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異世界転生者は黒船になりうるか。  作者: バネ屋
第一章 転生者たちの現実
2/5

#02 二人目の転生者 前編


 男爵リッター家に、次女でマリナという息女がいた。

 リッター家はグレイス家ほどの名家ではなかったが、最大派閥の末席に席を並べ、比較的裕福な男爵家だった。

 そんなリッター家にとって次女であるマリナは、他家との繋がりを作るために必要な人材であり、将来の政治的婚姻に備え、幼少期から徹底的に教育されてきた。


 しかし、マリナが14歳になった日の朝、突然「え!?うそ!私って転生者だったの!?」と言って目を覚ました。

 前世の記憶、水川真紀としての女子高生時代の映像が、夢の中で蘇ったのだ。

 幸いなことに、この独り言は誰にも聞かれることはなかったが、貴族の子女としての自分の人生に、疑問を抱きはじめるようになった。


「このまま貴族の次女として、身分も容姿も冴えないどこかの貴族の次男や三男と結婚して、私の人生は保証されるの?」

「だったら、私の恋愛スキルを発揮して、恋の駆け引きで優良物件捕まえてやる!転生者の私が、この物語のヒロインよ!」


 14歳になったマリナには、社交界でのデビューが控えていた。

 この世界の貴族社会の慣例としては少し早いが、そこには『美麗な娘を売り込みたい』というリッター家の思惑もあり、マリナを駒として有効活用するためのものだった。


 貴族の子女にとって、社交界は戦場でもある。

 家名を背負って、品位と格式を誇る場所。

 転生者であるマリナの戦いの始まりだ。


 男爵家の次女であるマリナのお披露目パーティーは、大々的に開催するわけにはいかず、招待客のほとんどが派閥内に限られていた。

 自分がこの物語の中心人物であると思い込んでいたマリナは、招待客の少なさに内心不満を抱いていたが、いざパーティーが始まり、リッター男爵による紹介とマリナ自身のデビュー・アナウンスメントを済ませ、ほどなく挨拶周りが始まり、ある人物が目に留まると、その考えは一変した。


 マリナのお披露目パーティーには、派閥内でも発言権が強く名家である、グレイス侯爵家の長男で跡継ぎであるトーマスが出席していた。

 貴族としては格上であり、名家グレイス侯爵の跡継ぎであり名代。今回のお披露目パーティーでも、主賓クラスの扱い。

 おまけに容姿端麗の偉丈夫。派閥内や社交界でのリッター家の立場から考えると、マリナにとってこれほどの優良物件はないであろう。


「このたびは、おめでとうございます。美麗なマリナ嬢のお披露目とあれば、リッター男爵も鼻が高いでしょう」


「トーマス様からそのようなお褒めの言葉を頂けることこそ、リッター家の誉れというものです」


「いえ、若輩のわたくしでは、グレイス侯爵には遠く及びません。ですが、これからも末永くお付き合いいただければ、有難く思います」


「はい、是非、両家の繁栄のために、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます」


 マリナの父であるリッター男爵と、グレイス侯爵の名代であるトーマスの会話は、文字通りそのままの、社交辞令である。

 しかし、マリナはお澄ましした表情でそのやり取りを眺めながら、トーマスに近づく算段を考えていた。


 侯爵家の名代とはいえ、これほどペコペコしているのだから、今、私が出しゃばれば、父に止められるだろう。

 なんとか近づく手はないのかしら。


 リッター男爵との会話を終えたトーマスは、マリナに対して軽く会釈をすると、「では失礼」と言い残し、その場を離れた。

 その後ろ姿を眺めていると、トーマスが次に近づいた人物に注目した。


 歳は、私よりも少し上で、15~16くらいだろうか。前世なら高校生くらい?

 落ち着いた佇まいで所作も綺麗だけど、顔なら私のほうが勝ってるよね。

 でも、そんな女性にトーマス様は、にこやかに話しかけている。明らかに私の時とは表情や態度が違う。あの令嬢は誰だろう?ウチよりは格上なのは間違いなさそう。


「お父様、お伺いしたいのですが」


「なんだ?手短に済ませろ」


 父のリッター男爵には、このパーティーの主催者としてのプレッシャーは半端なく、主役のマリナにすら構う余裕がなかった。


「いえ、大丈夫です。お忙しいのに、失礼いたしました」


 この場で父に尋ねるのを諦めたマリナは、姉に聞くことにした。


「お姉さま。あの方のことをご存じですか?」


「あのご令嬢は、ブラン侯爵家のクリスティーナ様よ」


 マリナの問いに、2つ上の姉が扇で口元を隠しながら声を潜めて教えてくれた。


「グレイス侯爵家のトーマス様とお親しいご様子ですが、どのようなご関係なのですか?」


「あのお二人は婚約者同士よ。侯爵家同士だもの、あなたでも分かるでしょ?」


「そうですよね。教えてくださり、ありがとうございます」






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