早朝の会談
双魔とティルフィングが選挙への意気込みを確かめ合った同時刻。世界最高の魔術師、ヴォーダン=ケントリスは自身が学園長を務める王立魔導学園の執務室、ありていに言えば学園長室でとある人物と向き合ってソファに腰掛けていた。後ろには愛槍グングニルが控えている。
「世界最高の魔術師にお目通り叶うとは、恐悦至極です」
背の高い糸目の男は老人に向かって深々と頭を下げた。
「いやいや、剣兎君。そんなにかしこまることはない。日本の若き俊英を軽々しく扱っては儂と君、双方の面子に関わる。まあ、掛けなさい」
「ありがとうございます」
糸目の男、風歌剣兎は頭を上げるとゆっくりとソファに腰掛けた。
「紅茶でいいかね?」
「恐れ入ります」
「うむ、グングニル」
「かしこまりました」
メイド姿の神話級遺物が恭しく頭を下げると紅茶を淹れる準備をはじめる。剣兎は何となしにその姿を目で追った。
「フォッフォッフォ!気になるかね?」
それに気付いたヴォーダンが楽しそうに笑う。
「ええ、我が国でも様々な衣服に身を包んだ遺物に会いましたがメイド服の遺物はいませんでしたので……」
「そうか、そうか!この間も同じような質問をされた。グングニルのあの恰好は儂の趣味じゃ!」
「これはまた結構なお手前です。敬服します」
剣兎は感心したように答える。それを見てヴォーダンは満足そうに頷いた。
「うむ、うむ。お主もなかなか趣味が良いようじゃな。ところで晴久は壮健かね?」
”晴久”とは世界魔術師ランキング序列四位であり、大日本皇国の魔術師を取り纏める土御門宗家の当主、土御門晴久のことである。
「はい、当主はすこぶる壮健です。相変わらず怠惰が過ぎて一門の幹部からは文句を言われていますが……」
苦笑する剣兎を見てヴォーダンはまた声を上げて笑った。
「そういえば、君は双魔君と友人だったな」
「はい」
「さっきのメイド服についてこの前突いてきたのも彼だったな」
フフフと口元を緩める。先ほどから笑ってばかりだ。若者と話すのは実に楽しい。そんなことを思っているとグングニルが紅茶の入ったカップを持ってきた。
ヴォーダンはいつも通りミルクと砂糖を入れてミルクティーに仕立ててもらう。剣兎は砂糖だけ入れていた。
お互い一口飲んで息をつく。
「とてもいい、茶葉のようですね。いつも緑茶ばかりですが紅茶も良いものです」
「うむ、口にあったようで何よりじゃ。さて、そろそろ本題を聞こうかのう」
剣兎はカップを置くと表情を引き締めた。
「率直に言いますと本日行われる遺物科の選挙にて不穏な動きをしている輩がいます」
ヴォーダンはカップに残っているミルクティーを飲み干してグングニルにカップを渡す。
「ふむ……外部の人間かね?」
「はい。数日前からロンドンに入って不穏な動きをしているようです。双魔も遭遇したとか……」
「ほう、双魔君が。その輩は遺物使いかね?それとも、魔術師か?」
「魔術師です。この男に見覚えはありませんか?」
剣兎は上着の内ポケットから一枚の写真を取り出して机の上に置いた。ヴォーダンはグングニルからミルクティーのお代わりが入ったカップを受け取って一口、口に含むと写真を手に取った。
写真には白い軍服に身を包んだ眼光鋭い男が映っていた。年はまだ若く伸ばした金髪を後ろで結わいている。ヴォーダンは写真の男に見覚えがあった。
「……フランスの芳香使いか」
「ええ、ベルナール=アルマニャック。次期、”枢機卿”を噂されている”導師”の最上位の男です。フランスの宮廷魔術団では穏健派に属していますが野心が隠し切れず怪しい点もいくつか……」
ヴォーダンは数年前に招かれたパーティーで見たベルナールを思い浮かべた。確かに何か腹に一物抱えていそうな男だった。剣兎は説明を続ける。
「先週、ベルナールらしき男が夜の裏路地で部下と思われる男たちと学園の女生徒に絡んでいる際に双魔と遭遇。少しやり合った後逃亡しています」
相槌を打つヴォーダンを見て剣兎はさらに続ける。
「三日前にもそれらしき男が学園の男子生徒と接触。接触は一瞬、遠距離から目視したので何をしたかまでは掴み切れていませんが……」
「ふむ……状況は分かった」
ヴォーダンは自慢の顎髭をゆっくりと撫でた。そして、目の前の若者と視線を合わせた。
「選挙中の学園周辺の警備については職員で厳戒態勢を引いている。ま、何かあっても心配は少ない。しかし、儂が気になったのは脅威についてではない……君がその男をマークしていた理由が知りたい」
「これは失礼しました。そちらから話すべきでした。実は……」
剣兎は日本でベルナールが起こした一連の事件について説明した。話を聞き終わるとヴォーダンは眼を閉じて髭を撫でながら息を一つ吐いた。
「うむ、話は分かった。小童め、なかなか面倒なことを企んでいるようじゃのう……」
「よろしくお願いいたします」
「あい分かった。選挙中、君は学園内に潜伏していて構わん。有事の際には特に何か断る必要もない。こちらもその件については人員を割こう」
「ありがとうございます」
剣兎は立ち上がると最初と同じように深々と頭を下げた。
「選挙には双魔君も出場することになっている。警戒しながらでも友人を応援してやるとよい」
「はい、それでは失礼いたします」
「うむ、またお茶でも飲みに来なさい」
若者は爽やかな笑顔を見せると、一礼して部屋を後にした。
「グングニル、ハシーシュ君を呼びなさい」
「かしこまりました」
グングニルは執務机の上に置かれた電話を手に取るとどこかに電話を掛ける。
「はい……、ええ……、ええ、分かりました。それではお願いします」
受話器をもとの場所に戻してヴォーダンの傍に戻ってくる。
「まだ、起床していないそうですがすぐにこちらに向かうそうです」
「フォッフォッフォ!そうか。それでは朝食にしようかのう」
「かしこまりました。本日のタマゴ料理は何になさいますか?」
「今日はエッグベネディクトの気分じゃな」
「かしこまりました。それでは少々お持ちください」
そう言ってグングニルはミニキッチンに下がっていった。
こんばんは!まずは、いつも読んでくださってありがとうございます!今回からクライマックスへと登っていくので楽しんでいただければと思っています!
それと、各話のタイトルにあまりにも愛想がなかったので変えてみました!少しは取っつきやすくなりましたかね?
次回の更新は明日、4月8日(水)を予定しています。
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