だがわずかに、ハロルドからだけは、苦渋の表情を見て取ることができたであろう。

当然だ。

ハロルドは、魔人による『破裂の霊呪』を受けている状態なのだから……。

心穏やかなはずがない。




報告も終わり、「とりあえず休め」とヒューに言われた『十号室』と『十一号室』の六人。



「いや~、無事に戻ってこられてよかったです。これは、コーヒーパーティーでお祝いするしかないですね。あ、でも、もう夜だし眠れなくなるかな……」

涼は、上機嫌でそんなことを言いながら、氷製のコーヒーミルを生成し、その中にコーヒー豆を入れようとしていた。


六人が無事に戻ってきたことが、本当に嬉しかったのだ。



上機嫌でコーヒーパーティーを準備する涼に、エトは気になっていたことを尋ねることにした。


「リョウ、一つ詳しく聞きたいことがあるんだ」

「なんですか、エト」


手早く豆をミルで挽き、これまた氷製のフレンチプレスに生成したお湯と一緒に入れ、氷製の砂時計をひっくり返すと、涼はエトの方を向いた。



「あの『神官』風の存在は、『堕天』という言葉……というか、『堕天という概念』に、すごく驚いて感心していた。堕天という言葉を詳しく聞きたいんだ」

「ああ……」

エトの質問に、涼はこめかみに指をつけながら考え込んだ。


確かに、以前、エトに、「堕天というのは、聖なるものが、悪いものになっちゃうこと」と説明した覚えがある。

だが、本来、それは正確ではない……。



「そうですねえ……。エト、天使という存在は知っていますよね?」

「もちろん。神の傍らにあり、神の意志を執行するもの」

『ファイ』における『天使』というのは、地球における『天使』の役割と同じものらしい。


厳密にはそうとばかりは言えないが、基本的に地球において『天使』と言った場合は、キリスト教、ユダヤ教、あるいはイスラム教に出てくる存在だ。

この三つは、実は本質的に同じ『神』を信仰しているため、天使の存在と、それが担う役割はほぼ同じものとなる。


すなわち、神と人間の間の存在で、霊的に神と人間の中間に位置する……。

そして、天使という言葉は、ほぼ、他の多神教では出てこない……。


この辺りは、西洋史学専修(ただし一か月で休学)出身の、涼の面目躍如だ。



「そう、天使はそうですね。う~ん、ここからは怒らないで聞いてほしいのですが……そんな天使が、神の下を離れて悪いことをするようになったら、どうなるでしょう?」

「え……」

涼の問いに、神官エトと神官ジークは絶句した。


それこそ、後ろから突然頭をたたかれたかのように、という形容詞がぴったりな感じで。


ちなみに、その間、残りの脳筋四人組……ニルス、アモン、ハロルド、ゴワンは座って静かに聞いている。

……聞いているようにみえるが、ニルスがコーヒーばかりを気にしているのは、涼にもわかっている。



でき上がったコーヒーを脳筋組に分けたあたりで、エトとジークも我に返った。


「そんなことはありえません。天使は、神の下を離れては存在しえない……」

神官ジークは顔をしかめながらそう言った。


そう、神官なら、そう言うであろうと涼も予測していた。

だから、以前、エトに説明した時には、ぼかしたのだ。



「なるほど。それが、あの『神官』風の存在かもしれないと……。でもあの者は、自分は天使ではないと言った……」

神官エトは顔をしかめながらも、小さく頷いてそう言った。


その答えに、涼は少しだけ驚いた。

神官としての考え方を変容させるほどに、その『神官』風の存在が与えた影響は大きかったのだと理解した。



「天から堕ちるという意味で、堕天。本来、人間などに使われる言葉ではありません。天にいる、霊的な存在のものに対しての言葉です。とはいえ……そんな、天使のような存在に対して、僕たち人間が何かできるかと言われると、正直分かりません」

涼は正直に、そう答えた。


頭の中には、転生するときに白い部屋で出会ったミカエル(仮名)を、思い浮かべていた。


明確に、人間とは違う存在。

次元が違う存在。


これまでにも、ドラゴンやグリフォン、あるいは悪魔や魔人など、人とは圧倒的に違う存在と出会ってきた。

だが、それでも、それらは『生物』ではあった……多分。


しかし、「天使みたいなもの」と名乗ったミカエル(仮名)は、おそらく、『生物』ではない。

『霊的な存在』というのが、おそらく、最も近い言葉だろう。

そもそも、人が、争うことのできる相手ではない……。



だが……。



そう、だが、である。


『霊的な存在』と呼ばれるものが、わざわざ人間の世界に介入してくるであろうか?


『霊的な存在』であっても、天使ならわかる。

『神』なるものの意思をこの世で遂行するために、人間世界に介入することもあり得るであろう。


だが、堕天したものが介入してくる……理由がわからない。


これが地球であれば、神への敵対者としての悪魔という存在がある。

その悪魔の多くは、堕天した天使である……といわれている。


人間を間に、神・天使と、悪魔とがいろいろやっている……というのも、理解しやすい構図であろう。



しかし、この『ファイ』においては、『悪魔』はそんな存在ではないようだと、涼は感じていた。

もちろん、涼が知っている『悪魔』は、レオノール一人だけなのだが。


レオノールが、神や天使に敵対している存在?

それは違和感がある。



さらに、『ボードレン』で六人が会った存在は、「天使ではない」と名乗ったと。


天使ではないものがいる。

堕天したと思われるものもいる。


その二人? は争っているのか?

だからエトたちを西方諸国に行かせる?

仲間ではなさそうだが、はたして……。



考えれば考えるほどわからなくなる……。

また、涼に解けない謎が増えた瞬間であった。




翌日。

「なあ、リョウ。これは、なんとかならんのか……?」

ニルスが、傍らを歩く涼に問いかける。

それを聞いて、エト、アモン、ハロルドにジークとゴワンも、苦笑いと共に頷く。


「みんなが消えたら困るので、仕方ないのです」

涼は、力強く頷いて、そう答えた。


六人の腰には、氷のチェーンが巻かれている。

そして、そのチェーンは、涼が腰に巻いている氷のチェーンに繋がっている。


六人が消えないように、涼が考えた方策らしい……。



「いや、これだと、リョウも一緒に消えてしまうだけだろ?」

「しまった!」

ニルスの指摘に、ハッと気づく涼。


「べ、別の方法を考えます……」

「いや、考えなくていいぞ……」

涼が、考え始めたので、ニルスが呆れて言う。



「いい考えが思い浮かびました! 使節団全員を氷のチェーンで繋ぎましょう!」

「うん、絶対やるなよ」



そんなことをやりながらも、王国使節団は、回廊諸国最後の国、『スフォー王国』を目指すのであった。


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