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67 サラマンダー①

 ジユイの意識が戻った頃──、リドゥは月光洞窟の更に地下を掘り進めていた。


 モッチャレワームを攻撃した生物の危険性を確認するためだった。とは言ってもただ正体を確認して終わりではない。

 時はモッチャレ鎮圧直後まで遡る……。


 ◆ ◆ ◆


「おいリドゥ。おまえさんは少し休んだら、モッチャレを負傷させたモンをスカウトしに行けい」


 皆で身体を労わんと『魔力源泉の間』を目指していた帰り道、隣を歩いていたファランが不意にそう指示してきた。

 これに僕は勿論「はい?」と包み隠さず首を傾げれば、彼まで「何を不思議がっておる?」と首を傾げる。


「モッチャレの再生能力と噛み合ったのもあろうが、あやつに重傷を負わせる実力があるんじゃ。なればジユイに備えて味方に引き込んだ方が都合良いじゃろう?」

「それ本気(マジ)で言ってます? 調査に行こうとは思ってましたが、ジユイはあくまで僕が招いた問題であって、決戦日は地上に出ないようになんなら遠くへ避難するよう伝える気でいましたよ(ぼか)ぁ。徒に巻き込みたかぁないですよ」

「たわけ」


 異議を唱えれば角にチョップを入れられ、振動が脳まで響く。(いて)えなコノヤロー。


「巻き込む云々は同胞を思えば今更じゃろうて。前にも言うたが、儂は過去の戦闘でジユイを取り逃しとるんじゃぞ。滅喰龍(ボケカス)が乱入してきた所為もあるがの」


 これに「っ……」と僕は口を閉ざす。

 今回はファランが撤退させたものの、ジユイはファランから逃げおおせてみせているのだ。滅喰龍の乱入で逃げの一手になるのは妥当の判断だが、古龍の乱戦から帰還するのは容易ではなかったろうから、それだけで実力は十二分に察せられる。

 それを思えば、彼の言う通り、スカウトは理に適っていた。


「それに──、お主はジユイに一度殺されとるのだ。易々とくたばらせたりせんよう儂が鍛えとるが、きっと率いてくるであろう冒険者どもは誰が相手する?」

「うぐっ……」


 痛いところを突かれて、反論に用意しといた言葉が吹っ飛んでしまう。

 大人しく「魔族の仲間たちです……」と返答すれば、彼は「左様」と言って続ける。


「ならば同胞らの負担が減るよう頭数は増やしとくに越したことはない。戦力を揃えとくのも主君(リーダー)の役目じゃ。違うか?」


「ッ…………!」


 全くの正論に返す言葉も見つからない。

 この議論、完全に僕の負けだ。


「……向こう次第ですよ」


 ◇ ◇ ◇


 という訳で僕は今、モッチャレを傷付けた生物が居るだろう地点を目指しているのだった。

 モッチャレの体内に刺さっていたのは、獄石炭を採掘できる深層の岩石だった。ファランは「そうなんか?」だったが、冒険者(実質採掘者)時代に散々掘ってきたのだから見間違えるはずがなかった。

 しかし、獄石炭はマントルに近い地中──即ち超高温地帯に生成される。故にそこまで到達するには仲間が必要だった。


「月光虫。もう少し上のところ照らしてくれ」

「ぷぃ〜ん……」

「ありがとう」


 僕の頭上を飛ぶのは月光虫。元々は岩石を主食とする『イワクイムシ』だったが曰く、月光石のつまみ食い中に魔力源泉に呑まれた末に、腹部から月光を発する体質になったのだ。


 進路が照らされ断然掘りやすくなる。それはそうと……やけに息苦しい。空気が薄くなってきたのだ。


「イリ。そろそろお願い」

「モケッ」


 こちらの要望に『樹精霊・風導のイリ』は応え、空気を循環させる。やはり掘り進めていくにつれて空気が薄くなるものだから、層が深くなる度に風を強めてもらっていた。

 連れてきた理由は他にもある。調査に乗り出す際、火山地帯で生じる不可視の毒ガスを除去する目的もあった。これについてはファラン曰く「(火山が)活動停止して長いし、お主らの体質の変化もあって問題ないじゃろ。多分」とのこと。そこは断言してほしかったが、それを手放しに信じて来ている僕も大概である。


 そんなイリを肩に乗せているのは、リドゥの後ろをついて歩く『人狼のレッド』。足の速い彼は緊急脱出要員だ。

 何せ、今目指しているのは獄石炭……が生成される地中深層。潜れば潜るほど事故った場合の脱出が困難になるのだから、人ひとり抱えられて且つ素早く離脱できる人材は必須だった。

