20話:動き出す【side 陛下】
第二皇子の姿はなく、フロアに残った男爵令嬢……オリヴィア・ペーシェントは、当てつけなのだろうか。次から次へと相手を変え、ダンスを踊っている。
しかも媚びるような目つきで、自身と踊る令息を見るのだ。
令息は相手が第二皇子の婚約者と分かっているはずなのに。
思いっきり鼻の下を伸ばしている。
でもこれは仕方がない。
男とはそういう生き物なのだ。
ということでしばらくは、令息に愛想をふりまき、彼らがメロメロになる様子を見てご満悦な男爵令嬢を眺めることになったが――。
「陛下」
ルーカスが私に近づく。
「嵐の前触れかもしれません」
耳打ちされ、それが前兆であると確信する。
「ルーカス、その情報をあの男爵令嬢の侍女に伝えてやれ」
高位な身分の令嬢は、侍女を舞踏会へ同伴していた。控え室に待機させ、場合によっては会場へ連れてくる。会場で侍女たちは、目立たない場所に待機し、不測の事態へ備えていた。
主にドレスにトラブルがあった時の対処や主の求めに応じ、飲み物を提供したりと、その役目は多岐に渡る。
ルーカスは男爵令嬢の侍女に近づき、声を掛けた。
相応に見た目のいいルーカスに声を掛けられた侍女は、満更ではない顔をしているが……。ルーカスの話の内容にハッとした表情になった。そしてその目はダンスを踊る男爵令嬢へ向けられる。
まさにおあつらえ向けのタイミングで曲が終わった。
パートナーチェンジの時間だ。
侍女は少し早歩きで男爵令嬢のところへ向かう。
新たな令息からダンスに誘われた男爵令嬢は、近づく侍女に眉をひそめる。
通常、侍女は呼ばれないと動かない。でも自ら動いたということは。それは急ぎの知らせがあるということだ。
例えばドレスに、本人の気づかない部分でトラブルが起きている……それを男爵令嬢は想像したようだ。しきりとドレスの状態を気にしている。令息も「どうされましたか?」と声を掛けていたが……。
男爵令嬢のいる場所へ到達した侍女が、彼女に耳打ちした。
くいっと片眉を上げた男爵令嬢は、令息に挨拶することなくその場を離れる。令息はその不作法に呆然とし、男爵令嬢に付き従う侍女が、代わりに頭を下げていた。
男爵令嬢のこのような些末の行為の積み重ねで、皇族に対する評価は落ちて行く。それに気付いていない時点で、やはりあの男爵令嬢は……皇族の一員になる品格が、まったく足りていない。
役目を終えたルーカスが戻って来たので、私も動き出すことにした。
「ミラのことはちゃんと見守っているのだろうな?」
「ええ、そこは抜かりなく。ただご令嬢三人と楽しそうにお話をしており、そちらは問題ございません」
それを聞いて嬉しくなる。
この帝国に、自分のことを分かってくれる人はいないと、ミラはどこか諦めた気持ちを持っていたと思う。
だがシルフィー男爵令嬢と、彼女と一緒にいたハーモニー伯爵令嬢やミンティー子爵令嬢。彼女達は違う。誰かから聞いたミラの話ではなく、直接会話し、ミラのことを知ろうとしたのだ。
ミラと話せば分かるだろう。社交界で聞かされたような、爵位の低い令嬢を馬鹿にするような女性ではないと。
今、お互い別々の場所にいるが、ミラが笑顔でいるなら……それはとても嬉しい。
「そんな顔をなさって。完全に骨抜きですね」
「それは否定しない。わたしは婚約者にゾッコンだからな」
「それなのにややこしいことをして……陛下は」
ルーカスの小言を聞きながら廊下を進む。
だがしばらく進むと、ルーカスが口を閉じた。
目配せで確認することになる。「ここなのか」と。
ルーカスはコクリと頷く。
その部屋はまるで死角にあつらえたような部屋だった。
使い道はいろいろありそうだ。
舞踏会で知り合った男女の情事のために。暗殺を目論む内部の人間の、悲劇の舞台としても使えそうだ。
太い柱もいいカモフラージュになっている。
そしてまさにその柱の陰に潜むように。
男爵令嬢と侍女の姿が見えていた。
後は役者の登場を待つだけか。
舞台は整った。
嵐はまさにこれから吹き荒れようとしていた。
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『宿敵の純潔を奪いました』
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