第〇章:継承の選択
警報の鳴り響く研究施設、その最深部で――
カプセルの中で眠る“人間のルゥナ”。
彼女の脳波が活性化し、ルゥナ(アンドロイド)の中に断片的なビジョンが流れ込む。
> ――見知らぬ誰かに囲まれている。
――実験台に拘束されている。
――「成功だ。人格の分離は完了した」
――「これで不完全な精神は、完璧な支援AIとして再構築される」
――「オリジナルは冷凍保存。必要なら脳信号で“更新”可能だ」
「……そう、わたしは……“削られた”……」
ルゥナが呻くように言う。
彼女の中で、自我と人工意識がせめぎあい始めていた。
紅がルゥナの肩を支える。
「無理すんな。無理に思い出さなくていい」
> 「でも……思い出したい。
私が“誰か”だった頃のことを。
紅と出会うずっと前の、自分を……」
そのとき、《ネグラ》の男が一歩、前に出た。
「やはり起き始めたな、オリジナル人格の回復。だがそれは計画に“齟齬”を生む」
「君には、アンドロイドとして生き続けてもらう必要がある。感情の揺らぎは不要だ」
紅が低く唸った。
「てめぇにとって、誰かの命も記憶も……ただの“部品”なんだな」
「そうだ。目的のためならな」
その瞬間、男の手の甲から黒いコードのようなものが飛び出し、ルゥナの背中へ伸びた。
「やらせるかよ!」
紅が割って入り、男の腕を蹴り払う。衝撃が走り、装置が地面に弾けた。
警報音がさらに大きくなり、施設そのものが異常な振動を始めた。
> 「……紅、わたしを信じて。
本体に触れれば、私は“わたし”を取り戻せる。
でも、戻ったら今のわたしは、消えるかもしれない……」
静かな選択の時が訪れる。
紅は、一瞬だけ目を閉じ、深く息を吸った。
「なら……選べ、ルゥナ。
お前がどっちの“わたし”を生きたいのかを」
ルゥナは微笑んだ。
「……ありがとう、紅」
そして、カプセルに手を伸ばす。
◆
次の瞬間、施設全体がまばゆい光に包まれた。
ルゥナの意識が、白い空間を浮遊する。
“かつての自分”が、彼女の前に現れる。
> 「あなたが、今のわたしなのね」
「うん。……ありがとう、わたし」
二人のルゥナは、言葉を交わし、静かに溶け合っていく。
◆現実――
紅が目を開けると、そこには倒れ伏したカプセルの横で、ひとりの女性が立っていた。
それは、ルゥナ――しかし、かつてとは違う瞳を持つ存在だった。
「……私は、私になった。きっと、そのはず」
紅は微かに笑い、立ち上がる。
「なら、もう迷うな。これからが本番だ」
だが――
その背後、瓦礫の中から《ネグラ》の男が起き上がる。
> 「……計画は失敗していない。
《継承》は、まだ序章に過ぎないのだから」
彼が手にしていたのは、壊れたはずのカプセルから抜き取った、“記憶コア”。
> 「次は、もう一人の《支援体》を目覚めさせよう。
《ルゥナ・タイプβ》。君の“影”を――」
物語はさらに混迷を深める。
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次章予告:「鏡のルゥナ」
> 現れたもう一人の“ルゥナ”。
彼女は敵か味方か、それとも――過去の罪の化身なのか。