 尚その際、同様の身体能力を持つ『豹人のゴウ』も候補に上げたが直ぐに取り下げた。モッチャレとの戦闘時を見るに彼は想定外の事態に弱い節があり、ならば刃牙獣の一件以来、平常心で動けるレッドに軍配が上がった。

 そんな彼の役割はもう一つ……──、


「リドゥ。左斜めから空気音」

「おっけぃ」


 彼の聴力は僕には聞こえない音すらも拾い上げていた。おかげで途中途中「そっちから嫌な音」「水音が聞こえる」と幾度となく危機を脱している。


「おっとと……」


 言われた通りに進路を変えると、程なくして空洞の高いところに出た。危うく足を踏み外すところだった。


「んうっ……」


 低い位置に掘り直して足を踏み入れると、中は拠点同様に月光石で照らされていたが、しかし妙な熱気が漂っていた。ラネリア周辺は火山地帯だったというし、その名残りだろうか?

 だとすれば、例の岩石が生成されている可能性が高い。調べてみる価値はありそうだが、その前に……──、


「イリ。君は帰った方がいい。体質的に身体が持たない」

「モッケイ」


 イリは素直に撤退を聞き入れる。身体が植物由来である以上、引火の可能性がある場所には連れて行けない。焚き火を扱っといて今更だが……。


「ここまで来てくれてありがとう。レッド、イリを生活域まで送ってきてくれ」

「おう。イリ、行くぞ」

「モケッ」


 二人は来た道を引き返していった。それを見届けて僕も「それじゃあ、引き続きよろしく」と月光虫を予備光源に奥へ進んでいく。


「あっ……!」


 帰り道の目印に小枝を落としながら暫く歩いていると、巨大な穴を見つけた。明らかに自然生成とは思えない力でくり抜かれたような形跡で、しかも穴付近から岩石が深層特有のものに変わっている。

 間違いない。モッチャレが通った痕跡だ。となれば、例のトゲで攻撃した生物も近い。

 モッチャレの通り道はかなり奥まで続いているようだった。当てずっぽうで空洞を歩き回るよりも、コレを辿った方が時短になるやも?


「とはいえ、どっちに進もう……」


 モッチャレの通り道は二つある。ここで二択を外して時間を浪費するくらいなら、黙って空洞を進むべきか?


「ぷぃ〜ん……」

「んぁ?」


 僕は傾げていた顔を上げる。不意に月光虫が左の通り道へ飛んでいったかと思えば、少し進んだところでこちらを振り返り、ホバリングを始めたのだ。


「……もしかして、案内してくれるの?」

「ぷぃ〜ん……」


 月光虫は、こちらが目を合わせると踵を返して、奥へと向かっていった。僕には分からない魔力でも感じ取ったのだろうか?

 だとしたら話は早い。他に当てもないし追いかけてみよう。


 僕は用心しながら月光虫を追いかける。途中から熱気と魔力を感じながら灼熱に包まれた巨大空間に出てみれば……──、


「! アレは……!」


 その中央には、炎を身に纏う蜥蜴が、宙に浮きながら眠っていた。


「なんてこった……!」


 驚愕しながらリドゥが見つめるのは『火蜥蜴・サラマンダー』。発見難度なら龍・竜に勝るとも劣らない『炎の精霊』とも呼ばれる希少モンスターだ。

 しかも、過去発見事例の「暖炉の火に偶然その姿を見た」と違い、天然の炎に包まれた状態は過酷な環境故に希少中の希少! それに立ち会えるなんて思わなんだ!


 まぁ、冒険者でない今となっては「だからなんだ」だが。


 それでも、発見には実力以上に天運が大きく作用する存在なのには代わりない。またとない機会に、思わず一歩踏み出したそのときだった。


 ──ボボッ……!


「ん……?!」


 突如サラマンダーを覆う炎がゆらりと形を変えたかと思えば次の瞬間! サラマンダーを中心に炎のムチとなってリドゥに降り注いだ!


「おわっ!?」


 僕は瞬時に魔力を纏い、次々と『消滅』させていく。一体何がトリガーになった?!


 ──ジュワァッ!!


 と、考察を始めようとした刹那──! 天井の鍾乳洞が根元を溶かされ、こちらめがけて落ちてくる!

 片手で炎を凌ぎつつイケるか?! 重傷覚悟で左手を頭上に伸ばそうとしたそのときだった。


「んぼっ!」


 死角からタックルされながら、僕は一旦攻撃から逃れたのだった。その死角からの急襲者は──、


「レッド!」

「状況は?」

「! ……一歩近付いたら攻撃された! 一旦鎮圧したい!」

「了解」


「ボオォオォオオッ!!!!!!」


 二人が立ち上がると同時、サラマンダーの炎が勢いを増した。

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