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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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51【魔方陣>魔方陣】

 私とフレデリックが奥の部屋へ行くと、グレンは片膝をつき倒れている男達を見ていた。


「 …… いぇ、それは私ではありません。」


 リュカが気まずそうに、こちらをチラチラ見る。


「 そうだろうな、体の骨という骨がバラバラにされている。これほどまでにむごいことはお前にはできない ……。いや、これはまともな人間のやる事じゃない。」


 別に言ってもいいのよ? コイツらを叩きのめしたのはこの中にいまーす!って。この状況で言えるもんならね?


「 わ、私はちょっと …… 意識が無かったかもしれなくてよく分かりません。」


 珍しく歯切れの悪いリュカに、グレンは眉を上げた。そこにフレデリックが口を挟む。


「 ここはやはり人身売買の中継地点のようですね。せめて取引相手が分かればいいのですが……。」


 取引相手?? 取引相手って言うと、確か男達が名前を話していたわよね?


「 ねぇ…… ええっと、そう!ザゴバって人知ってる? 」


「 ザゴバ? …… いや、知らんな。フレデリックは?」


「 いえ、私も存じません。」

 

「 まさかそれが?」


 私が頷くと、リュカがパチンッと指をならした。


「 商人ザゴバランティス!!」


「 誰だ?」


「 世界中を商圏として、手広く商売している男です!奴ならやりそうな事です!!この倒れてる男達がしきりにその名前を口にしていました!」


「 気を失ってた割に詳しいな。」


「 ひぃッ!そうでした!!」


「 会ったことがあるのか?」


「 は、はい、以前一度だけ。奴はローゼンタールにも出入りしていていました。人の事をジロジロと見て嫌な奴です。」


 リュカは綺麗な顔をクシャリと歪ませた。


「 もしかして、顔に入れ墨のある男ですか?」


「 そうです!フレデリック様もご存知なのですか?」


「 いえ、名前は知りませんでしたが、前に城に来た商人が、不興を買い城を出禁になったと聞いたことがあります。…… 魔導師は何かと商人との取引が多いので噂を耳にしました。」


 その男は顔に入れ墨があった。と役人が話していたそうだ。この世界だってお商売するなら信用が大事だろう。横つながりだってあるだろうし、出禁の噂はすぐに広がるんじゃないかしら?


「 表の商売がやりにくくなり、裏稼業に回ったって筋書きかもしれないな。おまけにラグドールに対して恨みもある、と。」


「 それで、町に騎士達がいると知って、拐わせた??」


「 どうでしょうか? その辺りは、その商人を捕らえればわかる事でしょう。」


「 早急に手配します!!」


 どこの世界にも悪い奴っているのね、と三人の会話を聞いていて、私はある事を思い出した。


「 待ってリュカ!そういえばこの人達って三日後に取引するって言ってなかった?」


「 取引?」


 男達をどうやって運ぶか、フレデリックと相談していたグレンが再び手を止める。


「 そうです!奴ら、セナ様が飲ませた酒でうっかり口を滑らせ、確かにそう話していました!」


「 そうか、そうなると手配書を回すよりも、三日後に待ち伏せして捕まえたほうが確実かもしれんな!…… 待ってくれ、セナ様が飲ませた酒の方が気になるのは私だけか?」


「 私も先ほどから気になっていました。セナから随分とお酒の匂いがしますが、この者達に飲まされたのですか?」


 グレンとフレデリックが私を見る。

 リュカは自分の口を自分の手で押さえていた。


「 飲まされたというか …… 私は一滴も飲んでない。飲むフリをして襟口やスカートに全部流してたの。」


 そして飲ませたのはどちらかといえば私のほう。


「 何がどうしてそんな状況になったのだ!?それに、そこまで服を濡らせば流石に飲んでないことだってバレるだろう?」


「 あぁこれは、ここまで来るまでに川に入ったから、…… ァアッ!!」


「 川? 今度は川か!? こんな季節になぜ川に入る必要があるのだ!!…… どこへ行くッ!?」


 首をひねるグレンをよそに、私は上の階へと走り出した。地下の部屋の男達も、一階にいる男達もみんな眠っている。きっとフレデリックの仕業だろう。


 建物から出ると、馬小屋へと向かった。

 町から共に来た馬は、足を折り曲げ座りこんでいて、私の姿を見ると健気にも立ち上がった。足の怪我を確認すると、一応手当らしいものはしてあるけど完全に治してはいなかった。


 そうだ!魔法で治してもらおう!!


