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終響のポリフォニー  作者: 更待レリア
1章(春)
1/10

1話:始奏

はじめまして、作者です。

この作品は音楽記号をより覚えやすくするために作られたのが始まりです。

もちろん、音楽や神道の知識がなくても楽しめる作品になっております。

なお、この作品は伏線が非常に多くなっておりますので、初めから順に読んでいくことをおすすめします。

日本随一の神社の町、宮道市

その知名度からかつてはただの街であったこの地は政令指定都市に登録されるほどの規模を誇るようになった

そしてその市のある場所から物語が始まろうとしていた



宮道市内三大神社の一角が控える三川区

細道を慣れた様子で歩く少年は山に囲まれた神社にたどり着く

「ただいま」

神社目の前には鉄道の駅があり、トンネルで山を貫いている

小さな本殿の中から一人の男が出てくる

「おかえり、奏真(そうま)」

この男は奏真が生まれたときから何故かほとんどいつもこの神社に居る

そして年を取る様子もない

奏真もそういうものなのかと勝手に納得していたが、今でも気になる

「今日はどんなお話をしてくれるの?」

「そうだなぁ、きっと私は君にする話などないと思うよ」

たしかに、毎日のように奏真はこの男に話を聞いていたが、いつもは悩むこと無く歴史の話をしてくれていた

「最後に話すとしたら、音楽の話だろうか」

「そうなの?」

「奏真は音楽が好きかい?」

「ん~ピアノとかお琴なら好きだよ、お母さんにいっぱい教えてもらったからね」

「それならよかった、私も昔は音楽でたくさん注目を集めていてね」

「へぇ~やっぱり音楽ができるとモテるの?」

「私が若いときはそうだったよ、もっとも今は名前すら忘れられてしまったがね」

「そういえばずっと名前教えてくれないよね」

「これからも教えることはないさ、君もいつか私のことを忘れてしまう」

「そんなことないもん!」

「そう言うなら覚えておいてくれ、名前ではないが…私はこの神社の神なんだよ」

男は奏真を手で突き放す

その言葉が奏真に届けられると、その男の体が上下に分かれる

「え…」

聞こえた言葉と目の前で起こった事象に奏真は言葉を失う

男の体を分離させた光の糸の先を見るとフードを被った男がいる

男はナイフを持っているにもかかわらず、少年は話しかけようとする

「やめなさい…私はこれでようやく解放される…この終わらない永遠の孤独から…」

上半身だけの神が奏真を引き止める

よく考えるとその断面からは血が一切流れていない

しかし、光る小さな実体のない光の玉が、男から漏れ出していく

フードの男は奏真の思考の間隙を見逃さず、逃げていく

逃げる足音を聞いて振り向くと、黄色の目だけがそのフードの隙間から見えた



また一人の少年は夕日を浴びて目を覚ます

どうやら、教室で寝てしまっていたらしかった

クラスメイトはすでに全員下校しており、教室に残っているのは自分と、小さな光だけだった

体を起こすと、その光は太陽ではなく別の光の玉だと気づいた——光は自分の体に溶け込んでいき、一瞬また夢の中にいるのかと思った

少年「白石幸斗(しらいしこうと)」は学校の階段を降りていった


剣道場でもある祖父の家の門前に着くと、目に飛び込んできた光景に足が止まった

道場の人たちが、皆々血を流して倒れていた

いつもは自分の部屋に荷物を置かないと怒られるが、そんなことは気にしていられず、祖父の部屋に走っていく

目的の部屋にたどり着くと、襖は開いていて、一人の女性が立っている

祖父はその場に倒れ、今まさに命が絶えそうになっている

「あら、幸斗くん」

幸斗の足音に気づいた「壬生永和(みぶとわ)」という女性は血が溢れているナイフを片手に添えながら振り向く

そして、こちらへナイフを刺し込みに来る

「ひっ!」

幸斗は思わず手を前に出し、止めてくれと願う

彼自身も死を覚悟していたが、一向に突き進んでいたナイフが自分に触れない

幸斗が目を開くと、永和の動きが止まっていた

目の前で起こっていることの驚きに腰を抜かして倒れる

永和の動きがもとに戻るが、一瞬目の前からターゲットが居なくなったため、本来の動きを通り越して壁にナイフが刺さってしまう

「やっぱり思ったより動きがのろくなってるのかしら」

女が状況を把握している隙に、小さな体を使って祖父が持っていた刀を手に取る

祖父はもはや何も言えなくなっており、持っていた手からも簡単に離れる

「どうして…じいちゃんはあなたの師匠のはずだ!」

壬生永和は同じ道場で幸斗の祖父から剣道を教わっている人だ

幸斗からすれば何故殺したのか、殺せたのかもわからない

「強いからよ、私が強いと思った人を殺せば、私は私以上に強くなったことになる」

一瞬わけがわからなくなる論理を振りかざすと、もう一度こちらにナイフを向ける

「けど、思ったより動くがのろくて失望したのよ?それで殺したら私まで遅くなったの」

幸斗は差し迫ってくるナイフになんとか刀を合わせて防ぐ

「やっぱり、あの光が良くなかったのかしらねぇ」

ナイフが次の手を打つために、刀から刃を離そうとすると、また永和の動きが止まる

同時に幸斗の持っていた刀も動かなくなる

「時間が止まっているのか?」

思考をする時間を使ってしまったが、すぐに片手に持ち替えて思いっきり力を込める

すぐに時間の流れがもとに戻る

しゃがんで溜めていた足の力と腕の力を全て前方に回す

「うおぉぉぁぁぁ!」

ナイフを引く方向に動かしていた永和は狙われてしまった足を防ぐことができずに右足を切り離されてしまう

勢い余って幸斗は飛んでいってしまうが追撃は来ない

足止めはできそうかと思って振り向くと、切り離された右足が液体のようになって元の体に戻ろうとしている

「…再生…」

そして液体は元の足の形に戻る

幸斗は次の攻撃を警戒しなければならず、刀を構える

「残念だわ…あなたは本気でやっても私の片足しか切ることができない、もっと強くなってもらわないと私が弱くなってしまうわ」

残念そうな、物足りなそうな言葉が放たれると、ガラスを割って永和は外へ抜けていく

最終的には、命の絶えた老人と刀を持ってへたり込んでいる少年だけが残った



雨が、降り始めた

幼い、ボロボロになった体の少年が、コンクリートの壁の間の薄暗い道の中で足を引きずりながら逃げていた

少年の瞳には恐怖が刻まれており、まるで強大な何かに追われているかのようだった

表の路地の光が見えてきた頃、突然眼前に光の玉が現れたかと思うと、少年の中に入り込んだ

その瞬間、眼前にあった表の光が失われ、見たことのない景色がいくつも目に飛び込んできた——少年は空を裂くような絶叫を上げた

叫び声が途絶えたと思うと、少年は白目をむいたまま倒れた

最後に一瞬映ったのは、後ろから来ていた恐怖ではなく、路地を歩く人が砂塵になって消えていく姿だった

破壊と喪失の音が迫ってくると、少年の身体は一切の音を出さずに忽然と消えた

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