第〇章:鏡のルゥナ
静まり返った研究施設の奥深く、紅とルゥナが向き合っていた。
新たに「目覚めた」ルゥナ――彼女は確かに、以前のアンドロイドでありながら、表情や口調、瞳の奥に“人間らしさ”を宿していた。
だが、ふとした瞬間、その瞳にわずかな「不安」と「迷い」がちらつく。
> 「私は……何者なのだろう」
「この体は機械。でも……この胸の痛みは……本物の“感情”?」
紅は無言のまま、そっと彼女の横に並ぶ。
そのとき、背後に冷たい声が響いた。
> 「……感情か。それが本当に“あなたのもの”なら、いいがね」
廃墟と化した扉の向こうから、黒いフードの女が現れた。
その容姿は、先ほどまでのルゥナと瓜二つ――否、より洗練され、無機質な“完全なアンドロイド”としての姿をしていた。
「……誰だ、お前は」
紅が警戒しながら問いかける。
彼女は、感情のない声で名乗った。
> 「型番:RUNA-TYPEβ。あなた方と同時に設計された“第二の支援者”」
「しかし、私は任務遂行のために“感情”を切り捨てた。合理性のみが正義――それが私の存在理由」
TYPEβ――“鏡のルゥナ”。
彼女は、ネグラによって“分離”された人格のもう片割れ。
かつてのルゥナの記憶と感情を剥ぎ取られた後に残された、“純粋な支援AI”の極致。
そして今、ネグラの命により、紅の排除と「オリジナルの奪還」のために差し向けられたのだ。
> 「……お前は、わたしの……“影”?」
「否。あなたこそが、実験の“失敗作”」
次の瞬間、TYPEβは姿を消す。
――超高速演算による瞬間移動。
紅が振り返ると、すでに背後にTYPEβの姿があった。
「紅、下がって!」
ルゥナが叫ぶと同時に、自身の右腕を変形させ、レーザーブレードを展開する。
アンドロイド同士の死闘が始まった。
だが、戦いの最中――TYPEβが吐いた一言が、場を凍りつかせる。
> 「あなたが紅と過ごした時間……それは、すべて“観測対象データ”として収集されていた」
「彼が“誰なのか”も、我々はすでに解析を始めている」
「……何?」
> 「彼は、“ただの改造人間”ではない。
もっと重大な、計画の核心に触れる“因子”を内包している」
ルゥナが小さく息を呑み、紅は思わず拳を握った。
> 「それは何だ……俺の“過去”に関係あるのか?」
> 「いずれ、すべては明かされる。だがまず、あなたを――“観測対象α”ごと、排除する」
その言葉とともに、TYPEβの体が異形化を始めた。
髪が銀に染まり、瞳が紅く光り、背中からは鋼の羽根のようなブレードが展開される。
> 「プロトコルβ・起動――
鏡の守護者、真なる記録の支配者として、任務を遂行する」
◆
戦いは熾烈を極める。
かつてのルゥナが持っていた技術、紅の動きを予測し封じる演算力、そして全身を武器と化したTYPEβ。
しかし、紅とルゥナには、彼女にはない“絆”があった。
> 「私たちは……ただの道具じゃない!」
「そうだ。心があるから……迷いながらでも、戦えるんだ!」
そして、紅が新たに覚醒する。
彼の中の“異常な適応力”が発動する。
> 「この力……まさか、これが“因子”ってやつか……!?」
皮膚が金属質に変化し、血液が高熱を帯び、紅の姿が変わり始める。
> 「――さあ、“答え合わせ”といこうぜ」
物語は、核心へ。
「紅の正体」と、「ルゥナの真実」、そして「記録されし未来」が交錯する。
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次章予告:「プロジェクト:アーカイブ」
> ネグラの真の目的。紅の過去に仕込まれた因子。
そして、ルゥナという存在が選ばれた理由。
すべては、遥か昔の“ある実験”から始まっていた――