君を幸せにもできない
涙なんて、一滴も出なかった。
思い出したくもない過去をこうやって抉り出されても、流れる涙はもう枯れてしまった。
ただ浮かぶのは、曖昧で下手な作り笑いだけ。
何度、宇津木に言われただろう。
そんな笑い方するなら、笑うのをやめろって。
そんな笑い方で、自分を守れると思うなって。
でも、俺にはそんな下手な笑みを浮かべるしかできなかった。
「こいつな、昔監禁されてたんだ。こいつの母親に」
俺の姉貴でもあるけどな、と呟くのは義理の兄。
彼に視線を釘つけにしている彼女。
どんな表情をしているかなんて、ここからは見えないけれど。
でも、きっと。
「それが相当酷くて……人間不信になったというか、女嫌いになったというか」
「……なのに、私に近づいたんですか」
小さな体が震えている。
彼女の怒りを感じる。
そりゃそうだろう。
女嫌いの俺が、彼女に近づくなんてあり得ない。
何か裏がなければ、だ。
「それは、春日井が他のどんな女よりも魅力だったからなんじゃねぇの? じゃなきゃ、お前に近づく訳ないだろ。家族とさえ別居しているこいつが」
無駄だと思う。
彼は俺の立場が酷くならないように、弁解してくれているけれど。
もう、終わりだ。
きっと、彼女は出て行く。
この部屋からも、俺の中からも。
あんな過去を持ちながら、幸せになろうとした罰だ。
俺が幸せになる資格なんて、ないんだ。




