アウトレット婚活
「本当に、リズム感ないのね、あの子……」
タカさんは、ノリコがあのおしゃれなジプシーワンピースを着て、クラブフロアーの隅っこで、踊る姿を見て、ため息まじりにつぶやいたらしい。
そんな事があってか、今日のレッスンを、クラブに行った時に踊れる、簡単なステップの練習に変更してくれた。
クラブがオープンするまでの時間、一緒に食事をすることになった。タカさんが、ヴィレッジメンバーとよく来るというお店の前で待ち合わせだ。
例によって、このお店はお休み?という無愛想な入り口が、細い裏道に現れる。お化け屋敷のような、暗いトンネルの廊下は、足元灯だけしかついていない。目が慣れないノリコの様子を見て、タカさんはノリコの手を取って道案内をしてくれる。ちょっとした心配りだったが、ノリコには、人間の手が持つ暖かさ以上の温もりを、握る手の強さから感じ取っていた。
行き止まりを示す真っ赤にペイントされた扉を開けると、廊下の暗さが嘘のように、明るくて開放的な空間が現れた。体育館のような建物の壁沿いに、中二階の席がぐるりと一周囲むような作りで、ノリコ達が居るフロアーを見下ろせた。
ノリコは、一階が見下ろせる中二階の席が気になったが、タカさんは、どこでも良いという感じで、席の希望を伝えない。
案内された順で、ノリコが先に座ったが、タカさんが、正方形のテーブルのノリコと向かい合わせの席でなく、テーブルの角を挟んで座ったことに驚いた。サトシのことが、一瞬、ノリコの脳裏をよぎる。
「あの、一つ聞いていいですか? 」
「はい、何でもどうぞ……クラブのフロアーに行ったら、大声じゃなきゃ聞こえないから、今、聞いとくわ」
「どうして私のレッスン、引き受けてくれたんですか? 」
タカさんは、ノリコの顔を見ないで、正面を向いたままだ。
「どうしてかしらね」
「あ、すみません、変なこと聞いて。ただ、その、あんまり、メンバーの方のレッスン、引き受けないって、聞いたから……」
ノリコは、どういう言葉が適切なのかわからなくて、しどろもどろになる。
「あなた、いい子なのよ」
タカさんが、ノリコの身体に貼り付けた言葉が、何を表しているのかわからない。
「アウトレットに、置いておくには勿体無いって……」
「アウトレット? 」
「みんなが、いいなあと思う男性は、陳列される前に売れちゃって、婚活市場に出てこないの。大学とか高校の同級生とか、社会という市場に出る前に予約済みの場合が多いの。
で、あなたの年齢だと、普通の市場じゃ、売れ残りとして扱われちゃってるわけ。そりゃそうよ、二十代の女の子と一緒に陳列されたって、ライバルにすら思ってもらえない。まして、恋人としてじゃなくて結婚となると、女性には、出産があるでしょう。自分の子供を産んでほしいと考えてる男性が、三十代より二十代の女の子を希望するのは当然でしょう?
あなたが居る場所が、すでに婚活市場の陳列棚から降ろされたアウトレットだということを、まず自分で認めることから始めなきゃダメなの。
だから、あなたがアウトレット市場に居るとしたら、 相手の男性もアウトレット品から選ぶしかないって、自分でわかってる? 自分より年収が低いとか、容姿がイマイチなのは当たり前のことなの。
あなた自身が、ハイブランドのアウトレット品にならない限り、望んでいるような男性の目に留まる可能性は低いわ」
タカさんは、一息ついた。
「私ね、若い頃、長い間付き合っていたガールフレンドがいたの。今のパートナーに会うずっと昔の話よ。その子は、多分、私と結婚したかったんだと思うんだけれど、私はまだ若くて、色んな人と付き合いたいっていう気持ちが強かったから、そのガールフレンドを振ったの。そしたらその子が自殺を図って……、未遂に終わったんだけれど……」
ノリコの表情を見る為なのか、一旦話を止める。
「ごめんなさい、なんか、私、そんなプライベートなお話、聞いちゃっていいんですか? 」
「私が勝手に話し始めたのよ、でも、エマちゃんも知らないわ」
「大丈夫です。私、話しませんから」
「いいのよ。もう、秘密でも何でもないわ。あなたが自分を守る為に、誰かに、この話をしてもいいという事と同じよ」
「自分を守るなんて、そんなこと……」
「エマちゃんのお母さんから、依頼が来た時、少しだけあなたの事情を聞いたの。その時、今まで誰にも話してこなかったこの秘密が、すっと、また浮き上がってきて、あなたの苦しさが理解できるような気がしたの」
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最後まで読んでいただきましてありがとうございました。本日の投稿が遅れました事、お詫び申し上げます。
このお話の続き、第33話は、明日8/3(月)朝、7時に投稿を予定してます。




