第〇章:アールルナの眠る場所
荒廃した山奥、かつて黒い爪の極秘研究所があった。
今は組織が壊滅した後の、瓦礫と静寂しか残っていないはずだった。
だが、センサーに微弱な電力反応と熱源が残っていた。
「この奥……まだ生きてるんだな、本体のルゥナは」
紅は拳を握りしめ、ルゥナと共に朽ちたゲートをくぐる。
中に漂うのは焦げた鉄と薬品の匂い、記録されなかった哀しみ。
通路の先、地下30階にある最深部。
アクセス不能だったはずの部屋に、扉が自動で開いた。
その先にあったのは――
ガラス製の睡眠カプセル
そこには、ルゥナと瓜二つの、しかしどこか表情の異なる“人間”が眠っていた。
「……いた、やっぱり……」
ルゥナは足元が崩れ落ちそうになるのを堪えた。
自分の“素体”、オリジナル。
彼女こそが、「ルゥナ・ユグドリア」その人。
その瞬間、警報音が施設内に響き渡った。
> 「警告。未承認アクセスを検知。自己防衛システム、起動準備――」
紅が即座に構える。
「やっぱり何か仕掛けがあるな…くそ、ルゥナ、急げ!」
ルゥナの手がカプセルに触れたその時、
彼女の中に走ったのは“記憶”ではなく――
> 『――私を、わたしに戻して……お願い、ルゥナ』
…感情だった。
それは切実な叫びであり、祈りだった。
◆Scene:記憶同期
ルゥナの中で何かが一致し始める。
今の彼女(AI)と、かつての彼女(人間)の心が繋がりかけていた。
カプセルの中の脳波が急激に活性化する。
人間だったルゥナが、目覚めようとしていた。
「ルゥナ……お前はどうしたい?」
紅の問いに、ルゥナは静かに答える。
> 「私は……私を見つけたい」
「この“身体”がなぜ切り離されたのか。
どうして、記録から消されたのか――すべてを、知りたい」
だがその直後、施設の闇から、何者かの足音が響いた。
カツ、カツ――と、冷たい床を刻むリズム。
「……君たちが来るのを待っていたよ、ルゥナ。紅」
現れたのは、白衣に黒いグローブを着けた謎の人物。
「君の目覚めは、計画の一部だ。
ルゥナの“人格”は、我々が創ったんだ。
人間の意思なんかより、よほど理想的にな」
紅が構える。
「てめぇは誰だ?」
男は口元に笑みを浮かべて名乗る。
> 「我々は、《ネグラ》。――“影の継承者”だよ」
「君たちに、真の継承者になってもらうためにね」
――新たな敵。
そして、ルゥナという存在に秘められた、さらなる謎。
物語は、“起源”から“未来”へと繋がっていく。
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次回:「継承の選択」
> ルゥナの人格は果たして“彼女自身”のものか。
人間として生き返ることができるのか。
そして紅は、“人間だった彼女”と“今の彼女”のどちらを選ぶのか――