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モデルウォーキング (上)

二人で、街を歩いてみて、不思議な気持ちになる。

二十代半ばにしか見えない美人のお嬢さんが、先生なのだ。 小さい頃から舞台に立ってきた彼女が持つオーラのおかげで、本当に歩道が、ファッションショーのランウエイのように見える。普通に歩くのに、これだけ気合を入れたことは無かった。 エマ先生の上品な色気が撒き散らされて、隣にいるノリコも、「女」を意識し始めた。

並んで歩くだけで、すれ違う人の視線を感じる。勿論、それは、エマ先生に向けられたものだが、ノリコは生まれて初めて、「道行く人に見られる自分」が、こんなにも気持ちを高揚させるものだと知った。

いつの間にか、エマ先生につられて、ノリコも姿勢良く、同じ歩幅で歩いている。街を自分の為の舞台と考えてもいいような気さえしてきた。

「ノリコさん、口角上げて、笑ってみて」

ノリコはエマ先生に向かって、口角を上げる動きをした。

「うーん、なんかハロウィーンのカボチャみたい、練習しないとね」

ハロウィーンのカボチャの顔を思い浮かべたノリコは、ちょっと落ち込んだ。

「笑顔は最強の味方よ。最初は難しくて、不自然な笑顔しか作れないけけど、表情筋をコントロール出来れば、この女の子にまた会いたいな!っていう笑顔を作れるのよ」

「この女の子にまた会いたい……っていう笑顔」


素敵なシチュエーションを妄想して、ノリコは何度もうなづいた。

「ノリコさん、うなづく時、顎でうなづかないで、頭のてっぺんを意識して、うなづいてみて! 首を横に振る時も同じよ、串刺しになったお団子を回す感じで、いつも体幹軸を意識するの」

実際にやってみると、確かに動作がゆっくりになる。 テラスで一緒だった女性達のうなづき方に近づいた感じだ。

「その調子! 」

と言った後、エマ先生は、何かを思い出したように

「そうだ! ちょうどいい、ショルダーバックの持ち方も、モデルさんたちに教えてもらいましょうよ」

「バックの持ち方まで? 」

「大事なことよー、せっかく素敵なバックを持ってても、残念! っていう人いっぱいいるのよ」

エマ先生は、みんなが知らない秘密を教えるように楽しそうだ。

「歩いていて声をかけられたり、効果が実感できたら、自分磨きに夢中になって、あれもこれもやりたくなっちゃって、寝る暇もなくなるわよ」

綺麗になりたい気持ちは、勿論あるが、それを人生の目標にしたことはない。その目的の為に、寝る暇もない程、自分を追い込む必要があるのかさえ、まだ疑問だった。


こんなところにスタジオが? と思うような、細い裏道沿いに現れた建物に、モデルという三文字が含まれた看板はない。 デザイン関係の事務所がテナントとしてたくさん入っているビルの三階まで、エレベーターを使わずに階段で上る。

扉を開けるとすぐ、スタジオの空間だった。モデルの卵さん達は、お人形さんのように膝を伸ばして座っている。

正座で食事をしているノリコの家の習慣からすると、「お行儀悪い」のだろうが、膝が前に出ないまっすぐな脚を維持する為には、こんな座り方になるのだろう。 この光景だけでも異様に見えた。

エマ先生は、黒いレッスン着で統一している先生の集団に混ざって、ノリコを指差しながら何か話している。

しばらくして、自分と同じ人間だとは思えない脚の長さと細さの持ち主が、口角を上げた笑顔と共に、ノリコの方に近づいてくる。

「ウォーキングを担当している、さくらです。せっかく来たのだから、歩き方レッスン、もう今日から始めていきませんか? 」


白いビニールテープを、五メートルぐらいフロアーに貼って、ウォーキングレッスンの始まりだ。担当してくれるさくらさんは、肩甲骨の位置がはっきりとわかる細身のスタイルだ。質感の違う上下の組み合わせとはいえ全身黒だからそう見えるのだろうか。明るい茶色のショートボブに薄っすらピンクのカラーリングがミックスされている。

「何センチのヒール希望? 」

ノリコの身長を測るように、目線を一往復させた後、いきなり聞いてきた。

「特に、希望はないんですけれど……」

こんな質問、今までの人生でされたこともない。実際、履きやすさ重視で買ったパンプスのヒールが、正確に何センチなのかも知らなかった。

「あら、困ったわ。モデルとか女優志望の方と思ってたから」

ノリコは、きっとこれからも、行く先々で、こういう質問が繰り返されると予想できた。ならば言ってしまえ、と態度を決める。

「婚活なんです」

プライドを捨てて、正直な自分をさらけ出す勇気が、何故出たのかはわからない。ただ、自分とあまりにもかけ離れた世界を見て、女優志望です、と嘘が言えるほどの図々しさは無い。

「マジ? 」

それなら結婚相談所にでも行ってくれ、と言われるのかと思っていたノリコに、意外な言葉が返ってきた。

「いいけれど……。大変な事になるって、聞いてないの? 」

「わかってます。寝る暇もないぐらい大変だって、大丈夫です。覚悟は出来てます」

さくらさんのやる気を失わせてしまったと思ったノリコは、エマ先生のうなづきの教えも忘れて、必死にお願いをした。

「そういう意味じゃなくって……、まあエマちゃんがオッケー出したんならいいけど……」


**********


最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

今日7/20(月)夜、9時前後に、作品の楽屋話と第21話の投稿予定日時をお知らせします。よろしかったらそちらもご覧下さい。


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