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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
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0297 街の中で

すっかり日も落ち、王国使節団一行は思い思いの時間を過ごしていた。


普通ならば、そんな時間帯であっても、交代で見張りが立つのが普通だ。

だが、見張りは誰もいない。


ただ一つだけ言われているのは、「あまり遠くには行くな」である。


なぜなら、氷の壁は半径百メートルなので……。



「こういう時は思うな。水属性魔法は便利だと」

「そうでしょうそうでしょう」

ニルスの素直な感想に、涼は何度も頷く。

褒められてご満悦だ。


「いや、水属性魔法というより、リョウが凄いだけな気が……」

「お弟子さんたちも含めてですね」

エトが苦笑しながら言い、アモンがゲッコー商会にいる涼の弟子たちが生成した、<アイスウォール>を思い出しながら補足した。




そんな、平和でまったりとした時間は、突然の終わりを迎えた。


街の城門の方から走ってくる一人の男によって。

走ってはいるのだが、よろけながらだ。

怪我をしているわけではないのだろうが……恐怖で足がいうことをきかない、といった感じであろうか。


涼は、とりあえず男が通る箇所だけ氷の壁を開け、通り抜けたら再び閉じた。

後から、恐ろしいものが追ってきたりしたら大変だから……。



「どうした!?」

団長ヒュー・マクグラスが、走ってきた男に大声で尋ねる。


その声によって、王国使節団全体が覚醒(かくせい)した。


冒険者たちは、すぐに立ち上がり、自らの装備を整える。

文官たちは、すぐに馬車に入り、戦闘の邪魔にならないように隠れる。


それが、休憩時の王国使節団の決まり事であった。

すぐに自分がやるべきことを理解しているからこそ、何もないときはゆっくりしていていいのだ。



「し、使節団が、中で……襲われました。助けてください」

「チッ。中に入ったのか。何に襲われた?」

「霊に……」

走ってきた男の報告に、ヒューは小さく舌打ちをした。


王国の前を行っていた、小国使節団は街の中に入ったのだ。



「ニルス! 『十号室』と『十一号室』で救援に向かえ。増援が必要な時は、発光系の魔法を放て。エト、ジーク、放てるな?」

「はい」

ニルス、エト、ジークが返事をする。


エトとジークの発光魔法は、光属性魔法を元にしており、特に夜は見やすい。

六人中二人の神官を擁する連携パーティー。

崩壊した街に派遣するには、最適であろう。



「ヒューさん、僕は?」

「リョウは残れ。氷の壁は、お前さんしか開けたり閉めたりできんからな」

涼の問いに、ヒューは即答した。


ヒューの言うことはもっともであるため、さすがに涼も反論はできない。


できるのは、六人の方を向いて、頷くことだけであった。

六人も頷き返す。


そして、城門に向かって走っていった。




『十号室』と『十一号室』の六人が城門をくぐる。

街の中は、それなりに広い道が一本、まっすぐに延びている。

いわゆる大通りだ。


「あそこに!」

アモンが指をさしたのは、道のかなり先の方だ。


馬車や馬もある一団が、何かに囲まれているように見える。


「行くぞ!」

ニルスの号令と共に、六人は、その一団に向かって走った。




一方、一団で起きていたのは……。


「くそっ、くそっ、く……ぐは……」

「<ターンアンデッド> もう、魔力が……」

「きりがない……」

「やめ、助けて……」


数は十体ほどのレイス。

だが、倒しても倒しても、新たに湧いてくる……。



それは異常なことであった。



<ターンアンデッド>などで魂が浄化されれば、レイスは消滅する。

レイスは、無念な思いを抱いて死んだ者の魂から生じたもの。

成仏しきれなかった霊、とでも言おうか……。

そのため、『再生』したり、『新たに生まれる』などということはないのだ。


だが……普通ではないことが、そこでは起きていた。



「不浄なりし魂を 今御心の元に還さん その罪が許されんことを 我はここに願う <ターンアンデッド>」

神官エトが走りながら<ターンアンデッド>を放つ。


それは、一団全体を効果範囲とするものであったため、全てのレイスが浄化され、消滅した。



だが……。



「また現れたぞ!」

ニルスが言い、エトは顔をしかめた。


その間に、小国の使節団の元にたどり着いた神官ジークが、手に持つ杖でレイスを突く。

その一突きにより、レイスは消滅する。


神官が持つ杖は、聖なる祝福を受けた杖。

特に、レイスやゾンビのようなアンデッド系には、絶大な効果を見せる。

先ほどのジークのように、一撃で消滅させることもよくあるほどに。



だが、再び……。



「やはり、また現れたか……」

神官ジークも、顔をしかめながら呟く。



「敵を倒すのが目的じゃない! 使節団の救出だ!」

ニルスの言葉に、ハッとするエトとジーク。


もちろん、その間も、アモンはもちろん、剣士ハロルド、双剣士ゴワンはレイスと戦っている。


「ハロルド、ゴワン、レイスは魔力が集中している部分を、剣で断て。力はいらん」

「はい」

ニルスの指示に、ハロルドもゴワンも鋭く返事を返す。


レイスを、物理職が武器で倒すのはけっこう難しい。


神官の杖などであれば、『中心付近』にダメージを与えるだけで消滅させることもあるが、剣ではそうはいかない。

正確に、魔力が集まっている『中心』を断たねば斬れない。

そうしなければ、煙を斬っているようになる……。



レイスの魔力を断つのは、魔法を剣で斬るのに似ている。



一方アモンは、確実に、一振りで一体のレイスを消滅させていた。

迫りくる魔法すら剣で一刀両断するアモンには、さして難しいことではない。


とはいえ……。

消滅させても消滅させても、再び現れることに変わりはない……。



ニルスら六人は到着すると、小国使節団の生き残りを中心に囲んで、円陣で防御した。もっとも、生き残りは一人しかいないのであるが……。


「おい、大丈夫か?」

ニルスが使節団の生き残りである神官服に似た服の男に声をかける。

「いらっしゃい」

男がニヤリと笑って答えた。


次の瞬間!


地面が光った。


「なに?」

「巨大な……」

「魔法陣?」

ニルス、エト、アモンの言葉の後……全員の視界が暗転した。


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