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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第六章 変革の息吹
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#51 転換と役割


「みなさん、すまなねぇ。せっかくこんな遠い田舎まで足を運んでもらってたのに、ワシらの態度は間違ってたでさぁ。クリスティーナ様がおっしゃる通り、産業を発展させると誓った身でさぁ。どんな無理難題でも、職人の誇りに賭けて実現してみせまさぁ。なんでも言ってくだせぇ」


 最初に沈黙を破ったのは、ゴードン親方だった。


「いや、ワシら軍も間違っていた。本来お願いするべき立場であるのに、理屈ばかりで誠実さに欠けていた。婚約者殿が言う通り、グレイス領の平和が一番大事である。その平和を守ることこそが、領軍の存在意義であり軍人の哲学であると思い出させてくれたことに、感謝する」


 次に話してくれたのは、カリム将軍だ。


「私共こそ、申し訳ございませんでした。トーマス様の構想に将来性を見出したからこそ参加させていただいていたのに、目先のことしか見ておりませんでした。この場では、お取引相手としてではなく、領民の一人として貢献させていただきます。商いしか能のない人間の集まりですが、どうか使ってください」


 ハンス殿も話してくれた。

 俺も続くように頭を下げて、お願いする。


「私こそ、皆さんを集めておきながら配慮が足らず、完全に私の力不足です。ですが、熱意だけは大人の皆さんに負けない自信はあります。皆さん一人一人のお力が必要です。子供のお遊びだとは言わず、どうかそのお力を貸してください」


 クリスティーナ嬢の言葉のおかげで、風向きが変わった。

 俺に作れなかった風向きを、彼女が作ってくれたんだ。

 やはり、凄いな。7歳の子供だというのに、場の空気を読み取り、各人の思惑やプロジェクトの本質を見抜く洞察力。そして、被災民にグスタフ潜入をお願いした時もそうだが、なによりも、人の心を掴むのが上手い。


 ゴードン親方とカリム将軍が握手を交わして会話を始めると、そこにハンス殿も加わり、他の参加者たちも各々と交流を始めた。

 本当に助かった。クリスティーナ嬢がいなかったら、どうなっていたことやら。鋳物専門店のオーナーを彼女に決めた時に、このプロジェクトの成功を確信したが、本当に彼女の力で推進力を得た。彼女の存在こそが、グレイス領繁栄の鍵かもしれないな。


「ありがとう。君のおかげで助かりました。この空気は僕には作れなかった。感謝してもしきれないです」


「わたくしは、トーマス様の意思を言葉にしただけです」


「いや、僕がどんなに言葉を尽くしても動かせなかった空気が、君の一言で変わったんだ。これは君だけの素晴らしい才能だよ」


「トーマス様のお役に立てたのなら、わたくしも、嬉しいです」うふふ


 目標意識の共有。官・軍・民が協力することの理解。この二つの課題は達成できたので、今回の四者会談は成功と言える。だが、プロジェクト全体の計画で見たら、スタートラインに立てたという話だ。

 ここからは実務レベルの話になるが、プロが集まっているわけだから、基本的には俺の出る幕はないだろう。素人の俺がなんでもかんでも口を出しても足を引っ張るだろうし、なんでも自分の思い通りにしたいわけでもない。だが、今回のように、間に入って調整を担ったり、計画の進捗状況を管理してコントロールする必要はある。

 しかし、俺とクリスティーナ嬢は王都に戻り、直接携われなくなる。それを俺の代理として、シャントットに任せる。

 通信機器が無く情報伝達に時間を要するこの世界では、現場判断に任せることのほうが多いだろう。そのためには、フットワークの軽さと理念や方針の理解が必要になる。


 そのことをシャントット自身もよく理解しており、積極的に親方衆や技術士官、商工ギルドの面々とのコミュニケーションを取って顔を売っている。『女性なのに』と言うと、偏見や差別になってしまうが、階級だけでなく性差別が当たり前のこの社会の中でそれが出来るだけでも、彼女もクリスティーナ嬢に負けないほどの胆力を持っていた。

 そもそも、女だてらに志願兵というのもあるが、上級貴族の跡継ぎを半ば脅してまで騎士叙任を迫ったほどだからな。

 なによりも、彼女の幅広く豊富な知識と情報処理能力は、抜きんでている。この場でもその能力を遺憾なく発揮して、どのような相手とでも対等に会話できてしまうのが、彼女の凄いところだろう。

 ちなみに、今後の彼女は軍属のまま出向扱いで、俺の代行官という位置づけになる。これに関しては、カリム将軍に取り計らってもらった。


 今後は、シャントットを含めた現場サイドの彼らに主導してもらうべきであり、今のこの空気はそれが可能だと判断して、そこからは出しゃばらないように、シロツグと二人で食事に専念した。サリサリ河で捕れるという川魚の塩焼きが美味そうだったので、無くなってしまう前に食べたかったのだ。


「そういえば、シロツグは護衛任務が終わったら、どうするのです?原隊復帰なのですか?」モグモグ


 初対面の頃は年下の俺にもガチガチに緊張していたシロツグだが、苦楽を共にし、被災地視察では同じ釜の飯を食べていた仲であり、男同士というのもあって、気軽に話せる数少ない相手であった。


「いえ、自分は転属が内定しています」モグモグ


「転属?なにか別の任務でも?」


「コーデン様からグレイス家の専属護衛として、転属を打診されているのですよ」


「え?ウチで?」


「はい。トーマス様がグスタフに潜入しようとしたり、聖教会の使徒と直接対峙したりと、危ないことばかりされるので、コーデン様も自分もトーマス様の身の安全が心配なのですよ」


 無茶をしてしまうのはグレイス領での話で、王都では大人しくて真面目なトーマス坊ちゃまなんだけどな。


「そうなのですか・・・ということは、シロツグも王都へ?」


「正式に決まってから領軍を退役して、兵舎を引き払って王都へ行くことになるでしょうね。幸い、独り身で家具も荷物もたいしたものはありませんので身一つで行けますが、田舎者なので、王都の生活だけが不安でしょうか」


「そうですか。またしばらくお世話になるのですね。きっと、この数か月の護衛任務の実績が評価されての転属なのでしょうね。私もシロツグほど信頼のおける人に護衛をしてもらえるのなら、安心です」モグモグ


「トーマス様にそう言ってもらえるのは、やっぱり嬉しいですね」モグモグ


 そんな話をシロツグとしていると、ゴードン親方がやってきた。


「トーマス様、ワシが作った鉢金を使ってくれてるそうで」


「ええ、トッテム河洪水の視察に行くときに、針金を巻いて出動しましたよ。軍服に似合って、恰好いいんですよね。あとで「その鉢金はどこで作らせた?」と色んな人に聞かれたので、「サリサリ河の鋳物工房ですよ」と答えておきました」


「やっぱりそうだったんでさぁね!何件も問い合わせがきましたよ!」


「抜かりなく宣伝していますよ、ふふふ。あ、それと、被災民の中で希望者に働き口の紹介状を渡したのですが、来ましたか?3人ほど渡したのですが」


「ええ、ひと月前に3人とも来まして、しっかり頑張ってまさぁね。なかなか根性があって、いい人を紹介してくれて、ありがてぇです」


「それは良かったです。少しずつでもいい話が増えるのは嬉しいですね。次にここを訪れる時にどんなお話が聞けるのか、楽しみです」


 こうして、四者会談は無事に幕を閉じることができた。






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