36:兎ヶ崎一族
「……ほーん」
なんか……別に「へぇ」としか思わんが。僕の順位が上がったのはまぁどうでもいいし、Xランクが増えたから何か変わる訳でもないから特に感想も何もないな……
「それで……これがどうかしたの??姉ちゃんにしては珍しく声荒らげてるし」
「……ここの増えた人達全員覚えてないの?」
え、僕この人らと会ったことあんの?うーん……1人を除いて全く馴染みのない名前ばっかだけども…
「悠ノ真さんは名前だけは知ってるけど、それ以外の4人は全然知らないよ」
そう言うと、姉ちゃんは一瞬ハッとした顔をした。ん?僕の顔になんか付いてる??
「……ごめんさっきのは忘れて」
「はぁ」
なんだろう…なんか変な事言ったかな僕。いやでも……あれ、どっかで見た事……あるのか?
「改めて……説明するとここの人達全員兎ヶ崎の関係者なの。それも本殿に招集されるくらいの」
「……マジ?」
「うん、大マジ」
兎ヶ崎一族
それは日本で唯一の『貴族』であり、世界経済の40%を掌握している一族である。その気になれば一族のみで国を創り、経済を回すことのできる圧倒的な財力と世界人口の約8%に兎ヶ崎の血縁者がいるというコネの広さ。『兎ヶ崎重工』、『兎ヶ崎運輸』、『兎ヶ崎銀行』etc…世界に存在する企業の25%が兎ヶ崎の子会社であり『兎ヶ崎あるとこに世界あり』などと某国の大統領から言わしめる程である。経済の本家と文化の宗家に分かれており、その2つをまとめる現当主がギルドの副議長でもある兎ヶ崎銀ノ真である。
(狐宮世界経済新聞コラム『華麗なる兎ヶ崎一族:序章』から参照)
かく言う僕も家系図上は兎ヶ崎の血縁らしいのだ。聞かされたのは確か中校生になった時で、確かその時から妙に姉ちゃんからの絡みが極端に増えたんだよな。……正直あまりいい思い出じゃないから思い出したくもないんだけど、姉ちゃん以外の兎ヶ崎の人達は総じて僕に対しての当たりが強かったんだよな。罵詈雑言は日常茶飯事だったし、姉ちゃんに無理やり誘われたからよく家に行ってたけど、本音はマジで行きたくなかったんだよなぁ。
…確かあの時くらいから姉ちゃんに若干の苦手意識が芽生えて、今くらいの距離感になったはずだったし。あ、でもなんでか銀ノ真さんだけは優しかったな……本家や宗家の偉い人間でも滅多に会えないはずなのに何故か僕だけは頻繁に会ってた気がする……ま、偶然でしょ。
「しかし……なんでこんな急にピンポイントでXランクになったんだろ?偶然にしちゃぁ出来すぎだもんね」
「……あと8日。行って帰ってくるのに1日だから、うん……ちょっとしんどいけどイける」
「……あれ、もしもーし姉ちゃん?」
考え事してるのか僕の声が届いてないようだ。……あの猪突猛進な姉ちゃんが考え込んでるのちょっと珍しいな。
「ねぇ、彼方。お願いがあるんだけど」
おや?なんだか寒気が……
「ちなみにそれって断っても……?」
「わたしと一緒に本殿に来てくれない?」
「あれ!?もしもーし!!ぼくの声聴こえてる!?聴こえてるよね!」
「何か嫌な感じがするの……それに1人だとちょっと心細くて」
「ねぇ!聴いてます!?せめて返事してくんない!?おーい!!!!」
全然話聴いてくんねぇ……
その日の内に身支度させられまた飛行機に乗り日本へとんぼ返りした。大規模討伐があるのに帰ってきて大丈夫なのか……??
