28【街から出る前に】
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「 停めてッ!」
馬車の窓から流れるような街の風景をのんびりと眺めていたが、私は弾かれたように大声を上げた
けれど馬車を運転?操縦? どちらか分からないけど、とにかく馬車を動かしてる人に私の声は届かずどんどん進む
私は焦った
やだ、馬車ってどうしたら停まってくれるの!?
そうオタオタしていると、隣に座っている魔導師さんが黒の手袋をした腕をスッと上げ、小さな声で何やら呪文を唱える
すると、馬車の速度が徐々に遅くなっていった
私は馬車が停車するまで待つことができず、扉をどうやって開いたらよいのかガチャガチャしていると、またもや魔導師さんが身を乗り出して開けるのを手伝ってくれた
礼をいい半ば飛び降りるように馬車から出ると、私は今ほど通り過ぎた道を走った
目の前に大きな噴水のある広場があり、その向こうにはとても背の高い大きな建物が見える
私はその広場も全速力で通り抜け、建物の前までたどり着くと、肩から息を何度も吐き出した
建物の入り口は、高さ5メートル位の筍のようなアーチ状になっていて、その両サイドは正面ほどの高さはないが同じような造りになっていた
アーチの上には細かい格子の縦長の窓が並んでいて、建物の縦長さを強調させていた
更にその上を見上げると、屋根にはいくつもの尖った高い塔が三角形に広がっていて、一番高い塔には金属製の鐘が下がっていた
海外のゴシック様式で建てられた教会のようにも見える。けど何か足りない、そうか肝心の十字架はどこにもないのだ
そうか、ここは異世界だった
つい海外旅行感覚になるけど、全く別の世界に来てることを改めて実感した
背後からカポカポと馬の足音が近づいて来る
その音は、私がすでに立ち止まってるためか慌てる気配は感じられなかった
「 どうした? 急に走り出して。 皆が驚いているぞ」
馬に乗ったままグレンは呑気に話しかけてくるけど、私はその問いには答えず逆に質問を投げかけた
「 ねぇこの建物は何?」
自分の質問に答えなかったことに特に機嫌を損ねる様子もなく、グレンは馬から降りると建物を見上げながら答えてくれる
「 ここはラグドール大聖堂だ。街の人々が祈りを捧げる場所だな」
やはり教会のようなものなのね
「 中には入れない?」
「 中にか? 日中なら誰でも気軽に入ることはできるのだが ……。 まだ夜が明けて間もないからな 、神父を急がせるのは申し訳ない時間だな。中が見たいのか?」
「 …… 石がある」
「 何だと!?」
私は建物から視線をグレンに移し、もう一度言った
「 この中に石があるの」
一瞬彼は建物と私を見比べ、再び馬に乗ると「 待ってろ!」と言い残し馬車へ戻った
みんなに石の事を伝えたのだろう、 馬車はゆっくりと向きを変えこちらに進みはじめた
グレンは、もう一人の隊員と馬でこちらに駆けつけてきて、グレンは私の近くに来た
そして隊員は馬を建物の近くのフェンスにくくり、正面入口の扉を叩いた
私は扉が開くのをジリジリと待つことしか出来なかった
「 セナ様ッ!!」
振り向くと、サラとターニャが馬車から降りて走って来る
「 石があるって本当ですか?」
私はこくりと頷く
説明できないけど自信はあった
隊員がしつこく扉を叩き続けると、ようやく中から人が顔を出し隊員の姿を見て驚いている
相手は急に畏ると、次に不安げな表情を浮かべ扉を大きく開いた
隊員はグレンへ頷き、それから中へと入って行った
「 我々も行こう」
グレンはそう言うと、先ほどの隊員と同じように馬をフェンスにくくり、たてがみをサラリと撫でてから私を促した
建物の中に入り私は思わず息を飲んだ
外観も祈りを捧げる場にふさわしい荘厳な造りとなっていたが、内装も静粛な雰囲気が隅々まで満ちている
