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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
323/935

0298 暗闇の狂気

そこは、完全な暗闇だった。

一メートル先どころか、十センチ先すら見えない。


だが突然、目の前に、光が生じた。生じた光は上昇し、五メートルほどの高さで、静止した。


その光をもとに、ニルスは鋭く周囲を探って考える。

(エト、アモンはいる。ハロルド、ジーク、ゴワンもいる。他にはいない。神官服のようなものを着ていた男は? どこにいった? いらっしゃいと言ったが、どういう意味だったんだ……)


少なくとも『十号室』と『十一号室』の六人はいる。


さらに、足元が石畳であることに気づいた。


(『ボードレン』の道は、土を固めただけだった。つまり、今俺たちがいるこの場所は、ボードレンではない……?)



そこまで思考を進めると、さすがにニルスですらも冷や汗をかき始めた。

あの一瞬で移動したとなると……。

(転移か……)



転移など、尋常なことではない。

中央諸国での転移の例だと、大海嘯後に、ダンジョンの第四十層に強制転移させられた例……あるいは、帝国のなんとかいう男爵が使えるらしいという例。

それくらいだ。


(そう。そういえば俺たちが向かっている西方諸国には、転移の罠があるダンジョンがあるんだったか……?)


ニルスの思考が逸れたところで、六人の前に、一人の男が現れた。



「あ、さっきの……」



思わず、ハロルドが手を伸ばそうとするのを、ニルスが止める。

現れた男は、小国使節団の生き残りの一人、神官の男。

だが、それは外見がそうなだけであって、放つ雰囲気は全く違っている。


「お前は、いったい何だ……」

思わず、ニルスが呟いた。


『誰だ』ではなく『何だ』

それほどに異質。



これまでに、ニルスたち『十号室』の者たちも経験したことのない雰囲気。

あるいは、存在感というべきであろうか。


見た目は人間であるが、実態は全く違う別のもの。



「魔王?」



その呟きは神官ジークであったろうか。

思わず、ニルスも納得してしまいそうになる。


それほど、人間とは隔絶した存在に感じる。



だが……。



「くっはっはっはっはっは」


目の前の『神官』は、大笑いした。



「魔王? 魔王か、そうか、魔王か。くっはっはっはっはっは。いや、俺は、あんなに弱くはないぞ。魔王は、しょせん『魔物の王』というだけだからな。とはいっても、普通の人間にはわからぬよな。くっはっはっはっはっは……。いや、失敬失敬。それにしても、魔王か……、いや、面白い」


もちろん、何が面白いのか、六人には全く分からない。


「ふむ……さすがにわからぬか。そこの二人は、光の女神の神官であろう? それでもわからぬか……。まあ、中央諸国の神殿の教義では学ばぬか」

目の前の『神官』は、禍々しい笑いを浮かべながら、だが残念さも感じさせながら言う。



そこに、意を決して、という感じで、神官ジークが口を開いた。

「ネクロマンサー?」


その答えに、『神官』は少しだけ驚いた様子を見せ、口を開いた。

「面白い答えだな。なるほど、倒しても倒しても、新たに湧いてくるレイスを見てそう判断したか。面白い。中央諸国では、ネクロマンサーなど数百年前に絶えたはずだが……いいな、自分の頭で考えての答えか。神殿の教義に凝り固まっていないのはポイントが高いぞ」


『神官』は、そこで一呼吸入れて、言葉を続けた。



「だが違う」



「光属性の魔法を使う感じがする」

小さく、神官エトが呟く。

「まさか! 神官がレイスを操れるなど聞いたことがありません……」

神官ジークが、小さく首を振りながら言う。


『神官』は、それを興味深そうに見ている。


「いや、神官などというレベルではない……が……。かつて、聖なるものだったが、悪いものになってしまった……? 堕天?」


エトは、以前、涼から聞いた『堕天』という言葉を呟いた。



それに対する、『神官』の反応は激烈とすら言えるものであった。



「堕天! 堕天だと!? これは驚いた!! なぜその概念を知っている! 中央諸国には無いはずの概念だ。いや、すでに西方諸国にすら無い概念だ。これは驚いた……」


そう言った『神官』の目は、大きく見開いていた。


そして、何事か考え始めた。

小さな呟きが口から漏れる。


「ふむ、これは……そうだな、ここで殺すには惜しいか。実に惜しいな。いや、『堕天』を知る者たちか……これは、我慢するべきか……。ふむ、そうだな、そうしよう」



そして、よく通る声で宣言した。

「まず、俺は天使じゃない。それと、本当は、ここでお前たちの命も奪ってしまおうと思っていたのだ。先の奴ら同様にな。だが、それはやめた。実に面白い経験をさせてもらったからな。お前たちには、ぜひ、西方諸国に行ってもらうとしよう」



その瞬間、六人の視界が晴れた。



六人が周りを見回すと、そこは『ボードレン』の十字路。



さらに、その周辺を、王国使節団の冒険者たちが走り回っていた。


「ニルス、エト、アモン、みんな!」

懐かしい声が、ニルス達の耳に聞こえた。


水属性の魔法使いが、泣きそうな顔で三人に抱きついてきた。


「よかった……」

涼の口から、小さな呟きが漏れた。


ただの、顔見世です。


『水属性の魔法使い』全体を通してのテーマの一つである、

「エネルギー供給」あるいは「持久力」、「疲労」……


筆者は、ずっと疑問だったのです。

神の下を離れた天使(つまり堕天使)は、どうやって存在し続けるのか……。

そもそも、存在し続ける事は可能なのかと。


あ、でも、文中で本人が言っている通り、今回出てきたこの人(?)は天使じゃないですよ。

何なのかは、そのうち……数十万字くらい先で、出てきます、多分。

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