21話:だってその令息は……
三人は社交界の噂を鵜呑みにし、私のことを誤解していたと謝罪してくれた。その上でシルフィー男爵令嬢は、こんな風にも言ってくれる。
「私は男爵令嬢で、格下ですが、エッカート公爵令嬢は気持ちよく話をしてくれました。そんなエッカート公爵令嬢が、ペーシェント男爵令嬢に冷たい態度をとっているとは……思えません」
「ありがとうございます。そう言っていただけて、とても嬉しいです。パーティーではあまりのショックで弁明できなかったので……。でも気づきを与えたというその令息、どちらの方なのでしょうか?」
シルフィー男爵令嬢は「おや?」という表情になり、逆に私へ問い掛ける。
「結局名乗ることはなかったのですが、エッカート公爵令嬢はご存知なのでは? その彼は、あのパーティーで意識を失われたエッカート公爵令嬢を支えた令息ですよ」
これには心臓が大きく跳ね上がる。
だってその令息は……イグリスだと分かったから!
ただイグリスから話を聞いたところ、招待されていないバースデーパーティーにお邪魔することになったので、少し変装していたという。私が目覚めた時、その変装は既に解いていたが。
つまりあのパーティーの場で、気絶した私を支えたのがイグリスであること。実は気づかれていなかったのだ。
それでもそばにルーカスがいた。よってアルセス国王に従い、帝国に来ていた騎士が、ひょっこりパーティーに顔を出したのだろうと思われていたのだ。そして騎士道精神に従い、気絶した私を支え、その騎士はホールを出る。そこで主であるイグリスとばったり出会った。イグリスは自身の部屋で私を介抱することになり……というのが表向きの説明になっていた。だが変装していたとか、細部までは公表していない。
だからシルフィー男爵令嬢も、会場で私を助けた人物のことを「令息」と呼んでいるのだ。会場を出た後、私が休む部屋を提供したのがイグリスだと思っている。まさかあの令息=イグリスだとは夢にも思っていないのだろう。
「その令息は、私以外とも沢山ダンスされていました。きっとそのダンスをした令嬢にも、私と同じ質問をしていたと思います。……その令息のおかげだと思うのですが、エッカート公爵令嬢と直接話したいと思っている令嬢。実は今、沢山いると思います。皆さん、遠慮して声を掛けられないようですが……」
これには胸がとても熱くなる。
前世の覚醒が遅かった。
自分が転生者であり、ここが甘恋の世界で、悪役令嬢であると知った時には……。
婚約破棄され、修道院送りか、幽閉かという断罪を突き付けられた状態。ゆえに断罪回避行動をとることもできなかったのだ。
オリヴィアがミハイルを攻略するために私を……ミラの言動を誇張して周囲に伝えていた。だがそれを否定(断罪回避)する行動を、ミラはとることもなかったのだ。
でもそれは仕方ない。前世記憶も覚醒していないし、乙女ゲームの、甘恋の知識もないのだ。それにまさかそんな攻略方法を、ヒロインがとっているとは思わないのだから。
それにミハイルも協力し、皇族の立場で宮殿の舞踏会や晩餐会で、情報操作をしていのだ。さらに言えば、ここはヒロインであるオリヴィアが一人勝ちするための世界。悪役令嬢はそのためのかませ犬のようなもの。攻略対象とヒロインが結ばれるための踏み台。悪評に甘んじて当然であり……。
そんな状況だったので、悪女と思われたまま、帝国を立つことになると思っていた。
だがイグリスが私の知らないところで動いてくれたおかげで、少しずつ誤解が溶けていることが分かった。
どうしてイグリスはこのことを、私に話していないのだろう?
偶然通りかかったなんて言い方しかしていない。
実は私の汚名をそそぐような行動をしていたと話したら、恩着せがましくなるとでも思ったのかしら?
もしそうであるならば……。
イグリスは悪役令嬢であるミラを悪女として利用するつもりでいる。でもそれは取引の条件であるし、私は気にしない。
ただ、そんな条件を出しているけれど、イグリスはとんでもなくいい人だと思う。
イグリスに対する評価が私の中でうんと上がる。
「皆さんがエッカート公爵令嬢に声を掛けられないのは、一方的な話を鵜呑みにしてしまったこと。そこに後ろめたさを感じているからだと思います。何よりも今日のエッカート公爵令嬢を見たら……。そんなひどいことをする人物に見えないと、皆、確信したと思います。それにアルセス国王陛下とのダンスも、とても優しい愛に溢れていて……」
シルフィー男爵令嬢はそこで少し声を潜める。
「正直、第二皇子とエッカート公爵令嬢が一緒にいらっしゃる時、そういう雰囲気は感じられませんでした。遠くで眺めているだけでしたが。よって完全に政略結婚だろうと思っていました」
シルフィー男爵令嬢のこの発言に、ハーモニー伯爵令嬢もミンティー子爵令嬢も追随する。
「それはわたくしも感じていました。第二皇子も義務的な感じに見えましたし……」
「それでいてエッカート公爵令嬢の体をじろじろと見ていて……」
これにはもう苦笑するしかない。
ミハイルの欲求不満には皆、うっすら気付いていたのね、と。
ここまで話した私達は、完全に打ち解けることができた。
アルセス王国へ向かっても、彼女達とは文通をする約束をしたし、結婚式にも招待すると勢いで言ってしまったが……。
この婚約は取引。結婚式を挙げるのは実際、私ではない。
でも今はそんなことは言えなかった。
そこを思うとほろ苦くなるが、それを分かった上で取引に応じたのだ。
気持ちを切り替え、話を終えることになった。
シルフィー男爵令嬢達はレストルームへ向かうことになり、私はイグリスの元へ戻ることにした。
























































