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08【宿泊部屋へのご案内】

「 こちらです」


石造りの長い廊下を進み、突き当たりの扉の前で足を止めるとグレンは振り返った


「 …… 何をしているのです?」


彼は神様が丁寧に創ったであろう端正な顔をクシャッと歪めながら、いぶかしげに私に問いかける


「 なんでもありません!」


私は慌てて扉の近くに駆け寄った

廊下の床に張り巡らされた絨毯の柄も見事だけど、廊下や階段の途中にある調度品の数々も、一つ一つ手に取って、じっくり眺めたいと思えるような一級品ばかりだった


事実何度かふらふら〜と立ち止まりかけたけど、このグレンて騎士が、私の方を振り返る事なくスタスタと先へ進むから、置いてかれないようついて行くのに必死だったのだ


今は壁と壁の間にある銀製の燭台に目を奪われ、グレンが立ち止まった隙に、まじまじと魅入ってしまった


ヤバイヤバイ、変な女だと思われちゃう


グレンが扉の取手を捻り軽く押すと、大きなぶ厚い扉にもかかわらず音もなく開く

きっと造りが精巧で手入れも行き届いているのだろう


彼は無表情のまま部屋の中に入ると、抑揚のない声で淡々と話し出す


「 この後は中央の大広間で祝宴が開かれます。身支度を整えましたら …… おい何をしている?」


私が扉を何度も開け閉めして、細かい細工の取手や見事に彫られた文様を指でなぞる様子を見て、うんざりしたような声を出す


「 なんでも ……ッ!!?」


ありません!と言おうとしたけど、私は部屋の中を見渡して息をのんだ


「 なに …… この部屋 ……」


床にはやわらかい色合いのベージュを基調とし、淡いピンクやラベンダー色の大柄な花模様が施された厚みのある絨毯。

視線を上げていくと壁は板貼りで扉や窓枠も、全て白で統一されている。

床から天井までの高さは5メートルを超えているのではないか?

そこから下がる丈の長いカーテンや家具に貼られた布は全て水色地に銀刺繍がはいっていて、ベッドの天蓋はさらに薄水色のレース調の布がサァっと掛けられている。

そして天井には青空と雲の中に天使達が舞っている絵画が描かれていて、そこからクリスタルの煌めく細めのシャンデリアがスラリと下がっていた


信じられない!!

開いた口が塞がらないとはこの事なのね


「 セナ様?」


柄にもなくお姫様気分に若干トリップしてたのに、冷ややかな騎士の声に無理やり意識を戻された


「 このお部屋が …… 私の ……??」


「 ええ、まったく素晴らしいお部屋ですね。こちらがセナ様の滞在していただくお部屋となります。クローゼットや化粧台の中の物も、全てご自由にお使いください」


マジで!?

この部屋に泊まれるの??

私はさっきの部屋で「旅行なら自分のお金で行くわ」と思った事をカタカタカタとデリートする

そして、あの変なお爺ちゃんにも感謝した


大広間での話し合いが終わり、それでは三人ともお部屋にご案内しましょう。といった流れになったとき、それぞれは「春夏秋冬の間」という名前の部屋に通されることになっていた

しかしそこでもレイブン卿が騒ぎ出して、私だけ他の二人とは異なる部屋となった


一体なんなのぉ〜、と思っていたけど

これはもうすごいとしか表現のしようがない


私はもう一度部屋を見渡した

匠の技!贅の限りを尽くした豪華絢爛たる装い

素晴らしいなんてもんじゃない

どこかの宮殿のレベルよッ!!

世界遺産レベル超えてない!?

普通に生きてたらこんなとこ一生泊まることなんてあり得ないッ!

ずえったいにあり得なーいッ!!!


「 …… それでは私は一旦下がらせていただきますが、すぐに侍女の者が参ります。セナ様は宴のご準備をなさって下さい」


私がポカンと部屋を眺めてるのには全く関心がないのか、グレンは必要事項を伝えると部屋からさっさと出て行こうとした


「 待ってッ!!」


私は咄嗟に彼を引き止めた

まだ何か用かと露骨に眉をひそめて彼は振り返る


「 すみませんが今夜はもう疲れたので宴は欠席します。 なので侍女の方達も部屋に来なくて結構です。 王様やお爺ちゃん達、あとサンチョさんにもよろしくお伝え下さい。団長さんも今日は大変お世話になりありがとうございました。それではおやすみなさいッ!!」


息継ぎも惜しい勢いで一気にそれだけ言うと、私は彼の返事を待たずにガチャリと扉を閉めた


箇条書きでも最低限の言葉は並べ立てたつもりだ。これ以上この人達に関わりたくない。心がこもっていない点はお互い様なんだから多めに見てもらおう


そろそろ自分も限界だった


騎士はしばらくの間、扉の前にいたようだけどやがて彼の気配は部屋から遠ざかって行った

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