「……で?帰ってきたけどこれからどうすんの?」
「うん、とりあえず今から狗舘家に行くよ。手ぶらで本殿に行くのは結構きついからね。あっちはわたしと同じ気持ちのはずだからきっと後ろ盾になってくれるはず」
「狗舘さんとこか……確か東京市の端っこだったっけ?あんま覚えてないけどめちゃくちゃ田舎だったのはぼんやり覚えてる」
「そうそう、ちょっと行った先に『シブヤクレーター』とか『シナガワ大霊園』があるとこ」
「あーはいはい、思い出した思い出した!」
あそこの人達は厳しかった兎ヶ崎の人達から庇ってくれたから結構安心して会えそうだ。しかしなんであんな戦没者を祀ってる場所に家を構えたんだろうか?確か昔は日本の首都だったらしいけど、それも第三次世界大戦があった50年くらい前の話だし。ま、騒音とか無さそうだから住みやすそうではあるけど。
「じゃ、早速向かおっか。アポも取れたし」
「はいよ。あ、お土産とか買ってく?」
空港からリニアと在来線で揺られて2時間半、そこから路面電車に乗り換えて30分、加えて高速バスで1時間。ようやく東京市へ到着した。終戦から50年経ってるにもかかわらず未だに瓦礫や廃墟でいっぱいで、人の気配なんて僕ら2人以外に一切感じられない。
「……いい加減ここも片付けたらいいのに」
姉ちゃんはポツリと呟く。あーえっと確か……ここに触れる事を兎ヶ崎が禁止したんだっけか。なんでも超強力な有害物質が埋まってるとかなんとかで。でも姉ちゃんの反応を見る限り……
「さ、行こっか。ここからまた市外周回のバスに乗るからね」
「おっけー」
観光目的で作られたであろうデカいタワーの残骸や、昔の偉い人達が住んでいたどデカい家のようなもの、さらには昔の駅だったであろう残骸などをバスから眺めながら、兎ヶ崎の人達から嫌ほど聞かされ続けできたことを久々に思い出す。
僕の母『兎ヶ崎春風』は兎ヶ崎の養子だったらしく、それはそれは大事に育てられていたのだとか。家の全員から可愛がられて一国のお姫様のように扱われていた。僕の父『志嶋神弥』とも家族の紹介で出会ったらしく、トントン拍子で結婚してすぐに僕が産まれたのだ。僕も昔は家の人達に可愛がられていたようだった。
それが僕が5歳になったある日、2人は僕を連れ出し兎ヶ崎の家から逃げ出した。逃げ出した理由はあちらも聞かされておらず、一族総出で探したのだがまるで見つからなかったらしい。で、ようやく見つけたら2人とも事故で無くなっており、僕も全身に大怪我をおって2週間ほど生死の狭間を彷徨っていた……らしい。
ここまでの記憶がここまであやふやなのは、その事故で負った頭の傷のせいで脳の記憶を司る領域にダメージがあったそうで、目覚めた時には僕自身も何も思い出せなかったのだ。姉ちゃん曰く、そこから人が変わったように兎ヶ崎の人達から冷遇され、いない物として扱われていったと聞いている。
19になった今でもその時のことは何も思い出せず、父と母の顔と声すらも一切思い浮かばない。何度か写真を見せられたが、郷愁に浸ることもなく他人の写真を見ているようだった。
……おっ、もう着きそうだな。隣で寝ている姉ちゃんを起こしてバスから降りる。昔は五反田と呼ばれていた所で、目の前には先程の瓦礫まみれな街並みとは違い、土と緑の匂いがするのどかな田園が広がっていた。少し道に沿って歩いていくとちょっとした街……というか、宿舎のようなものがあり、どうやらもう既に狗舘家の敷地に入っていたっぽい。
すると目の前から使用人を連れた子供が僕らの方へと向かってきた。あれ、あの子って確か……
「お久しぶりです、雨音様。それに……か、彼方お兄ちゃん」
「うん、久しぶりだね。猟太狼くん。元気にしてた?」
「え、猟太狼ってもしかして……あの!?おっきくなったねぇ〜!!」
「こ、子供扱いはやめてくださいっ!! これでももう12ですから!」
「いやーほんとに久しぶり。会うの6年振りくらいになるかな?」
「えぇ、でも積もる話は後でしましょう…彼方お兄ちゃん。では、改めて……ようこそ、狗舘家へ。僕が狗舘家二十代目当主、狗舘猟太狼になります。歓迎いたします、雨音様、彼方様」
ちょいツンデレが入った猟太狼くんをよろしくお願いいたします。
メイン組の誕生日
彼方…4月10日
雨音…11月15日
美鈴…3月3日
峯吉…6月8日
ジーナ…4月26日
ユリウス…1月2日
猟太狼…5月18日