もしここに観光で立ち寄ったのなら、彫刻や祭壇、絵画の一つ一つまで堪能したいところだけど、今はそんなことをしてる場合ではない。私は真っ直ぐに通路を進み、祭壇の前まで来ると左へと曲がった
横長の木製の椅子は、長い年月にわたり様々な人が座ったのだろう。重厚感のある色味になっている。そのまま進むと正面の壁に小さな扉があった
勝手に扉を開いていいのか分からず、グレンの顔を見ると彼は神父様の方を振り返った
「 その扉は中庭に出る扉ですが?」
「 開けてくれ」
朝早くに王宮の騎士に叩き起こされ、何事かと思えば今度は中庭への扉を開けろという。 神父様も何が何だか分からないのだろう。不安げな表情を浮かべながら、一旦建物の奥へと走っていき慌てて戻ってきた。その手には輪っかに繋がれた鍵があった
ふと、目の端に建物の入り口に魔導師さんが入ってくるのが見えた
彼は周りの緊迫した空気など気にもせず、のんびりと天井などを見回していた
「 開きました」
神父様に礼を言い扉を開けると、そこにはテニスコート位の中庭があった
私は扉の枠を超えて、一歩外に足を踏み出し一面を見渡す
「 …… あった」
そう呟くと迷うことなく庭の隅にある一本の木へと近づいて行く
その木は趣きがあり、高さはそれほどではないけど、長く大切に育てられていたことがわかる
地上から高さ20センチ位の幹のところに、小さな樹洞ができていて、受け皿のような役目となっている
その中にポツンと石が入っていた
大丈夫、いま戻してあげるから
そう思いながら石を手のひらに乗せ優しく包み込むと、召喚された日と同じ様に眩い光が辺りに広がった
そっと手を開くと、石はキラキラと輝く宝石へと変わっていた
私が慈しむように石を眺めていると、見ていたグレンが「やったな!」と喜んでいる。私は頷いて石をグレンに渡した
そうか、こうやって集めて行けばいいんだ
サラとターニャ、そして隊員もグレンの手のひらを覗き込んでいた
魔導師さんは、少し離れた扉の横手でその様子を見ていたが、その表情からは何の感情も読み取ることができなかった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私たちは神父様に礼を述べ待機していた馬車に乗り込んだ
馬車がゆっくりと動き出すと、今までずっと静かだった魔導師さんが何かを話しかけてきた
「…… はい? ……すみません、もう一度 ……」
「…… えっ!?」
「…… エッ!??」
これね? 何度も聞き返してるのは私が悪いんじゃなくて、馬車の音で聞き取れないのよ
魔導師さんの声も小さいんだけど、こちらが顔を近づけると、魔導師さんは身体を後ろに反らすからなんだか近寄り難いし、何度も聞き返してたら彼は「 もう結構です」的な感じで黙ってしまった
仕方ないわよね? でも何だかこの人ってコミュ症っぽい感じがする。付き合いにくいタイプの人なのかしら? 私だってそれほど人が好きではないが、ある程度の年齢になれば、最低限のコミュ力は備えなければ会社員は務まらない。ましてや私の職種は接客業だもの。私は皆にバレないようにそっと息を吐くと、対面にいるターニャがプルプルと笑いを堪えてた
こら、ターニャ!笑わないの!
私は目力を使ってターニャに注意する
サラはこの気まずい空気に輪をかけて小さくなっていた
まあ、いろんな人がいるわよね、それよりも今は街の景色を楽しみましょうか
馬車は一定の速度を保ちながら進んでいく。その少し前を二頭の馬が先導するように走って行く
馬を操るグレンの顔はここからは見えない
馬車もいいけど、ああやって馬で駆け巡ることができるのは少し憧れる。朝日は完全に街全体に光を注ぎ、道には街の人がチラホラと出てきていた
あの人たちは今日はどんな一日を過ごすのだろうか?そして、私は今日はどんな一日を過ごすのだろう
そして石はあとどのくらいあるのだろう…




