37:狗舘と狐宮
「……当主?猟太狼くんが??」
「はい、まずはそこからお話したいのですが…まずはお屋敷に行きましょう。お2人も長時間の移動で疲れてるでしょうし」
用意されていた車に乗せられ気がつくと狗舘の屋敷に到着していた。昔ながらの和風な雰囲気のお屋敷で、周りを見渡すと馬小屋や小規模な牧場もあるようだ。
荷物を用意された部屋に置いて居間の方へ向かう。……広すぎてここの部屋まで戻ってこれるか心配になるな。えーと、こっちじゃなくて…ここはキッチンだし…あっトイレみっけ。
「いやーお待たせしました……」
「い、いえ全然待ってない…です!」
「ごめんごめん、彼方と一緒に行けば良かったね」
何とか居間まで辿り着き用意されていたお茶を一杯……美味い。
「それじゃ早速ですが、まずは雨音さんの疑問を解消しましょう。…結論から言います。私の父にして先代当主、狗舘輝也は2週間前に亡くなりました」
「っ!? 輝也さんが!?」
猟太狼くんのお父さんって確か……内閣の大臣じゃなかったっけ?いやてかそうじゃなくて……!
「2週間前って…!僕そんなニュース全然知らないんだけど!?」
「情報統制と言うやつです…如何せん急な事でしたので」
「でもなんで…わたしが最期に輝也さんに会ったのは1か月前だよ!? その時はまだお元気だったのにっ……!」
「……大鷲山の医者から聞かされたのは『急性の心臓発作』とだけです。正直まだ僕も受け入れられてないんです」
……12の子供が急に当主だもんな。今もいっぱいいっぱいだろうし…こういう時は何か言ってあげるべきなんだろうけど…
「……でも泣き言は言いませんよ、僕はもう狗舘家の当主ですから。あと、雨音さんと彼方兄ちゃんの頼みなら断る理由がありません。もちろん引き受けさせてもらいます!」
そう言った猟太狼くんの瞳は少し潤んでいて、声も震えていた。……ここで慰めの言葉も一つ思いつかない自分に嫌気がする。
「……ありがとうね。でも無理はしなくていいから、泣きたい時はしっかり泣いてもいいんだよ」
「い、いえっ!!もう母と泣けるだけ泣きましたし、あとはもう新たな当主として狗舘家を支えるしかないんです!」
そうやって語る猟太狼くんの目を僕は見れなかった。なんだか眩しくて、貰い泣きしそうだ。
一旦休憩を取り、改めて姉ちゃんが状況を説明し始めた。猟太狼くんも輝也さんもその事には少し疑念を持っていたらしく、2人で本殿に出向く時に聞こうとはしていたらしい。しかしそこで急に容態が悪化したらしくそれどこれではなくなり一旦有耶無耶になったのだとか。
「じゃあ丁度そちらで行動を起こそうとした時に偶然僕らがやってきたんだ」
「そういう事です。しかし、父がいない現状狗舘は今少しバタついているので後ろ盾になれるかどうか……いや、もちろんそれでも助けになれればとは思うんですけど…!!」
む、確かにそうか。猟太狼くんはいいにしても部下の皆さんはそうはいかないよなぁ。
「それなんだけど……実は、狐宮家の方にも話通しておいたの」
「狐宮って確か……あのメディア一族の??」
「そう、あそこも兎ヶ崎だし」
「え、初耳……なんだけど」
どんどん知らなかった情報で脳内が埋め尽くされていく……こんなにも家のこと知らなかったのか……
「こ、狐宮ですか……確かに応じてはくれそうですけど……」
なんだか苦い顔してる……なにか因縁とかでもあったりしたのかな??