 私は再び建物に向かうと、ちょうど中からグレンが出て来る。


「 ねぇ!あっちに馬がいるんだけど、治せる?疲れてて、足がね? すっごく走らせちゃったから …… 一緒に来て …… ケガをしてるの!」


 自分でも支離滅裂だと自覚はあったけど、グイグイとグレンの腕を引っ張る。

 すると私が引っ張ってるはずなのに、逆に後ろへと引っ張り返された。体が宙にフワリと浮き背後から抱きしめられ戸惑う。


「 な、な、な、なに!?」


 グレンの顔が私の左肩に乗り、頬にグレンのサラリとした髪がかかった。


「 無事で良かった …… 本当にすまない。私の迂闊な行動で、セナをとても危険な目に遭わせた ……。」


 グレンはそれ以上言葉が続かないようだ。

 あぁそのことか。私が落ちたのは、私のせいであり、他の誰のせいでもない。強いて言うならあの石像のせいだ。


 私はそのまま左手でグレンの頭を撫で撫でし、そして彼と向かい合った。おお!国一番の剣豪がすっかりしょげてる。


「 あの時ね ……。」


 私はもう一度彼と再会したら、ずっと言いたかった事があった。


「 あの落ちちゃったとき、初めてセナって呼んでくれたのに、返事できなくてゴメンね?」


 ─────!?


 背中をグイッと引き寄せられ、抱きしめられる …… ところまでは想像の範囲内だった。けどまさかキスされるとは思っていなかった ……。


 グレンはハッとして私から離れる。


「 すすすすまないッ!!私は何をやってるんだ!?」


 い、いや、こちらのセリフだよ。


「 馬がケガしてるって?? 今すぐ治してやろうッ!!…… おっ!あの馬だな!!」


 グレンはさっさとその場から離れてしまい、私はというと、しばらくの間、頭が真っ白になっていた。


「セナ様 〜 !!」


 ターニャの元気な声で正気に戻り、私はふらふらと建物へと戻る。サラとターニャは意識が完全に戻っていて、お互い助かった事を喜びあっている。ターニャなんて「私、誘拐なんて初めてですわ!」と興奮気味だ。

 町で眠りの魔法をかけられてから、ずっと眠っていたみたいで、怖い思いはしてなかったのは私にとっても嬉しかった。


「 お兄さま!!」


 牢屋に入っていた女の子の一人が叫んでいる。


「 お兄さまッ!!ああどうしよう、私を助けにここまで来てくれたのね!!」


 床に倒れて眠っている男を揺さぶりながら、その少女は涙を流している。私は状況を察してフレデリックにお願いした。


「 あの男の人は、たぶんだけど悪い人たちの仲間じゃないから起こしてあげて。」


 フレデリックが林の男を目覚めさせ、兄と妹はヒシと抱き合う。私はそれを複雑な思いで眺めた。

 すると兄のほうが私と目が合う。


 あら、お久しぶり。その節はどうも。


 一瞬、私にしたことを謝るのかな〜?と思ったけど、男はフィッと視線を逸らした。


 へぇ、ずいぶんとしたたかなお兄様。まぁいいけどね。


 私たち一行と、助けられた者達が村の外へと出ると、フレデリックは村へ向かって両手を上げた。


「 今からこの村に術をかけます。以後この村に立ち入った者は、どんな事をしても村から出れなくなりますので、入らないようお願いします。」


 つまり、三日後に取引相手がこの村を訪れるだけで、自動的に捕獲される仕組みね? なんとかホイホイみたい。


 また馬に乗って町まで戻らなくてはならないのかと思ったけど、フレデリックがマルッと全員を転移してくれたのでありがたかった。


 お世話になった馬は、回復魔法ですっかり元気になり、私が撫でると嬉しそうに鳴いた。

 そして宿屋のご主人はみんなの帰りをとても喜び、私も馬を借してくれた礼を言った。


 服は魔法で乾かしてくれたけど、めちゃくちゃお酒臭いからお風呂に入りたい。それにお腹もすいた。みんなに、私が過ごした魔物の島のことも話さなくてはいけない。けど、そろそろ限界だ。


 私はフレデリックの袖を引くと、スカートのポケットから輝く石を四つ取り出し、その場に倒れ込んだ。

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