「い、いえ大丈夫…大丈夫です。明日、狐宮のビルに行きましょう。僕からも連絡しておきますので」
その後は昔話に花を咲かせたり最近のあった事とかを茶菓子とかを食べながら話したりした。そこら辺でようやく猟太狼くんも色々緊張が解けて来たのか距離感がググッと縮まった気がする。
そしてあっという間に夜に、風呂も入ってあとは寝るだけだけど……逆に静か過ぎて寝れるか分からん。一応今…というか大学いってた時は割と都会の方に住んでたから、夜中でもまぁまぁ車とかが通った音とか街灯の光でたまーに目が覚めるのが日常だった。でも今は人工の光も無ければ騒音すらない真っ暗なのだ。都会に慣れすぎて田舎の静けさが睡魔を阻害するとは……
当分寝れそうにないけど電気は消して布団へ入る。そして今日の猟太狼くんの話を反芻する。
確かに悲しい出来事だとは思った。共感もした。でも響かなかった。理由も道理も理解出来るのに僕の心は一切揺らがなかった。身近な人の悲しい出来事なのに慰めの言葉すら出なかったのはどうやっても他人事にしか思えなかったからだった。貰い泣きしそうとか思ってたけどそれは自分が普通である為の言い聞かせだった。本当は何も思えなかった。
昔からこうだった。毎日遊んでいた友達が病気で亡くなった時、悲しかったはずなのに、死が何かを理解出来ているはずなのに涙すら出なかった。それを義母と義父に伝えたら何故か泣かれた。可哀想だと慈しんでくれているのだろうけど僕にはそれが本当に理解出来なかった。
今でもそれは続いたままで一向に治る気配は無いが、声のトーンとか表情の『フリ』だけは上手になった。それのせいで思考も『そうあるべき』だと思い込むようになり、たまに自分の考えてる事が演技の思考なのか素の思考なのか分からなくなる時があったりする。共感性の欠如が治るものなのかどうかも分からないけど、いつか誰かの為に笑ったり泣いたりしてみたいのはある…と思う。
「……嫌なこと考えすぎたな」
布団から起き上がり、水を飲みにキッチンへ向かう。暗すぎてどこかどうなってるのか一切分からないので壁に手を当てながらゆっくりと歩く。
少し苦労したが何とかキッチンへたどり着く。少しぬるい水を数杯飲んで一息つく。こんな性分だが誰かの為に頑張りたいと思えるのはまだマシなのかもしれない…これは多分無くしちゃいけない感情だ。だから…うん、頑張ろう。分からくてもいいから、身近な誰かの力になれるように、僕が届く範囲で精一杯もがいてみよう。それで死んだらその時はその時。
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翌朝、狐宮の家へ向かうはずだったのだが……あれ? 姉ちゃんも猟太狼くんも見当たらない…?おっかしいな…10時には出るって言ってたのに、玄関に誰の気配もないじゃんか。家の中をぐるりと回ってみても気配の一つもない……部屋を覗いてもいないし、どこに行ったんだ?
居間に出てみると、テーブルの上にメモが置いてあった。筆跡から見て姉ちゃんの字だろうか、どれ内容は……
『彼方へ。多分今日の話はかなり政治的になりそうだからお留守番よろ』
数秒フリーズした後自分でもびっくりするくらいどデカいため息がでた。僕を連れてきた意味わい……仕方なく居間でワイドショーをボーッと観ていたらテーブルの横に置いてあった固定電話が急に鳴り出した。うわビックリした!?恐る恐る受話器を取り電話に出る。
「も、もしもし……」
『彼方兄様……ですか?』
「に、兄様??確かに僕は彼方ですけど……どちら様です?」
『あっ、失礼しました。では改めて…初めまして、私は狐宮恋華と申します。今の当主の娘…って言った方が分かりやすいですかね』
なんとまぁビックネームな……しかし、なんで電話なんかしてきたんだ?
「なるほどなるほど……それでなんで電話してきたんですか?それに僕が狗舘の家にいることも…?」
『それはですね、あのバカ…じゃなくて、猟太狼から無理やり聞き出しました!』
「バ……」
……聞き間違いだろう。うん、そうに違いない。
『で、電話した理由が、彼方兄様にもこちらに来て頂きたいのです。迎えはこちらから寄越しますので』
「いいけど……僕なんかが行っていいの?ほら一応部外者だし……」
『もちのろんです!雨音姉様も猟太狼も私がしっかり叱っておいたので気楽に来て頂けると嬉しいです!それでは!!!』
……パワフルな子だったなぁ。ま、荷物はまとめてるし迎えの人らが来るまで昼寝でもしとくか。




